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    いかぴい

    小説超初心者です。妄想のままに書き連ねています。

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    いかぴい

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    エレンが訓練兵時代のライナーとの思い出を、事あるごとに思い出してしまうお話です。
    米津玄師の「Lemon」という曲が、エレンがライナーを思う歌だと勝手に思ってまして、それをヒントにして書きました。エレンのライナーへの執着心が強いことが好きなので、エレン→→→→→←←ライナーという感じです。

    #おれおまおなじ4
    #エレン・イェーガー
    erenJaeger
    #ライナー・ブラウン
    linerBrown.
    #エレライ
    eray

    あなたは光時々、あいつの夢を見る。

    悔しくて、悲しくて、苦しかった日々。
    お前がいたから乗り越えられた。

    お前はオレの光。
    あのときも。今も。これからも。


        ◇◇◇


    「見て、エレン。姿勢制御訓練やってるよ。懐かしいね」
    「あぁ…そうか。入団の時期か…」

    アルミンが指差す方を見ると、訓練兵が腰から伸びるワイヤーで、左右から吊り下げられ、懸命にバランスを取っている。

    そのとき、一人の訓練兵がバランスを崩し、逆さになって、ぶらさがってしまった。なんとか上体を起こそうと、もがいている。でも、ああなってしまったら、もうどうにもならない。オレも経験したから分かる。あのときの恥ずかしくて情けない気持ちが甦ってくる。本当にいたたまれなかった。

    こんな初歩的なこともできないのかと絶望したオレを救ったのは、アイツだった。

    もうあれから四年もたつのか………………



    別の立体機動装置を装着し直し、オレはフーっと深く呼吸した。落ち着け…今度こそやれる!

    「お願いします!」

    キュルキュルキュル…

    滑車を回す音とともに、体が徐々に浮き上がっていく。これでまた転倒したら、今度こそ終わりだ…いや、絶対に終わらせるもんか!

    「お前ならやれるはずだ」
    そうだ、やれる!オレならやれる、オレならやれる、オレならやれる!………アイツに昨日言われた言葉を繰り返し自分に言い聞かせる。

    足が地面から離れる。腹を硬く引き締めた。集中しろ!…………倒れない!できている!さっきまでつけていた装置とは、ぜんぜん安定感が違う!

    やった!やれたぞ!オレが駄目なわけじゃなかった!これで兵士になれる!オレは天に向かって、両拳を突き上げた。

    あいつの助言のおかげだ!ライナーって言ったっけ?装置を外したオレは、すぐさま背の高い金髪を探す。いた!ライナーのところにまっすぐに駆け寄っていった。

    「ライナー!できたよ!ありがとな!お前のおかげだ!」
    「俺は何もしちゃいねぇよ。お前が諦めなかったからできたんだ。良かったな。頑張れよ、エレン」

    ライナーはニカッと笑って、オレの背中をポンと叩き、立ち去っていった。いかつい顔から想像できない、すげぇ愛嬌のある笑顔だった。昨日の晩もなかなかいいやつだって思ったけど、この笑顔を見て、ますますコイツのことが好きになった。

    「良かったね!エレン。安心したよ」
    アルミンがホッとした様子で話しかけてきたが、オレは遠ざかるライナーのデカイ背中をずっと見つめていた。

    「アルミン、アイツいいヤツだ…本当にいいヤツだ…」



    「そうか!それがコツなんだな!ありがとな、ライナー!」

    あの立体起動装置の件以来、この親切なヤツ、ライナーには何かと訓練のことで相談させてもらっている。

    「いつも教えてもらって悪いな」
    「俺で良かったらいつでも聞けよ」

    つきあっていくうちに、本当にコイツは最初のときと同じように、いやもっと、思った以上にいいヤツだった。

    「あのさぁ…この前もそうだったけど…お前って、なんでこんなに親切にしてくれるんだ?」
    「ん?なんでって、教えて欲しいって言うから教えただけだぞ」
    「オレの故郷じゃ、体が大きいヤツは腕力で言い聞かせようとするヤツらばっかりだった。オレやアルミンはそういうやつに殴られてきた。だから体の大きいヤツは苦手なんだ」
    「そうか。どこも同じなんだな」
    「お前は違うな。体が大きくても全然人のこと殴ったりしねぇし」
    「ずいぶんな偏見だなぁ。俺がもし殴るようなヤツだったら、どうするつもりだったんだ?」
    「そんときはオレも殴り返すけどな」
    「アッハハハ!さすがエレンだ!でもお前が俺を殴り返す前に、ミカサが飛んできて、俺のほうがボコボコにされるだろうけどな。ハハハ!」

    ライナーは冗談を言うのが好きだ。訓練の時間以外はいつも笑っている。訓練は厳しくて、気が重くなるけど、ライナーとバカ話をして笑い合うと、オレたちは元気になる。みんながコイツにはすごく救われてると思う。

    こんなヤツ初めてだ。なんでライナーはこんなに出来すぎたヤツなんだろう?コイツは今までどういうふうに生きてきたんだろう?



    「巨人を一匹残らず駆逐するんだろ?」
    這いつくばって涙を流すオレに、ライナーが問いかける。

    「お前ならやれる」

    ライナーは力強く断言した。その誠実さに溢れた声音。全身が熱く燃え上がるような感覚がした。言葉が繰り返しオレの頭の中に響いている。

    あぁ…これは…オレが喉から手が出るほど聞きたかった言葉だ。

    壁が壊されたあの日から、巨人を一匹残らず駆逐する、この途方もない目標がオレのすべてだった。この目標を肯定してくれる人なんていなかった。心配、嘲笑。誰かがオレにかける言葉は、そのどちらかの感情で発したものだった。誰にも理解されるわけないと分かっていた。それでもいいと思った。

    「お前ならやれる」

    ライナーこの言葉を聞いたとき、これこそオレが待ち望んでいた言葉だと、全身が反応した。強がっていたけど、心の奥底では誰かにできると言って欲しかったんだ。

    さっきまでの、泣いていたオレに見えていた景色は、くすんだセピア色だった。でも今は、色鮮やかに光り輝く色彩が広がっている。オレンジ色の夕陽、バラ色に染まった雲、青く澄んだ空、風に舞う黄色の木の葉、透き通った金色の瞳…オレの世界の中心にライナーが立っている。なんて美しいんだ……オレはこの景色を一生忘れることはないだろう。

    何か胸に熱いものがこみ上げてきて、ハーハーと胸を上下させて大きく息をする。涙が滲んできた。抑えられない。オレはウェッウェッっとみっともない嗚咽を漏らしながら泣き崩れた。さっきまで流していた敗北感の涙とは違う、喜びの涙だった。

    しかし、その喜びは続かなかった。

    そんな…やれるわけねぇだろ……

    耳元でもう一人のオレが囁く。さっきまで喜びで緩んでいた胸が、またギュッと締め付けられるように苦しくなる。景色はまたセピアに染まっていた。

    いちばん憧れている男にそんなこと言われたんだ。嬉しいに決まってる。でも今のオレにはライナーの言葉を素直に信じることができなかった。

    だってそうだろ?初歩の初歩、立体機動装置の扱いだってままならねぇのに。巨人を駆逐するなんて…夢のまた夢だ。

    「慰め言うんじゃねぇよ…」
    「慰めじゃねぇよ。本当にそう思っている」
    「お前だったらやれるかもしれねぇが、オレには無理だ…お前は体もデケェし、強いし、なんでも器用にやりこなすし…」

