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    まあさ

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    まあさ

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    ヒロ様誕文2014年(多分)の再録
    pixivにもまとめの中にアップしてたのですが単体でアップしてたの削除しちゃってたんで折角なのでこっちに単体バージョン置いておきます
    個人的にめちゃくちゃ気に入ってる文章です

    ヒロ様誕文2014年の再録 これは夢だ。

     虚ろな意識の中、ヒロは思う。
     ふわふわ浮ついた感覚に、思うように動かない身体。
     視線だけははっきりと動くようで、どんな所に居るのだろうと目線を動かすと、真っ白な空間だった。
     白だけが続く、何もない所。
     顔のそばに置かれた、目の前の自身の手を見ると、赤子のように小さなものだった。
     夢の中の自分は赤ん坊になっているのか。その事実が妙に面白く、ヒロは頬を緩めた。
    「ヒロ」
    「ヒロ」
     自身を呼ぶ、聞き慣れた女性の声――母親のものだ――と、聞き慣れない男性の声。誰の声だろうと見上げようとするが、動かない身体にそれは叶わなかった。
     目の前に手が伸びて、二本の青い薔薇が置かれる。
     寸分置かず、また一本、また一輪本と、今度は黄色い薔薇が置かれていった。
     手の主は確実な判断がつかなかったが、幼少の頃お世話になった養護施設で働いていた者や、養護施設で出会った似た境遇の子供たちだろうとヒロは思う。
     皆がそれぞれヒロの名前を呼び、薔薇を置いていくのだ。
     皺のついた手が黄色い薔薇を置いたと思ったら、その手の持ち主が立ち去る時間を見計らったかのように黒い薔薇が置かれた。
     名前は呼んでもらえなかったが、今は行方の知らない兄のような存在の彼だとわかった。一言呼び止めたかったが、出ない声が空気に変わる。
     動かない手に苛立ちを込めながら見ると、赤子だった身体は今は大人の体を作り始めていた。
     彼への最善の対応が出来ず、彼と縁が切れてしまった事への悔しさから溢れ出る涙を拭ったのは、懐かしい顔である。
    「ヒロ、大丈夫?」
     今より幼く、初めて出会った頃の、大切な人の姿。深く傷つけてしまう前の彼の姿。
     心配かけないように、大丈夫だと頷こうとしても身体は動かないし、声も出ない。伝えられないもどかさを感じながら、ヒロはとりあえず口端を緩めた。
    「良かった」
     その想いが伝わったのか、そう安堵して、彼は紫色の薔薇を置くと視界の外に消えていく。
     次は三人の女の子達が名前を呼ぶ。降り注ぐ赤い薔薇は白い世界に映え、美しさを纏っていた。
    「親愛なる貴方に」
    「にゃにゃん!」
    「メルヘン♪」
     楽しそうな女の子達の声が遠ざかった後からも、ヒロへと声が次々とかかる。
     様をつけて呼ぶ声に、ファンの子達だと気付いた。今の僕には、ファンの子達の声も嬉しい。
     そんな中、少しだけ親しみを持った二人の女の子の声に少しだけ違和を感じる。本来ならもう一人と一緒じゃないのだろうか。
    「よ!」
     気さくな少年の声。今ではすっかり心許せる友人になった彼の声。
    「あと少しだぜ」
     彼の言葉の意味がわからず、何が、と聞くため咄嗟に顔を上げると、自由が利く事にヒロは気付いた。
     握ったり開いたりする手は、今の自分のものである。
     起き上がり見渡す辺りは、白い世界一面に、たくさんの薔薇が敷き詰められていた。
     黄色の中に、所々顔を出すのは赤い薔薇。
     圧倒的に黄色が多いのは、ファンの子達のものであろう。
    「うわ、凄い……」
     思わず声を上げたその先には、ピンクの薔薇を持った一人の少女。先ほどの違和の正体だ。
    「気に入って頂けましたか?」
     彼女の問いかけに、ヒロはゆっくりと頷く。
    「うん、凄く壮大でキレイだよ」
    「それなら良かったです」
     ピンクの薔薇をヒロに渡すと、なるは元来た方向へ戻ろうとしたので、ヒロは慌てて彼女の腕を掴んだ。
     何かを言おうとしても何を言えば良いのか言い澱むヒロを見ながら彼女は優しく笑う。
    「皆ヒロさんの事が大好きなんですよ」
     刹那、突風が襲い薔薇が舞った。彼女の姿は薔薇で見えなくなる。
     薔薇が地面に落ちると、目の前に立っているのは別の少女だった。
     あまり喋った事のない不思議な雰囲気を持った少女。先ほどの彼女がとても大切に想っている少女。
    「りんね、ちゃん?」
     少女、りんねは静かに頷いた。隣で飛んでいる、白いペンギンを模した彼女のペアともも、嬉しそうに笑う。
     思いもしなかった人物に唖然としていると、彼女はそっと、青い薔薇をヒロに向けて差し出した。
    「神の祝福」
     りんねが呟いたのは、青い薔薇の花言葉。
     ヒロは最初に貰った2本の青い薔薇を思い出しながら、まさかねと小さく首を横に振る。
     あの男性の正体と、今日この薔薇を渡した理由に都合が良すぎると思ったのだが――いや、でも。
    「ここは夢だから、こんな幸せなプレゼントが貰えたのかな」
     自分が産まれたことへの奇跡と祝福を込めた青い薔薇の可能性を持った呟きに、りんねは困ったような笑みを見せる。どうしたのかと、ヒロは不思議そうに彼女を見つめた。
     ゆっくりと、りんねの口が動く。
    「ここは、夢であって夢でない場所よ。敢えて言えば、アクト空間に近いかもしれないわ」
    「アクト? 演劇ってこと?」
     ヒロの問いに肯定も否定もせず、りんねは続ける。
    「貴方にお礼がしたかったの」
    「お礼? 何の?」
     彼女にお礼をされるような事をした覚えが無かったので、ヒロが投げかけた疑問は、純粋な気持ちだった。
    「ハピなる」
    「なるちゃん?」
     知り合いの少女の口癖を真似る彼女に、知り合いの少女の名前を出すと、りんねは満面の笑みを向けた。
    「その子の名前はなると言うのね」
     噛み合わない会話にヒロが頭を抱え始めると、りんねは今度こそ順を追って話始める。
    「ハピなる。この言葉を教えてくれた女の子の事、私はもう覚えてないわ。いつも世界を発つ時にはその世界の事を忘れてしまうから」
     悲しい話にヒロは気を落とすが、その優しさにりんねは喜びでクスリと笑う。
    「でもその女の子が頑張ってくれたおかげで、あの世界はプリズムの煌めきを取り戻し、私は今ココに居る。その事はね、何となく覚えてるの。そしてその子が前を向けるきっかけを作ってくれた貴方にお礼をしたかったの……ありがとう」
    「きっかけって……」
     あまり記憶の無い話に戸惑っていると、言葉に出来た事に満足したりんねはヒロの後ろを指差す。
     空間にポツンと漂う木製のドア。
     きっとこの夢の出口なのだろう、ヒロは察した。
    「ねぇ、最後に質問して良いかな?」
     腕を下ろしジッと視線を向ける彼女に、肯定の意と捉えたヒロは続ける。
    「ここに来たって事は僕のことは思い出したって事だよね? どうして思い出したのはなるちゃんじゃなかったの?」
     虚を突かれた顔を見せると、りんねは頭を振り返した。
    「愚問だわ」
     その一言に、自分の考えが当たっているのだろうことをヒロは悟る。
     そっか、ヒロは薄く笑んだ。
    「思い出したらなるちゃんのところに帰りたくなっちゃうもんね」
    「……えぇ。何故なら、大好きだったはずだもの」
     りんねから青い薔薇を受け取ると、ヒロは空間の出口へ足を向けた。
    「待って」
     声に振り向くと彼女は悪戯めいた表情を見せ問い掛ける。
    「ペンギン、好き?」
     白と薔薇に霞むりんねの姿を見ながら、ヒロは叫んだ。
    「もちろん!」
     見えなくなった彼女とペアともは、きっと満面の笑みを見せていただろう。

