口移ししないと出られない部屋さっきまで確かに高専の待機室でソファに座ってのんびりくつろいでいたはずなのに、まばたきをした瞬間なぜか真っ白な部屋に五条と七海と私の三人で集合していた。明らかにおかしい。袖のボタンを外してクルクルと捲り臨戦態勢を取った。五条は真っ黒な帯のような目隠しをつけていて、七海はいつものスーツ姿だから各々仕事中だったんだと思う。意味がわからなくて動揺する私を余所に、同期である五条と一歳下の七海は「あーはいはい、そういうことね」とか「何故五条さんまで……」とか各々状況を理解しているらしい。
少し遅れてキョロキョロと部屋を見渡すと、でかでかと『口移ししないと出られない部屋』と書かれていた。確かに部屋の真ん中には見慣れたミネラルウォーターのペットボトルが数本置かれている。なにがどう「あーはいはいそういうこと」なのか教えてほしい。出来れば五条と七海で事を済ませてほしい。こちとら男性と唇をくっつけたことすらないのだ。口移しだとわかっていてもなるべくこんなことはしたくない。いつか現れる好きな人との本番のために。
「じゃあ僕がする」
恐ろしくも先陣を切ったのは五条だった。七海か私、どっちかが五条に口移しされなければならない。恐る恐る七海を見あげると「……ここは私が」と名乗りをあげてくれた。
「良かった……。二人でお願いね。一応私は壁を向いてるから……」
「は?」
「え?」
「そういうことじゃないでしょ」
「え?……えっ!?まさか私と!?」
「そりゃそうでしょ、野郎とキスなんかして何が楽しいの」
「いやこれ口移しじゃないの!?だとしたらちょっと困っちゃうんだけど!」
「何が?」
「私、きっ、キ……スを、したことがないから……」
「……」
「……」
「ひぃ……」
沈黙が辛い。きっと二人とも哀れんでいるんだろう。とうにハタチを超えてもまだ、……よく言えばケガレなき身でいるのは、きっと見るからにモテモテの二人からしたら異次元の非モテ女に映ってしまうのだと思う。無駄に温められ続けた初めてを任務で引き受けるなんて重すぎる。任務のついでに獲得したくないものナンバーワンに違いない。どこからかゴクリと喉を鳴らす音がしたのもきっと嫌悪感ゆえのものだ。
「だから二人でした方が……。多分そっちの方が重くないし……」
「貴女重いんですか」
「えっ」
「キスしたら好きになるタイプ?」
「したことがないからわかんないけど……。でも意識しちゃうと思う……。わかんないけど……」
「へー、ハッピーセットじゃん」
「何が?五条の頭?」
「ハイ、傷付いたのでオマエの初めては僕がいただきまーす」
「お断りします」
「七海に決定権はないでしょ」
「いや五条にもないよ!?」
特級権限で僕でいいでしょ、今階級は関係ないじゃん、とかなんとかぎゃーぎゃーと言い争いをしていると七海が「わかりました」と大きな手のひらを広げて私たちを制止した。
「ここは公平にじゃんけんで決めましょう」
「五条六眼禁止だからね」
「じゃんけんの先読み能力とかないから」
「じゃあ負けた二人で。後から文句言うのなしね」
「いやオマエは参加しちゃダメでしょ。僕と七海で勝った方」
「同感です」
「え!?なんで私負け確なの!?いやなんだけど!」
「貴女は諦めて準備していてください。出られなくてもいいんですか」
「え、それは嫌だけど……。ていうか五条ならこんな部屋出れるんじゃないの」
「無理無理(※出れる)」
「えぇ……最強って嘘なの……」
「最強にも不可能はあるっつーの(※いつでも出れる)」
なぁんか嘘臭い言い方をしている気がする……。本当は出れるんじゃないのか?七海とおそらく同じことを考えながらじっとりと疑いの眼差しを向けたものの、自称「不可能もある最強」は涼しい顔をしている。「領域の相性ってあるでしょ」と言うけれど一か八か領域展開してみたら……いや、一か八かでするものじゃないか。領域展開出来ない私にはよくわからないけれど、何やらとんでもない量の体力だか呪力だかを使うらしいし……。