    「アッハハハッ!」
    「なんだよ!なにがおかしいんだよ!」
    「ハハッ、すまん!エレン、お前、俺のこと誤解しているぞ」
    「えっ…どこがだよ?」
    「あのな、俺はガキの頃は背も小さくてすげぇ細かったんだ。アルミンよりも細かったんだぞ」
    「えっ…嘘だろ?」
    「嘘じゃねぇよ。それにな、俺は器用じゃねぇよ。どっちかって言うと不器用だ。何をやっても下手くそでな。いっつもドベの成績だった。エレン、昔の俺よりもお前のほうが相当できがいいぞ」

    「本当か?オレを元気づけるために嘘ついてんだろ?」
    「エレン、お前が真剣なのに嘘なんかつくかよ」

    「俺はドベだったけど、負けん気だけは強くてな。絶対成し遂げるっていう執念だけは、誰にも負けなかったと思う。それだけでここまできた。お前に少しは褒めてもらえる自分になれたってわけだ」

    「お前を見てるとガキの頃の自分を思い出すんだ。俺と同じだなって。だからお前を応援したくなるんだ。なぁんて俺が勝手に思ってるだけだがな」

    ドベだった…オレはそんなライナーの姿はぜんぜん想像できなかった。でもライナーが嘘をつくはずがない。そうだとしたら、今こんな情けねぇ状態のオレも、ライナーみたいになれるのか?

    「疲れてちゃ怪我もしやすくなる。ゆっくり休んで、また明日やってみようぜ。大丈夫だ。きっとできる。俺もお前の気が済むまでつき合うからな」

    「お前ならやれる」
    「俺と同じだ」

    宿舎に向かって歩く大きな背中を追いながら、ライナーの言葉を何回も心のなかで繰り返す。

    オレならやれる…オレはライナーと同じ…

    景色がまた鮮やかな色を取り戻していった。


    あぁ…そうだった。ライナーは完全無欠じゃなかった。オレはすっかり忘れていた出来事を思い出した。

    先日、立体機動装置の新しい技術を習ったとき、ジャンやコニーやベルトルトはすんなり成功していたのに、ライナーは何度も失敗してた。

    その日の夕方、いつものようにライナーとオレは自主練をしていた。

    オレはもう体力が限界で、自主練は終わりにしようと思ってライナーに声をかけた。
    「ライナー、オレは終わりにする。お前はまだ続けるのか?」

    「あぁ、俺はもう少しやっていく」
    ライナーは装置のベルトを調整しながら返事をする。

    「でも、もう暗くなり始めてるぞ? 」
    「あぁ、でもあと少しだけ……俺はこんなことでつまずくわけにはいかない。どうしてもできなくちゃいけないんだ」

    そう言ったライナーの顔は、目がギラギラしていて、すげぇ気迫に満ちた表情をしていた。

    しかし一転、オレの方を見てニカッと笑い、
    「エレン、先に帰ってくれ。お前はたっぷり休むんだぞ」
    と言う。そして、アンカーを射出して木々の間を飛んでいった。

    次の授業で、ライナーは自主練の成果を発揮し、その技術をきちんと成功させた。あまりにも見事に成功させたから、ライナーが初日に失敗していたことなんて、みんなが忘れちまったんだ。

    ライナーは器用じゃないけど、できないことはできるまで練習し、諦めないから、妥協しないから、あんなに優秀と言われるヤツになった。

    諦めないことなら、オレだって負けねぇ。そう思うと、ライナーが言っていた「ライナーとオレは同じ」というのもあながち嘘じゃなくて、オレはライナーみたいになれるのかもしれない。

    「おい、なんだぁ?エレ〜ン。何ニヤニヤしてるんだよ?立体機動装置で失敗して、頭でも打ったかぁ?お前は下手くそだから本当に気をつけたほうがいいぞ」

    食堂でジャンがいつものように俺に絡んできた。ムカッときて、椅子から立ち上がろうとしたそのとき、今日のライナーの言葉が頭の中に響いた。

    お前ならやれる。
    俺とお前は同じだ。

    怒りが冷め、喜びが湧き上がる。

    フンッ…こんなガキの戯言、許してあげよう。今日のオレは機嫌がいいんだ。

    オレはジャンに向かってニッコリと笑った。

    「うわっ!コイツ、キモチワルッ!」

    まだ何か言ってたが無視した。きちんと食べてたっぷり寝よう。オレはもう明日からの訓練へ闘志を燃やしていた。



    「…レン……エレン…エレン!」
    「…お、おぉ…アルミン…」
    「どうしたの?ボーっとして」
    「あぁ、訓練兵時代のことを思い出してた」
    「そっか…もうすぐ日が沈むよ。帰ろう」
    「あぁ、そうだな」

    お前ならやれる…か…

    訓練兵時代、オレが心の支えにしてきた言葉。お前をこんなに憎んでいるのに、今も変わらず、この言葉がオレを支えている。

    ライナー…あの日、お前越しに見た夕日は、泣きたくなるくらい美しかったのに、今、オレの目に映る夕日は、なぜこんなに陰鬱な色をしているのだろう。


        ◇◇◇


    調査兵団宿舎の裏手は焼却炉がある。
    定期的に、溜まったゴミをその焼却炉で焼くのだが、今日はその日らしい。焼却炉からは黒い煙が上がっていて、兵士が次々と焼却炉にゴミを投げ込んでいた。

    オレは少し遠くから、その様子をなんとなく眺めていたが、兵士があるものを投げ込もうとしたのを見た瞬間、全身の毛が逆立つような感覚がした。

    「待ってくれ!燃やすな!」
    オレは駆け寄りながら、大声で叫んでいた。

    その兵士は、オレの大きな声に驚き、怯えるような表情をしていたが、オレは構わず、兵士が燃やそうとしていたものをひったくる。

    「ごめん。これ、オレのもんだから」
    そう言って、胸に抱えながらその場を走り去った。

    宿舎からだいぶ離れたところで、ようやく足を止めた。こんなに息を切らして走ったのは久しぶりだ。

    周りに誰もいないことを確認し、胸に抱えていたものを広げてみる。
    それは、なかなか見ないデカいサイズの兵団服だった。オレはその兵団服に顔を近づけ何かを探す。

    あった…やっぱりそうだ…

    オレが見つけたもの、それは ″ライナー・ブラウン″ という文字だった。

    律儀に名前なんか書きやがって…こんなにデカイ兵団服、お前以外の誰が着るっていうんだ。誰も間違えねぇよ。

    その名前を記した文字を、指でなぞってみる。あぁ…ライナーの字だ。角ばっていて、大きさも揃っていて…アイツ、あんなゴツい体して、意外にきれいな字を書くんだよなぁ。几帳面で、整理整頓もきっちりしてたし。

