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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    4/30ワンライ
    お題【アセトアミノフェン/八月/まやかし】
    薬を濫用する夏油と何も出来ない五条のお話です。さしすが風邪をひきます。高専時代と教師時代のお話。

    #夏五
    GeGo

    甘い、熱い、苦い 一、
     八月のある日、傑の机の引き出しの中から大量の薬を見つけた。俺はそれを部屋に持って帰ってゴミ箱に捨てたが、その次の日に探ると、薬は二倍の量になって傑の引き出しの中に入っていた。それ以来俺は傑の机の中を見ていない。ただの風邪薬じゃないか、そう思ったので。そう思わずにはいられなかったので。そう思わなきゃ恐ろしすぎたので。 
     
     
     二、
     傑の手のひらは熱い。彼は特に体温が高いわけではないが、なぜか俺を触る時にだけ、傑のそれは熱くなる。興奮するからだろうか? それとも俺の体温が下がっているのだろうか?


     三、 
    「硝子の風邪、早く治るといいな」
     八月、硝子が風邪をひいた。原因は過労。反転術式の使いすぎで、身体が悲鳴を上げたのだ。彼女はそれでも任務にあたろうとしたし、上層部もそうさせようとしたので、夜蛾先生が抗議し今は病室で眠っていた。でも、病室で煙草を吸ったので、それはさすがに先生に怒られていた。
    「そうだね。私もちょっと風邪気味でさ。診てもらうほどでもないんだけど、やっぱり病院に行ったほうがいいかな」
    「どうだろうな」
     早く病院に行って欲しい気持ちと、そこで貰う薬も乱用するのではないかという気持ちで、俺は何も言えなかった。その間にも俺たちはキスをしていた。彼の唇はアセトアミノフェンの味がする気がしたけれど、それはまやかしだったのかもしれない。それこそ、俺たちの恋愛の方がまやかしだったのかもしれないな、今ならそう思う。
    「好きだよ、傑」
    「偶然だね、私もだよ、悟」
     だったら薬を飲むのをやめて俺に相談しろよ。薬に頼るなよ。硝子みたいに医者に頼れよ。俺はそう言いたくて、けれど言えなくて、俺は傑に抱きついた。
     彼は何も言わなかった。
     薬を捨てたのが俺だとは彼は知っているだろう。それでも薬の量を増やしたのは、俺が頼りにならないからだろう。彼はどこかで俺を拒絶している。拒否している。見下している。自分のことを助けてくれないと、指針にはなってくれないと、そんなふうに思っている。親友だというのに。彼はそう言ってくれたというのに。
    「偶然なら、よかったんだけどなぁ」
     俺がそう言うと、傑は笑って、「運命さ」と応えた。俺はその言葉に、じきに何かよくないことが起こると、そんな予感がしてしまった。
     
     
     四、
    「あんまりその薬飲むと良くないよ。漢方を処方してやるからこっち来な。熱があるかも」
     虎杖たちの授業を抜け出して硝子の部屋に行くと(聞きたいことがあったのだ)、俺が風邪薬を飲んでいるところを見られてしまったのかそう言われた。彼女の言う通り、俺は傑がかつて濫用していた薬を飲んでいた。最初のうちは傑が残していった分を飲んでいたが、それがなくなるのはどうしてか恐ろしくて、同じものを薬局で買っている。けれどそれも良くなかったのか、硝子は俺を診察して「やっぱり風邪だ」と眉をひそめて、苦そうな、銀色の袋に入った薬を差し出した。
    「定期的に診てやるから絶対に来いよ」
    「うん」
    「あの薬は捨てろよ。夏油が飲んでたやつだろ」
    「……うん」
     硝子はなんでも知っていた。俺はそれが嬉しくもあり、恐ろしくもあり、傑が残していったものを捨てられない自分が怖かった
    「捨てるよ、捨てるから、うん……捨てるから……」
     俺はなぜか泣きそうになって、苦い薬を飲んだ。硝子はそんな俺を見つめていた。彼女は俺によりそってくれる。俺が傑に出来なかったことをしてくれる。俺はそれが嬉しくて、それが出来なかった自分が虚しくて、漢方の味を舌に乗せた。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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