「五条さんに口移しするくらいなら出られずに死んだほうがマシです」
「そこまで言う!?」
「はいまた傷付いたのでハジメテは僕が貰いまーす」
「私のせいじゃないのに!?ていうかハジメテって言い方やめて、露骨すぎて無理」
「事実でしょ」
「や、でもほら、助かるためにするわけだし、人工呼吸みたいなもんでしょ。事実上の医療行為だよ」
「じゃあ僕とやっちゃっていいでしょ。ほらほら照れてないでちゃちゃっとやっちゃうよ。医療行為だからいいでしょ~?」
「い……いやだ……!」
「僕とここで一生暮らすつもり?まあ僕はそれでもいいけど」
「私もいますが」
「二人でも三人でもよくない……」
「さっさとじゃんけんしますよ」
最初は……と手を出す二人にさり気なく混ざって参加したのに、二人からサッと制止されてしまった。泣く泣く掛け声だけ担当して「ぽん」の合図で勝利したのは七海だった。
「では私から貴女に口移しします」
「ひ……」
「えーずるいずるいずるい僕が一番でしょ?」
「敗者は黙っていてください」
「やっぱ体術バトルにしない?」
「しません」
パキ、と七海がペットボトルの蓋を開ける。くるくると回しきった後思い出したように「あぁ、」と私の方を見た。七海の流し目なんて見慣れているはずなのに、何故だか妙に色っぽく見える。これはもしかして、意識してしまっているから?……いや、いつもは冷ややかな目線なのに今日は妙に熱を帯びているからだ。どっちにしろ、ダメなやつだ……。少しずつ速くなっていく鼓動に見て見ぬふり出来ない。
「私は医療行為だとは思っていませんので」
「な……なにその余計な一言……!せめて終わってから言ってよ……!」
「貴女のファーストキスは私がいただきます」
「や、何、何!?違うってこれ人工呼吸と一緒だから……!」
「貴女はそう思っていればいい」
「いやーん七海のスッケベー!よっセクハラ男!」
「敗者は黙っていてください」
「見せつけちゃおっかなー!?力の差を見せつけちゃおっかなー!!」
コツ……、コツ……、と七海の革靴の音だけがやけに大きくゆっくりと響いて聞こえる。ギャーギャーとフルスロットルで騒ぐ五条の声が、とても遠くに聞こえる。意志を持たずフラフラと彷徨う視線が、真ん前で足を止めた七海の爪先で止まった。
「顔をあげてください」
「うぅ……。こ、心の準備させて……ください……」
「良いですよ。優しくします。大切なファーストキスですから」
「そうじゃないってば……」
「ハグでもしますか?少しは慣れるかもしれませんよ」
「絶対に余計緊張するからやめときます……」
二回深呼吸をして、細く長く速く息を吐いて「よし、準備……出来た」と顔をあげる。でも七海の顔が思ったより近くにあってまたしおしおと頭を下げてしまった。思えば七海はパーソナルスペース厳守の男で、こんな至近距離にいたことなんてない。もしかするとパーソナルスペースという概念が存在しない五条の方が緊張感は控え目だったのかもしれない。恐る恐るもう一度顔をあげた。うう、やっぱり近い。ああそうだ、いつもと何か違うと思ったらサングラスをしていないんだ。
「いいですか」
「……ン、大丈夫……デス……」
なんで片言、と五条の笑い声が聞こえる。ゆっくりとペットボトルに口をつけミネラルウォーターを口に含んだ七海の、少し伏せられた金色の長いまつ毛。耐えきれずきゅっと目を閉じると、柔らかいものがそっと押し当てられた。