    兵団服の所々が縫って補修されている。縫い目の大きさが揃っていて、規則正しい間隔で並んでいる。縫い目にもライナーの几帳面さが現れていると思った。

    オレは、自分でひったくってまで手に入れたのに、そのことを今さら後悔していた。

    こうして手にすると、嫌でもアイツのことを思い出しちまうじゃねぇか………………



    「ライナー!兵団服貸してくれよ!」
    「あぁ?またかぁ。エレン、お前何回…」
    「いいじゃねぇか。たのむよぉ」
    「んー…しょうがねぇなぁ。ほらよ」
    「ありがとな!うわぁ…ハハハ、やっぱりデケェ!ブカブカだ!」
    「物好きだな。こんなの着て何が楽しいんだ?」

    ライナーの兵団服を着るのが好きだった。着ていると、将来オレもこんなにデカイ体になれるのかなってワクワクした。ライナーの筋肉ムッキムキな体は、同期の男たちみんなの憧れだったからな。

    「なぁ、エレン。俺にも着させてくれよぉ」
    「おい!やめろよコニー!今オレが着てんだぞ!引っ張るなって!」
    「お前ら、やめろ!破れるだろ!おぉ〜い、そろそろ返せよ、俺の服…」
    「しかたねぇ。じゃあさ、エレンと俺で一緒に着ようぜ」
    「おぉい!コニー、お前何言ってんだ!?着れるわけねぇだろ!エレンものるんじゃねぇよ!」
    「おぉ〜、マジですげぇ。二人一緒にギリギリ着れた」
    「アハハ!ギッチギチで全然動けねぇ!」
    「うわぁ〜、頼むからやめろ!本当に破れちまう!」

    「何してるの?楽しそうだね!」
    「えっ…クリスタ…」
    「わぁ!これ、ライナーの兵団服?大きーい!二人一緒に着れるんだね!すごーい!もし良ければ…私も着てみていい?」
    「えっ!?いいぞ!おいお前ら!早く脱げ!ほらほら!……ク、クリスタ、はい、ど、どうぞ…」

    どうぞって…ライナー、お前、きどった言葉づかいしやがって。なんだよ、その緊張した顔は?兵団服なんていつもオレに貸してるじゃねぇか。

    「ありがとう!わぁ、持ってみるとやっぱり重いねー。よいしょ、アハハ、大きい!コートみたいになっちゃった!……ん?うっ……」

    クリスタの笑顔が急に曇り、何も言わずに兵団服を脱ぎだした。そして困ったような、無理やり作った笑顔でライナーに兵団服を返そうとする。

    「ライナー、ありがとう……えっと…楽しかった!」
    「どうしたんだ?クリスタ、そんな微妙な顔して。それ貸してみろ」
    「えっ、ユミル…それライナーの…」
    「ん?うっわ!くっせぇ!ライナー!こんなクセェ服、クリスタに着せんなよ!」
    「ユミル!私が着たいって言ったの!ライナー、違うの!そんなに臭くないよ!」

    でもクサイのは事実なんだろ?ライナーの顔を見たら、ショックを受けて泣きそうな顔をしていた。そりゃ、傷つくよなぁ…でも、そこにジャンが追い打ちをかけた。
    「ホントだぁ!くっせぇ〜!ライナー、地獄のような臭さだな!」

    「エレン…そこ、どいてくれ」
    地の底から響くような低音だった。ライナーの目が座っている。本当に怒っているときって、人って静かになるんだな…今のライナーは止められない。俺はサッと道を開けた。

    「ジャン…地獄のように臭くて悪かったな…」
    「お、お〜い…ライナァ…ハハ…地獄は大袈裟だった、冗談だよ。そんな怖い顔すんなよ…」

    媚びるような情けない態度で許しを請うジャンに聞く耳を持たず、ライナーが太い腕でジャンにヘッドロックをかける。

    「えっ、ちょっ、ちょっと待て!フグッ!グゥゥ、悪かった!悪かった!うぐっ、ぐぇ…」
    マルコが慌てて止めに入る。
    「ライナー!離せ!やりすぎだ!うわぁ!ジャンが落ちたー!!」

    そんなにライナーの服、クセェかな?オレはあの匂い、嫌いじゃない。それにさ、それだけライナーが汗かいて努力しているってことだろ?

    ライナーは毎日、夕食前に必ず走る。夕食の時間が始まるギリギリまで走る。そんで、汗かいたまま食堂に滑り込むんだ。

    「ライナー、くせえぞ!」
    「仕方ねぇだろ。走ったんだからよぉ。風呂まで我慢しろ!」
    「なんで俺たちが我慢しなきゃなんねぇんだよ!」

    みんなはライナーが走ることにブーブー文句言うけど、オレは毎日走っているライナーに憧れていた。オレも真似して走ってみたが、挫折した。夕食前に走るってのは、腹が減って、腹が減って、倒れそうになる。それに、汗をかいたまま食堂に行ったら、ミカサから一言、「クサイ…」って嫌な顔されたから、それっきりやめた。

    ライナーは走ることを、雨の日も雪の日も絶対休まないんだ。

    本当にスゲェと思う。



    オレは兵団服が破れたとき、よくライナーに縫ってもらっていた。

    「いいか、エレン。よく見ておけ。こういうふうに縫うんだ。次からは自分でやるんだぞ」

    ライナーは慣れた手つきで、リズミカルにスイスイと縫っていく。縫うリズムが心地良くて楽しい。その手際の良さにオレは感動し、裁縫する姿に見惚れてしまう。だから、覚えることなんて、すっかり忘れちまうんだ。

    それから数日後、また兵団服が破れてしまった。またライナーに縫ってもらうしかない。これで何回目だろう?あんなに覚えろって言われてたのに、いまだに少しも裁縫はできない。だって、覚えられないんだから仕方がない!自分に言い訳をするが、ライナーがどんな顔するか怖かった。

    覚悟を決めて、ライナーに兵団服を差し出す。ライナーは横目でオレをギロリと睨んで、それを受け取った。

    「こんなに頻繁に破るやつはいねぇよな」
    「ゴメン…」
    オレは申し訳なくてヤツの顔を見ることができなかった。今度こそ怒られる…

    「まぁ、それだけお前がたくさん努力しているってことだろ」
    「えっ…」
    怒られると思ったら、褒められたので驚いた。顔を上げると、もうライナーはいつもの笑顔だった。

    「お前は兵団服がこんなになるまで訓練している。誰よりも努力している。だから絶対強くなる。これからも縫ってやるから、俺がピンチのときは助けてくれよな。約束だぜ?」

    「うん!絶対絶対助ける!」
    オレは首を縦にブンブン振って約束した。

    「さぁて、今回はどこを破ったんだ?」
    ライナーが兵団服を膝の上に拡げた。オレはライナーの隣に滑り込むように座り、「ココとココ」と破れた部分を指さした。

    「ハハッ こりゃまた派手にやらかしたな!」
    そう言うと、ライナーは手際良く準備をして裁縫を始める。オレはまたその様子に見惚れるんだ。そんなんだから、オレは結局最後まで裁縫はできなかった。