反射的に目を開くと、ほんのり笑みを浮かべた瞳と視線が絡んで慌てて目を閉じる。するりと耳たぶを撫でられてびくりと震えてしまった。何、何、何これ!全身が強張って動けないくせに、身体の全部が熱い。息ってしていいの。どうしたらいいの。ふにふにと柔らかく動くそれは、私の心臓を忙しなく働かせるだけ。どうしたらいいかわからない、ああ苦しい、ドキドキする。頭はぼうっとして、身体はかちかちに固まって動けなくなってしまった私と唇を重ね合わたまま、七海は口に含んでいた水をコクリと飲み込んだ。あ……そうだ、口移し……しなきゃだった……。そしてちゅっと可愛いリップ音を立てて七海は離れていった。呆然とする私の頬を太い指が撫でる。
「口を開かないと本当にただのキスですよ」
「おっしゃるとおりです……。ごめんなさい……」
「役得でしたが」
「うぅ……」
「はいはい、次僕の番ね。ほら七海どいて」
「まだ口移し出来ていません」
「もう十分楽しんだだろ?」
「楽しむかどうかは関係ありません。口移しが終わるまでは黙っていてください」
「こんなムッツリスケベに何回もキスされていいの?」
「や、今のは私が悪いから……。次はちゃんと開きます……。けど、ちょっとだけ待って……」
顔も身体も熱い。少し息が荒くなっている気がする。今私は、後輩とキスしてしまったのだ。顔なんて到底見れるはずがない。見られることすら恥ずかしくて両手で顔を覆う。き、きす、してしまった……。キスってあんな感じなんだ……。いっぱいいっぱいでわからなかったけど、なんだかすごく気持ちよかった……。ぽうと熱くなっているほっぺを冷ましたいのに、手の平も熱い。
「真っ赤になっちゃって、かぁーわいい」
「うるさいな……」
「……水、飲みますか」
「飲む……」
緩く閉じられていたペットボトルの蓋を開けこくこくと半分ほど飲んで、はうと息を吐いた。「貴女からしてみますか」と聞かれたけれど、ぶんぶんと首を振って断った。
「息はしても良いですよ」
「あ、そうなの……」
「肩の力を抜いてください。怖いことは何もありません」
「うん……」
「そんなこと言って、そのまま襲われちゃったりして」
「えっ!?」
「余計なことを言わないでください。私はそんなことしませんよ、五条さんじゃあるまいし」
「だ、だよね……」
「心の準備、出来ましたか」
「えっと……。……ハイ……」
信じられないことに七海は私の手ごとペットボトルを掴んで口に含み、もう一方の手でほっぺをすっぽりと覆ってきた。ひいいきたきたきたと内心パニックを起こした私はやはりまた口を固く閉じてしまったのだけど、少しだけ顔を離した七海が指で私の下唇をくいくいと下げて無言で「開けろ」とジェスチャーしてくれたからどうにか我に返って口を開くことが出来た。
元々距離なんてなかったのに七海がさらにグイと顔を寄せて、そしてゆっくりと口を開いた。少しだけ流れ込んできた冷たいそれを、意を決してコクリと飲み込んだ。ペットボトルごと私の手を掴む七海の太い指が、まるで褒めるように手の甲をするすると撫でる。離れ方すらわからなくてゆっくりと唇を閉じたけれど、濡れた唇どうしが擦れ合うぬるりと生々しい感触に気を失ってしまいそうだった。
またしても至近距離で視線が絡んで、七海とキスした実感が色濃く湧いてしまい頬の熱を上げる。柔らかく微笑んでいるようにさえ見える七海が、私の耳元から唇までゆっくりと指を這わせながら頬から手を離す。七海が抱く名残惜しさが、伝わってしまった。真っ直ぐ私を射抜く瞳から目を逸らせずにいると、パンパンと手を叩かれ「ハイハイもう終わり」と言われた。そうだ、五条もいたんだった。
「ど……うです、かね!?ドア、開いた!?」
「全然。何も変わってないよ」
「なんで……」
「だって僕がしてないもん」
「えっ」
「ハァ─────……」
「じゃ、次僕の番ね」
「ちょっ、えっ!?無理!!なな、七海!じゃんけん!」
さっき七海は「五条さんに口移しするくらいなら出られずに死んだほうがマシです」なんて断言していたのだ。断られるとわかっていても一日にそんな何回もキスなんて出来るわけがない。お願いしますと両手を合わせ頭を下げる私に深い溜め息を吐いたあと「じゃんけんは不要です」と言ってのけた。
「私が五条さんに口移しします」
「え!?いいの!?」
「ダメダメダメ!舌入れてキスされたいの?」
「っ……。……しかし背に腹は代えられませんので……」
心底不愉快だと隠しもしない七海に「いやいや、野郎相手にキスなんて僕だってごめんだね」と舌を出して見せる五条。ハラハラ見守っていると五条がペットボトルを奪い取った。
「あーあ、嫉妬深い男はイヤだねぇ」
「それじゃ七海が私のこと好きみたいじゃん」
「そうですが……」
「そうなの!?」
「僕も好きだよ」
「急にモテ期到来!?」
「学生時代からずっと♡」
「嘘の言い方じゃん」
「私は本当です。学生の頃からずっと貴女が好きです」
「えっ……?えっ、えっ……!?」
胡散臭い五条とは違って、七海はいつもよりも真剣な表情。サングラスをまだ付けていないから、力強い瞳に撃ち抜かれてしまう。そしてさっきの柔さがフラッシュバックして視線を逸らしてしまう。そんな、全然知らなかった。あの七海が私を……?お小言が多くて、ネチネチお説教がしつこくて、でもなんだかんだいつも許してくれて、美味しいお店とか連れて行ってくれる七海が、凹んでたらあの手この手で慰めてくれる七海が、私のことを……?……あれ?もしかして結構兆しはあった……?
「ねえ、僕とキスするんでしょ。今は僕のことだけ考えてよ」
思考を遮る低い声。ほっぺに大きな手を添えられて「待って」という暇すら貰えず柔らかい唇が重なった。キスじゃないのに。いつの間にか目隠しを取っていた五条との綺麗な目と目があったけれど「これはマシュマロだから」と思い込むために固く目を閉じた。ちゅっちゅっと可愛い音が何度も続いて羞恥心がただただ募っていく。小さく首を振って唇の力を抜くと、冷たい舌がぬるぬると唇を這った。ぞくぞくと背筋を走る甘い痺れに身を任せて薄く唇を開くと、水なんかではなく五条の舌が入り込んできた。
歯列をツゥとなぞられてぞくりと肌が粟立つ。なになに。何されてるの。なんてこんなことするの!もしかして唇を開くだけじゃダメなの?顎ごとをゆっくりと開くと、いよいよ口の中にぬるりと舌が入り込んできた。そうじゃない!ドンドンと胸板を叩くけれど何の効果もなくて、舌をねっとりと舐められて情けなく上擦った声が漏れてしまった。五条と七海にそんな声を聞かれてしまったのが恥ずかしくて堪らなくて、ほっぺをぎゅうと抓るように引っ張ると、その隙間から水が流れ出てきたからコクリと飲み込んだ。……のに、出ていってくれない。逃げようとしてもうなじのあたりを押されてしまう。角度を変えて、舐められて、吸われて、頭がぼうとする。五条に触れられているところが、きもちいい。胸板を叩いていた手は導かれるまま五条の首に回してしがみついている。何かわからない液をまたコクリと飲み込んで、唇を甘咬みされて。撫でるようにねっとりと舐められて、ようやく解放された時には情けなく腰が抜けてしまった。くたりと座り込む私をご機嫌な五条が膝に乗せて髪にキスを落とす。
「は……、はぁ……、な……なにいまの……」
「あー、やばい……。止まんないかも」
「へ、なに……?どう、んぅ」
「五条さん!」
何の意味もないキスで言葉を遮られてしまう。ぶんぶんと首を振って逃げる私の頭を優しく撫でて耳元にちゅくりとキスを落とす。そして脳髄をダイレクトに揺さぶる甘ったるい色気で「好きだよ」と囁いかれた。