    たかが一着の兵団服を手にしただけなのに、こんなにアイツとのことを思い出してしまう。

    服に顔を埋めてみる。あぁ…ライナーの匂いだ。

    この匂いを嗅ぐと安らいだ気持ちになるのが悔しくて泣けてきた。


        ◇◇◇


    その日、エルディア人収容区は、祭りが催され、かつてないほど賑やかだった。見たことがない旨そうなものを売っている露店が軒を連ねている。

    今日からいよいよオレの計画が始まる。

    この計画のためにファルコと親しくなった。ファルコがいなければこの計画は成功しない。

    いいタイミングでファルコを呼び出すため、祭を楽しんでいる戦士候補生とライナーの後ろをついてまわった。

    ライナーが子どもたちにねだられて、次々と露店の食べ物を買わされている。あの頃と変わらずお前は優しいな。

    ライナーが子どもたちに微笑みかけながら頭を撫でている。オレもよくしてもらった。今でも覚えている。大きくて温かい手のひら…他のヤツにされたら、子供扱いすんなって怒っただろうけど、ライナーにされるのは好きだった。嬉しかった。

    いいなぁ…オレもライナーに頭をクシャクシャにして撫でてもらいたい…お前に笑いながら「しょうがねぇなぁ」って言ってもらいたい……

    子どもたちがライナーにじゃれつき、盛んに気を引こうと話しかける。

    あの頃のオレとおんなじだ。ライナーの気を引きたくて、わざとむくれたり、わかんないことを質問したり、とにかくお前にこっちを向いて欲しかった。

    あの頃に戻りたい………………



    「ライナー、ちょっとここ、教えてくれよ」
    「あぁ、エレン、ちょっと待ってろ。コニー、ここはだな…」
    「むぅ…」

    ライナーはいつも人に囲まれている。オレが話しかけても、なかなか構ってくれないことがよくある。

    そんなときのオレは、なんかスゲェイライラする。なるべく抑えるようにしてるんだけど、二回も三回もそんなことが続いちまうと、どうにも抑えられなくなる。それで、カッと頭にきて、ライナーの足を蹴っちまうんだ。

    やっちまったって後悔するけど、もう遅い。ライナーがゆっくりと振り向き、鬼の形相でオレを睨みつける。オレは震え上がって、ピクリとも動けなくなる。そうしたら、ライナーが不意にオレの体を持ち上げ、肩に担ぎ、グルグルと回転し始める。オレはライナーを怒らせたのか怖くて、一言も発せずにライナーの上で固まっていると、

    「ハハハ!どうだ!エレン、参ったか?」
    って、愉快そうなライナーの声を聞いてホッとして、ようやくオレもギャーギャー言い始めるんだ。

    その様子を見た男連中が、自分もやってくれって、ライナーの前に行列ができる。そいつらを次々とライナーがぶん回していく。それで、ライナーの目が回って、足腰が立たなくなるのがオチだ。

    そんなふうに、ライナーに八つ当たりしたり、ジャンとの喧嘩を仲裁してもらったり、毎日オレはライナーに迷惑をかけている。

    オレだってこのままじゃいけないと思っている。だから、頭にきても我慢しようと努力している。でも、結局は同じことを繰り返してしまうんだ。

    オレの性格が今のままだと、ライナーに本当に嫌われてしまう。アイツが俺を無視して、声もかけてくれない、笑いかけてもくれない…そんなことになったらと想像すると、心の底から怖くなっちまうんだ。



    「エレン、このままじゃ君は退団することになってしまうんだよ!それでいいの!?ミカサも君が心配で泣いてたよ!お願いだよ…謝ってよ…」
    「謝る気なんてねぇよ!謝るのはあっちの方だ!」
    「エレン!」

    「アルミン、エレンと二人で話をさせてくれ」
    「ライナー、いくらお前が頼んだって、オレはアイツに謝る気はねぇからな!」
    「いいから話そう。な、エレン」

    熱くなっていた頭が、ライナーの穏やかな口調で少しだけ落ち着いた。ライナーの瞳はいつも以上に静かで透き通っている。コイツはいつも冷静だ。すぐに頭に血が昇るオレは、コイツの冷静な気性が本当に羨ましい。ライナーの態度から、オレを責めるわけではないことがわかった。身構えていたオレの態度も緩む。渋々だが二人で話すのを了解した。

    「同期のやつが上級生にずっと金せびられてるなんて…気づかなかった。俺も悪かった」
    「なんでライナーが悪いんだよ!悪いのは金せびってたアイツだろ!?簡単に謝んなよ!」
    「エレン、謝罪しよう。俺も一緒に謝るから。なっ、そうしよう?」
    「なんでオレが謝らなくちゃならねぇんだ!オレが間違ってるって言いたいのか!?」

    「お前は間違ってねぇよ。でもな、殴ってケガをさせたのは良くないだろ?そこだけ謝ればいい」
    「絶対に嫌だ!」
    「エレン…このままじゃ兵団も辞めなきゃいけなくなる。今まで努力してきたのが全部無駄になっちまうんだぞ。冷静になれ」
    「殴らなきゃああいうヤツはわからねぇんだ!本当は殺してもいいくらいだ!アイツは死んでもいいヤツなんだ!」

    「エレン…やめろ。そんなこと、言っちゃだめだ」
    「なんでだよ!先にやらなきゃこっちが殺されるんだぞ!オレは先にやった!アイツらを先に殺したから、オレもミカサも助かったんだ!」

    「……今なんて言った?」

    「殺される前に殺した!やらなきゃやられるところだった!」
    「殺した?…嘘だろ?……本当なのか?お前がか?」
    「本当だ」
    「……いつ?…誰を?」
    「ガキの頃、ミカサの親を殺した強盗犯だ。オレが二人殺した。三人目は二人で殺した。すげぇだろ?」

    「………このことを…誰かに話したか?」
    「いいや。親父とそのときに来た憲兵しか知らねぇよ」
    「………いいか、エレン。このことは絶対誰にも話しちゃならねぇぞ」
    「話さねぇよ。愉快な話じゃねぇからな」

    「違う!そういうことじゃない。ミカサとお前自身を守るためだ。人を殺したことがあるってわかったら、兵団や周りの連中のお前たちを見る目が悪い方に変わっちまう。それだけで済むならいいが……二人とも拘束されるかもしれないぞ…」

    オレはその言葉にブチギレた。
    「はぁ!?なんで自分の身を守っただけなのに、人にどうこう言われなきゃならねぇんだ!やられたらやり返す!当然のことだろ!人の自由を奪うやつなんて、殺されて当然だ!そんなヤツ、殺したって悪くねぇに決まってるだろ!?なあ!そうだろ!ライナー!」
    オレは興奮が収まらなくなっていた。溜まっていた鬱憤を爆発させる。

    「エレン…本気で言ってんのか?」
    「本気に決まっている!オレは間違ってねぇ!お前こそキレイごと言うなよ!」

    そう言いながらライナーの顔を見ると、オレのことを恐ろしいものを見たような目で見つめている。いつもの親しげな優しい目じゃない。こんな目でコイツに見られたことがなかった。突然、さっきまでの興奮一気にが冷める。いつかライナーに嫌われてしまうと、心の奥底で恐れていたことを思い出し、興奮して燃え上がるように熱かった体も一転、ぞっと寒気をおぼえた。