勘弁して、もうキャパオーバーです……。顔を両手で隠してふるふると力無く首を振る。心臓がずっとうるさい。目の前の二人が、知らない人みたい。顔を隠したまま「開いた?」と聞くと沈黙が返ってきた。どっち?少し手を下げて扉を見たけれど、何も変わっていない。じゃあ失敗したんだ。
「……えっ?じゃあつまり今度は五条と七海が……」
「……」
「……」
私は二人それぞれから口移しされたのだから、部屋から出るために一番有力なのは五条と七海が口移しをすること。私はもう、関係ない。ついに解放されたのだ。もうくらくらするようなキスなんてされなくていい。やっと力が入り始めた身体でひょいと立ち上がり「ささどうぞどうぞ」と二人を促す。
「他人のキスシーン見るのって初めてだ……!なんか緊張するね!……あっ違う、口移しだったね。ごめんごめん。私のことは気にせず……どうぞ!」
七海ばりに深い溜息を吐いた五条の手が、スッと赫の準備をした。七海と私の「は?」が重なった時にはもう壁は破壊されていた。粉々に砕けた壁の向こうには雑木林が見えている。
「あー萎えた。やってらんない。ほら開けてあげたから、さっさと出るよ二人とも」
「アナタ、出られたんですか……」
「あ、七海は僕とのキスに乗り気だったのにメンゴメンゴ。どう?今から熱烈なキッスをしてあげようか?五分くらい」
「結構です。誰が乗り気ですか、気色悪い」
「ちょっと待ってよこれは本当にないって!出れるなら私なんのためにあんなことしたの」
「僕がキスしたかったからだけど?」
「悪びれるとかって知ってる……?私初めてだったんだけど……」
チラリと七海を盗み見ると、気まずそうに目を逸らされた。嘘を吐いて出られないフリをしていた五条とは違って、七海は本当に口移しをしないと出られないと思っていたんだろう。七海は悪くない。悪いのは五条。……と、わけのわからない空間を作った呪霊か呪詛師の術式だ。
「初めては僕が良かったのになー」
「いや知らんし……。なんなの本当」
「好きな子の初めては全部欲しいに決まってるでしょ」
「え」
「どうにか記憶消してやり直せないかなー。一か八か、家の倉庫に眠ってる呪具使ってみる?記憶消す消す刀みたいな名前のやつあるんだよね」
「何その怖い呪具。死んでも嫌」
「彼女のファーストキスは私が頂いています。いくらアナタが足掻いたところで変わりません」
「言うよねオマエ。譲ってやったのにさ」
「あんまりハッキリ明言しないでもらえると嬉しいんですけども……。全然割り切れてないので……。まだまだ全然照れくさいというか割り切れそうにないというか……」
小さく縮こまりもじもじと指遊びする私に淡々と「割り切らないでください」と言う。そのままなんでもないことのように「私とのキスを思い出して照れる貴女をずっと見ていたいので」と続ける。
「んまァ!ムッツリだわ!ムッツリスケベがいるわ!」
「好きな女性に対してはそんなもんでしょう。ただの男なので」
「言うねぇ」
「告白の返事、期待していますよ」
「え」
「ダメダメ、僕と付き合うんだから」
「え」
「それを決めるのは彼女です」
「え」
「で、どーすんの」
「え、あ、えっと……」
鋭い視線四つに射抜かれてフラフラと視線を彷徨わせてしまう。今の今まで意識したことなかった弩級の色男二人にこんな迫られ方してスッパリ答えを出せるような性格なんてしていない。何も言ってくれなくなった二人からの圧に耐えきれず「結果についてはまた後日発表します」と何かの運営みたいなことを言って二人の間を走り抜けドアから飛び出すと、部屋の外は高専の廊下だった。振り返ると、変な部屋のドアだったはずのそれは待機室のドアになっている。
ああ、戻ってこれたんだ……。
へなへなと座り込む私のポッケでスマホが着信を報せる。五条と七海からだ。どっちの電話にも出られるはずがない。カチリとマナーモードに切り替えポッケに戻して、フラフラと硝子の元へ向かうのだった。