    「とにかく人殺しは駄目だ……人殺しは…駄目だ…人殺しは……ハハ……なんだよ、俺は。偉そうに。どの口が言ってんだ…俺も人のこと言えねぇってのに…」

    急にライナーの声が、か細く震え始めた。こんなコイツの声、聞いたことがなかった。あきらかにいつものライナーじゃない。

    顔が真っ青で、唇も震えている。ライナーはそのまま頭を抱えて、うずくまってしまった。

    オレはとても動揺した。オレがあまりにもワガママなこと言ったから、ライナーが壊れちまった…どうしよう…今度こそライナーに嫌われた…

    「ごめん!ライナー!謝るからさ!オレを嫌いにならないでくれよ!なぁ、ライナァ!」

    オレは泣きながら、しゃがみこんでいるライナーの肩を懸命にゆする。
    ライナーがゆっくりと顔を上げてくれた。顔色はまだ青白かったが、ぎこちないけど微笑んでくれた。ライナーの手がオレの頭に伸び、ポンポンと優しく叩いた。

    良かった…嫌われてなかった…

    オレはホッとしたら、なおさら泣けてきて、ウェッウェッとしゃくりながら泣き続けた。


    「お願いします!コイツもこんなに反省してます!だからどうか許してやってください!」ライナーが深く頭を下げて謝っている。

    「本当に申し訳ありませんでした!」
    オレもライナーと並んで同じくらい頭を下げて謝った。

    「じゃあ、許す代わりに俺の便所掃除の当番変わってくれるか?」
    「もちろんです!俺が変わります!」
    ライナー…そこまですんのかよ…

    「わかった。二度とこんなことすんなよ」
    「ありがとうございます!あっ、あともう一つ」
    「なんだよ」
    ライナーが先輩を呼び止め、ニヤリと不敵に笑う。

    「先輩を殴ったヤツがエレンで良かったですね。俺が見つけたら、もっとボコボコにしてたと思いますよ。俺、実はエレンよりも短気で、一度キレると自分でも抑えられないんです。んで、この図体なんで暴れると俺を止められるやつがいないんですよ」

    「先輩、ご自分のためにも、もう二度と俺の同期に金をせびるなんてしないでいただけますか?」
    口元は笑っているけど、ライナーはオレもゾッとするような怖い目で先輩を睨みつけていた。
    「ヒッ!……わ、わかった」
    先輩は逃げるように立ち去っていった。

    「ライナー、ごめん…オレのために…便所掃除なんて…オレがやるよ」
    「お前、訓練でいっぱいいっぱいで、そんな余裕ねぇだろ?」
    「そんなことくらいできるよ」
    「いいんだよ。お前が退団を免れたんだから。便所掃除なんて安いもんだ。そんなことより、早くアルミンとミカサに知らせてやれ。すごく心配してたぞ」
    「あぁ、そうする…ありがとな…本当にありがとな、ライナー」

    オレはライナーや同期の連中のお陰で、謹慎するだけで済んだ。

    謹慎から戻ったとき、みんなが盛大に祝ってくれた。オレはライナーの言う通りに謝って本当に良かったと思った

    ライナー、お前にまた助けられた。オレもお前の役に立ちたい。そんなことオレが言えば、お前はそんなのいいよって言うだろう。でも助けられてばっかりじゃ嫌だ。いつかお前が絶望して、どうしようもなくなったとき、オレがお前を助けるよ。絶対に救ってやるからな………………



    あの頃のオレは、いつかお前と同じくらい強くなって、堂々と胸を張って隣に立てる男になりたかった。絶対なれると思っていた。だが、もうその夢は叶うことはない。

    ライナーが振り向き、オレに気づいてニッコリ笑う。こっちに来いとオレを呼ぶ。オレは駆け出していき、すぐ隣に並ぶ。
    ライナーの手がオレの頭に置かれ、頭をクシャクシャと撫でる。目を細めて、微笑みながらオレを見つめている。眼差しがとても優しい。そして、「エレン、頑張ったな、偉いぞ」って褒める。オレは分かってもらったのが嬉しくて、泣いてしまう…

    オレは、ライナーと子どもたちを見つめながら、叶うはずがない幸せな妄想に浸った。


        ◇◇◇


    もうすぐここにお前が来る。

    こんな地下でも、劇場の喧騒がけっこう聞こえるものなんだな。劇が始まれば、劇中の音がはっきり聞こえるだろう。

    イェレナのヤツ、いい場所を見つけてくれた。ここなら誰にも邪魔されない。

    ライナー、お前に教えてもらったあの歌を歌いながら、お前が来るのを待つ。
    気がつくと、オレはこの歌を口ずさんでいる。もう癖になっちまった。オレはお前が教えてくれたこの歌しか上手く歌えない。

    この歌をお前に習った日のことを、今でもはっきりと覚えている……………



    「来週、誰かいつもの所に荷物を取りに行ってくれないか?」

    授業の最後、教官の頼み事を聞いた訓練兵たちは全員、教官と目が合わないよう、俯くか目をそらした。

    いつもの所って…けっこう遠いんだよなぁ…一日がかりだろ?行きたくねぇよなぁ…

    訓練兵にはたまに、今回の荷物運びみたいな簡単な仕事が回ってくる。行軍の訓練を兼ねているため、馬の使用は認められない。誰もが面倒なのでやりたがらない。今回も教官が募ったが、誰も手を上げなかった。

    「俺が行きます」
    ライナーが手を上げた。みんながホッとするのが分かる。

    「今回は荷物が多いので二名で行ってもらう。もう一人、誰かいないか?」

    これってもしかして…ライナーと二人で出かけられる絶好の機会じゃねぇか?

    ベルトルトがおずおずと手を肩のあたりまで上げかけている。マズイ!オレは勢いよく手を上げた。

    「はいっ!オレが行きます!」
    「よし。ブラウン、イェーガー頼んだぞ」
    やった!一日中、ライナーを独り占めできるぞ!

    「エレン、よろしくな」
    ライナーが部屋を出ていくとき、笑ってオレの肩に手をおいた。その笑顔を見てたら来週が楽しみでワクワクしてきた。


    その日、オレたちは朝飯を食ってすぐ二人で出発した。

    天候は晴れ。暑くもなく寒くもない。心地いい風が頬を撫でる。

    その使いの道中、オレたちはいろいろな話をした。

    「エレン、この花の根は薬にも用いられたりするんだ。反対にあの花は花全体に毒を持っている」
    「すげぇ、お前、花にも詳しいんだな」
    「俺の母親が花が好きでな。よく摘んで持って帰ってた。そしたら興味が湧いてな。いろいろ調べてみたりしたんだ」
    「そっか。母ちゃんは元気なのか?」
    「あぁ、たぶん元気だ。俺を待ってると思う。あっ…すまん」
    「気ぃつかうなよ。気にしてねぇから。そうか。憲兵になって早く故郷に帰れるといいな」
    「あぁ、そうだな。フフッ、ありがとな、エレン」

    ライナーは物知りで、オレの知らないことをいろいろ話してくれた。オレはいちいち感心した。いつもは立体機動のコツとか、授業のわかんないところとか、ほぼ訓練のことしか教えてもらったことがなかったから、とても新鮮だった。

    目的地に着き、無事に荷物も預かった。帰り道、オレたちは賑やかな街の通りを歩いていた。

    オレはその頃、なんだか腹が減ってフラフラしてきた。昼飯をしっかり食べたはずなのに。荷物を背負って体力を使ってるせいか?

    周りには露店が並び、旨そうなものがたくさん売っていた。いい匂いが鼻をくすぐる。でも金はねぇし、時間もねぇ。ただ横目に見て通り過ぎるしかなかった。くっそ…地獄じゃねぇか。

    「エレン、どうした?」
    「ん~、ちょっと腹が減っただけだ」
    「そうか…」
    ライナーがキョロキョロと周りを見渡して駆け出していった。
    「エレン!ここに腰掛けろ」と言って手招きする。

    俺を座らせると、またライナーは駆け出していく。しばらくすると戻ってきた。手に何か持っている。その何かをハンカチで包んでゴシゴシと拭いている。

    ハンカチの下から出てきたのは、表面がツヤツヤと照り輝いているリンゴだった。

    「食え。これ食べたら元気が出るぞ」とオレにその林檎を差し出した。
    「えっ…あ…ありがとう」

    「お前の分は?」
    「俺はいい」
    「えっ…でも…でも…オレだけなんて…」
    「ハハハ。実はもう金がねぇんだ」
    オレは急いでポケットを探った。
    「オレもねぇ…」
    「気にすんな。遠慮なく食え」
    「やっぱ、半分づつ食おうぜ」
    「お前に食わせようと思って買ってきたんだぞ?」
    「やだ!二人で食いたい!」
    「わかった、わかった。フフッ…まったく、お前ってヤツは」

    ライナーが笑いながらオレの頭をクシャクシャ撫でた。そして、ナイフを取り出し、リンゴを半分に切り、オレに片方を差し出した。

    二人で一緒にリンゴをかじる。ジュワーと甘い汁が口いっぱいに拡がった。

    「甘いな!すげぇウマい!」
    「おぉ、これは旨いなぁ」

    やっぱり二人で食べるとなおさら旨い。
    ライナーが言ったとおり、元気になった気がした。

    「ライナー、やっぱり食べて良かっただろ?」
    「あぁそうだな。お前のおかげでこんなに旨いリンゴが食べられた。ありがとな、エレン」
    「エヘヘへ…」

    一人で全部食べないで良かった!ライナーと二人で食べたからこんなに嬉しくなった。それにライナーとの思い出がまたひとつ増えた。やった!

    元気が復活したオレたちはまた歩き出す。その後もライナーは、オレの調子を見ながら休憩をとってくれた。

    午後の日差しは少し暑かったが、涼しい風も吹いてきて、心地良く、疲れもあまり感じなかった。

    上機嫌な様子で鼻歌を歌っていたライナーが、急にはっきりとした歌を歌い出した。

    「今でもあなたの夢を見る。
     とても幸せなのに泣いてしまう。
     あなたは私の光。
     あのときも、今でも、これからも。
     離れても変わらない。
     ずっとあなたを愛し続ける………………」

    ライナーが伸びやかな声を響かせて歌う。

    「へぇ……」
    オレはライナーの歌の上手さに感動していた。訓練ばっかりで、なんの娯楽も無い、もちろん音楽とも無縁な生活を過ごしてきたオレには、またまた新鮮だった。さっき食べたリンゴは体に染み渡ったが、ライナーの歌はオレの心を潤わせた気がした。

    「すげぇ!メチャクチャ上手いじゃねえか!」
    「そうか?ハハ、ありがとな」
    ライナーが少し照れたように笑った。

    「それにしても、きれいな歌だな。なんていう歌だ?」
    「あぁ、題名は知らねぇんだ。ガキの頃から聞いていて、実は俺がいちばん好きな歌なんだ。男のくせにこんな歌が好きなんて、変だよな」
    「そんな事ねぇよ。でもさ、お前が歌ってるの聞いたことねぇぞ」
    「こんな歌、歌ったらジャンなんかにからかわれるだろ?一人きりのときでないと歌わねぇよ。人前で歌ったの初めてだ。ハハ、マズイな。エレンに聞かれちまった。みんなに言わないでくれるか?」
    「あぁ、言わねぇよ。約束する」
    「ハハ、ありがとな」
    「オレにもその歌、教えてくれよ」
    「こんな女々しい歌、歌いたいのか?」
    「お前が好きな歌なんだろ?悪く言うなよ。オレはお前と一緒に歌いたいんだ」

    歩きながら、一節づつライナーが歌うのに続いて、真似して歌ってみる。なかなかライナーのようには上手く歌えなかった。歌なんて何年ぶりに歌っただろう?そういえば子供の頃、音程が外れたのを笑われて、歌うのが嫌いになったんだった。

    ライナーはオレが下手でも、オレのこと絶対に笑ったりなんかしないのは分かっている。だから安心して思いっきり歌った。

    「おぉ、いい声してるな、その調子だ、エレン」

    ライナーに褒められて、オレは歌うのがどんどん楽しくなっていった。

    楽しくて楽しくて、いつのまにか全部歌えるようになった。ライナーと一緒に大声で歌いながら歩く。音程が外れたって構わねぇ。だって誰も聞いてねぇんだから。歌うのがこんなに楽しいなんて、誰かと一緒に合わせて歌うのがこんなに嬉しいなんて、初めて知った。

    そんなことしている間に、兵団の宿舎が遠くに見えてきた。ライナーとの時間が終わっちまう。そう考えると歩みも遅くなる。

    「エレン、疲れたか?」
    オレは憂鬱になって表情が曇っていたのだろう、ライナーが心配そうに声をかけた。

    「あ…あぁ、オレは疲れたんだ」
    オレはそれほど疲れていなかったが、ものすごく疲れたふりをして、背中を丸め、トボトボと歩き始めた。ゆっくり歩けば、着くのが遅くなる。少しでも長く、ライナーと二人でいたかった。

    そうしたら、ライナーがオレの背中から荷物をヒョイッと持ち上げ、自分の背中に背負った。そしてオレに向かってニカッといつもの笑顔を見せる。

    「もうすぐだ。頑張れ」
    「お…おう。ありがとな…」

    オレは騙してるようで、少し悪いなって思った。でも、ライナーがオレに優しくしてくれたのが嬉しくて、ニヤけてしまった。疲れたふりをしてるのに、こんなニヤニヤしてバレたかなって思ったけど、ライナーは何も言わず、オレの速度に合わせて横を歩いてくれている。

    今日はコイツとたくさん話しができた。
    本当に楽しかったな…

    そんなことを思ってたら、
    「エレン、今日はなんか楽しかったな」
    ライナーがオレが思っていたことと、同じことを言ったんだ!

    「この仕事はいつも疲れるだけの仕事なんだけど、二人で行くと、こんなに楽しいんだな。ちょっとした旅に出掛けてるみたいだった。エレン、今回はお前と一緒に行けて良かった」

    「えっ…あぁ!そうだな!オレもスゲェ楽しかった!」
    オレと二人で一日過ごして、ライナーもスゲェ楽しかったんだ!オレは驚きと嬉しさで、思わず大きな声で答えてしまった。

    「おっ、元気でたな。ハハハ、良かった。この調子なら夕飯に間に合いそうだ。あぁ、腹減ったぁ」

    「あのさ、ライナー…」
    「ん?」
    「また二人で出かけようぜ。仕事じゃなくてもさ」
    「あぁ、そうだな。そういうのもたまにはいいな。また出かけよう、エレン」
    「本当か?絶対だぞ!」
    「ハハハ、わかった、わかった」

    やった!約束できた!

    うわぁ~、今日はなんて良い日なんだろう…

    門の前にミカサとアルミンの姿が見える。オレを待っていてくれたんだ。

    「あ、ミカサとアルミンだ!おーい、アルミーン、ミカサァ!」

    オレは二人に大きく手を振った。二人も手を振ってくれている。

    「おいおい、ずいぶん元気じゃねえか。おーいエレン、荷物持ってくれよ」
    「エヘヘッ!ほら夕飯に遅れるぞ !ライナー!早く!」

    オレはライナーの手を取って駆け出した。
    「うわっ!危ねぇ!」
    ライナーはつんのめりそうになりながらも、手を引かれて一緒に走り出す

    今日は本当に楽しかった!
    こんなに楽しいなら荷物運びも悪くねぇな。



    「エレン、お前、本当に上手くなったな」

    夕方の自主練が終わって、二人並んで腰掛けて水を飲んでいるとき、ライナーが急にメチャクチャ嬉しいことを言った。

    「えっ…本当か!?」
    「あぁ、本当だ。立体機動装置の技術は、上位十人の中に入ると思う」
    「やった!お前がいつも自主練につきあってくれたからだ!ありがとな!ライナー!」
    「お前が頑張ったからだ。エレン、お前は自分をもっと誇ってもいいと思うぞ」

    この夕暮れの時間がいちばん好きだ。自主練が終わって、ライナーと一緒に並んで、沈んでいく夕日を何も考えず、ただ眺めているこの時間。その日の自主練の成果の良し悪しで、夕日の色が物悲しく見えるときもあれば、心が暖かくなるような色に見えるときもある。

    今日は夕日の色が、いつもより色鮮やかに輝いて見える。きっとライナーが嬉しいことを言ってくれたからだ。

    入団直後、先輩が立体機動装置を使って、木々の間を移動するのを初めて見たとき、絶対ムリだと思ってしまった。あんな神業できるわけねぇって。でも、すんなりできるやつはいるんだな。ミカサは例外だとしても、ジャンとコニーとかは、訓練の二、三回目には、すんなりとできていた。オレはというと、そんな回数じゃ全然できなかった。だからジャンやコニーと自分を比べて、メチャクチャ落ち込んだ。オレには才能がねぇんだ。永遠にできねぇんじゃねぇかと思った。でもライナーは言ってくれたんだ。

    「人と比べるなと言われてもなかなかできないよな。だったら、まず意識をお前の目標に集中しろ。巨人を一匹残らず駆逐するんだろ?そのことで頭を一杯にすれば、人と比べて苦しくなることもない。そして、その目標のために今できることをこなしていく。そうすれば、いつのまにか目標は達成されるさ」

    そうだ。オレの目標は立体機動装置を上手にできることじゃねぇ。巨人を駆逐することだ。その日から、人と比べて落ち込んだときは、ライナーの言葉を思い出して、今できることをやっていった。そうしたら、立体機動装置の操作は、同期の中で十位以内の腕前になった。

    もしも、ライナーと出会えてなかったら、オレはどうなっていただろう?

    最初の立体機動装置の訓練で、ライナーから助言を貰わなければ、兵士になることを諦めていたかもしれない。そして、今ごろ開拓地で畑を耕していたかもしれない。

    水を飲んでいるライナーの横顔を見ながら思った。

    コイツに会えて本当に良かった。

    「ライナー」
    「ん?」
    「オレ、お前に会えて良かった」
    「え?どうしたんだ、急に。どういう意味だ?」
    「そのまんまの意味だよ」
    「……フッ…エレン、俺もお前に会えて良かったよ」
    「えっ…」

    オレは急にそんなこと言われて、顔が熱くなった。きっと夕日のせいだと誤魔化せないほど、顔が真っ赤だったに違いない。そんな戸惑うオレを見て、ライナーがオレの頭をクシャクシャと撫でた。そして豪快に笑う。

    「ハッハッハッ!エレン、本当にお前って奴は…ハッハッハッ」

    ライナーがなんでそんなに笑っているのか、オレには分からなかったが、つられて可笑しくなって笑っちまった。

    笑い終わったライナーが、あの歌を歌い始めた。コイツは機嫌のいいとき、この歌を歌う。誰の前でも歌わねぇコイツが、オレの前でだけ、この歌を歌うんだ。お前はよほどオレに気を許してるって思っていいのか?

    オレもライナーに合わせて歌い始めた。二人で顔を見合わせ、笑いながら歌う。

    「アハハハッ!エレン、ずいぶん威勢がいい歌だな。それじゃまるで軍歌じゃねぇか」
    「仕方ねぇだろ!歌は得意じゃねぇんだって!」
    「ハハハ!でも俺はお前の歌、お前らしくて好きだぞ」
    「えっ…そうか…あ、ありがとな…」


    「あなたは私の光。
     あのときも、今でも、これからも」

    ライナー…お前こそ、オレの光だ。

    歌いながら、オレはまた心の底からコイツに会えて良かったと思ったんだ。



    なんかその日はすげぇ寒かった。オレはこのまま冷たい布団に入って寝るのが憂鬱になっていた。

    「エレン具合が悪いのか?」
    ライナーが心配そうな顔で話しかける。

    「あぁ、すげぇ寒い 鼻水も止まんねぇし」
    「ん〜、熱はまだなさそうだな」
    「でもすげぇ寒い」
    「うーん…エレン、俺の布団で一緒に寝ねぇか?」
    「はぁ?な、何いってんだよ」
    「このまま、冷たい布団で寝て具合が悪くなるよりいいだろ」
    「エレン、お前ライナーと寝るのか?うぇ〜、気持ちわりぃ」
    「ジャ~ン、お前うらやましぃんだろ、俺の布団はあったけぇからなぁ」
    「うらやましいわけねぇだろ!誰がお前みたいなゴツい男と寝るかよ!」
    「ライナー、俺もお前の布団で寝させてくれよ 本当に布団が冷てぇんだよな〜」
    「コニー、悪いな。今日はエレンで満員だ。また今度な。なぁ、エレン!」
    ライナーが急に後ろからオレに抱きついた。

    「お、おい…」
    なんだ?オレはなんでこんなにドキドキしてんだ?

    「チェッ、だったらさぁ、いっそ男連中で固まって寝るか?あ、ベルトルトは一人で寝てくれな。寝相最悪だから。蹴られたらたまんねぇ。ごめんな」
    「えっ…コニー、僕ってそんなに寝相悪いの?」
    「誰が野郎と一緒に寝るかよ!!」
    「ジャン、お前も足が冷たくて寝られねぇって言ってただろ?」
    「絶対にイヤだ!!」

    コニーとジャンがギャーギャー騒いでいるけど、オレはなぜだか緊張してそれどころじゃなかった。

    「エレン、俺と寝るのは嫌か?」
    「嫌じゃねぇよ…よろしくお願いします」
    「ハハッ!こちらこそよろしくお願いします!!」
    ライナーがふざけて大げさにお辞儀をした。

    「さぁ、エレン、来いよ」
    ライナーが毛布をまくって、ポンポンと自分の横を叩く。

    「おぅ…」
    本当はすぐにでもライナーの隣に飛び込みたかった。でも、そんなことするとまたヤツらにからかわれるだろ?だから、嬉しさに緩みそうになる口元を必死に引き締め、ゆっくりとライナーの隣に潜り込んだ。

    ライナーの腹がピッタリとオレの背中にくっつく。そして、大きな手のひらがオレの腹に回ってきた。のの字を書くように腹を優しく撫でている。

    あぁ…メチャクチャあったけぇ…

    「エレン、ちゃんと毛布かかっているか?」
    「あぁ、大丈夫だ」

    毛布の中は、オレとライナー、二人だけの世界だ。いつも誰かと一緒にいるライナーを、今はオレが独り占めにしている。

    「なぁ、ライナー。あの歌、歌ってくれよ」
    「えっ?今か?他のやつに聞かれちまうだろ?」
    「小さい声なら大丈夫だって。それにアイツらまだ騒いでるし。なぁ、頼むよ、ライナー」
    「フッ…しょうがねぇなぁ」

    背中越しに、ライナーがオレの耳に口を寄せて、囁くような声で歌い始めた。

    「今でもあなたの夢を見る。
     とても幸せなのに泣いてしまう。
     あなたは私の光。
     あのときも、今でも、これからも。
     離れても変わらない。
     ずっとあなたを愛し続ける」

    外で聞くライナーの響く歌声も好きだけど、オレに聞かせせるためだけに歌っている今の声もすげぇいい。なんか二人だけの秘密を共有している気分だ。

    「どうだ?まだ寒いか?」
    「いや、すげぇあったけぇ」
    「ハハ、それは良かった。きっと明日になれば良くなっている。大丈夫だ」

    ライナーの言う「大丈夫」は、オレたちをすごく安心させる。

    安心したら、とても幸せな気分になってきた。
    心に秘めていた思いをライナーに打ち明ける。

    「なぁライナー」
    「ん?」
    「オレは巨人を一匹残らず駆逐したら…アルミンと壁の外の世界を探検するっていう夢があるんだ」
    「そうか…楽しそうな夢だな」
    「その探検に…ライナー、お前も一緒に来ないか?」
    「……そうだな…そうなったらいいなぁ」

    やった!ライナーが一緒に来てくれたら、スゲェ頼もしい!

    ライナーとオレとアルミンは壁の外の世界を探検する。壁の外は危険がいっぱいだ。それでもオレたち三人で数々の困難を乗り越える。

    でも、いよいよライナーが絶体絶命の危機に陥る。そのとき、オレが颯爽と現れ、ライナーを救い出すんだ。

    「ライナー、お前を助けるっていう、いつかの約束、果したぜ!」
    「エレン、本当に強くなったな…」

    ライナーが感動してオレを見つめている。その眼差しは可愛い弟を見るようなものではなく、尊敬と信頼が混ざった、オレがずっとライナーに求めていた眼差しだ。

    オレはついにライナーの頼りになる相棒になったんだ!

    そして、いつかオレたちがジジイになったとき、一緒に酒を飲みながら、繰り返し探検の思い出話をして、ガハハガハハと馬鹿みたいに笑うんだ。

    うわぁ…メチャクチャ楽しくなってきた!

    「エへ、エヘヘへ…」
    「エレン?どうした?」
    「なんでもない…フフッ、おやすみライナー…」
    「あぁ…おやすみエレン…」

    なんだか今日はすごくいい夢が見れそうだ。

    ライナー…
    オレはお前と…ずっと…ずっと…………


        ◇◇◇


    マーレを訪れてわかったことは、やはり世界中がオレたちの敵だということだった。でも、それがわかったあとも、オレは一人でマーレに残った。外の世界の人々と直に接してもなお、全人類を虐殺するか、自分自身に確かめたかったからだ。

    マーレでけっこう長い時間過ごした。人に優しくされた。世話にもなった。本当に壁の中も外も同じだった。でもやっぱりオレの決意は変わらなかった。

    ライナー、お前もそうだろ?オレたちと同じ釜の飯を食い、助け合い、笑い合っても、結局お前は自分の使命を選び、オレたちと戦った。
    オレと同じだ。やっぱりお前の言ったとおり、オレとお前はこんなとこでも同じなんだよ。

    オレは今、人類史上、類を見ないくらい大きなことをやろうとしている。

    オレは考え尽くした。でも、オレの頭ではこれしか思いつかなかったんだ。
    何度もここにお前がいてくれたらと思ったさ。

    壁の外の何千万人の命よりも、オレの仲間たちの命をのせたほうに天秤は傾いた。

    ライナー、お前のこともそうだ。この町にいる何千人の命を殺しても、オレはお前の一つの命を選ぶ。オレはそういう人間だ。


    「今でもあなたの夢を見る。
     とても幸せなのに泣いてしまう……………」

    ライナー…お前は故郷に帰ってから、オレのこと思い出したりしたか?

    オレは毎日思い出していた。嫌でも思い出しちまう。島ではお前との思い出が多すぎるからな。

    オレはお前がいなくなってから、辛いことだらけだった。誰にも相談できなかったから、気が変になりそうなときもあった。そんなとき、お前に言われた言葉を思い出してなんとか正気を保ってた。

    もう、お前の思い出の言葉だけじゃ足りない。

    ライナー…お前に会って、今のお前の言葉を聞きたい。だから、ファルコを利用した。

    オレは疲れちまったんだ。

    オレはもう止まれない。

    お前がオレを止めてくれ。


    「きましたよ!」
    ファルコが弾むような声でお前の到着を告げた。

    階段を一段一段降りる靴音がする。

    やっとお前と話ができる。

    ライナー…お前ならわかってくれるだろ?オレがどうしてこんなことをするのか。それだったらしょうがねぇなって、笑ってくれるか?

    そうだ。お前に伝えたいことがもうひとつあった。

    あの歌の題名がわかったぞ。島に来た義勇兵に聞いても誰も分からなかったんだけどな。エルディア人兵士になって戦場にいたとき、塹壕の中で歌っていたら、
    「あんた、ずいぶん古い歌、知ってんだな」って、誰かが教えてくれたんだ。

    「あなたは光」だってよ。ハハハ…そのまんまじゃねぇか。

    たぶん、お前まだ知らねぇだろ?オレが教えたら喜んでくれるかな。

    「よう…四年振りだな…ライナー」


    あなたは私の光。
    あのときも、今でも、これからも。

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