     ヒロにはそんな確信があった。






    「あれ」
     どうして自分はプリズムストーンの前に立っているのだろうか。いつの間にか持っていた青い薔薇を見ながら、ヒロは疑問に思う。
     確か今日は、なるにプリズムストーンへ来るように言われたのだった。
     なるはもうプリズムストーンの人間ではないのに何故と考えなくもないが、今でもプリズムストーンの人達と交流があるので、彼女がプリズムストーンに赴くのはおかしな話では無い。
     ただ、自分が呼ばれる理由はわからなかった。
     プリズムストーンの自動ドアが開くと同時に大きな音が連続で響く。
     それと同時に発せられる火薬の匂いと手に持った円錐に、目の前の面々がクラッカーを放ったことに気付いた。
    「お誕生日おめでとうございます!」
     声を揃え、祝いの音を響かせる。彼女たちにこうやって祝われるとは思っていなかったためヒロ面を食らうが、事態を把握すると嬉しさで涙がこみ上げてきた。
     ――仲間内で盛大に祝って貰うのは、初めてだったのだ。
     泣くところを見せたくない。ヒロが慌てて後ろを向くが、いち早く察したわかなが楽しげに声を上げる。
    「あれあれ~? 感動しちゃって泣いちゃったのかにゃ?」
     図星と動きが止まるヒロの手を取ったのは、なるだった。
    「喜んでもらえて嬉しいです! べるちゃん達や皆でどうしようか、って頑張った甲斐がありました!」
     ――皆ヒロさんの事が大好きなんですよ。
     ヒロは、何処かで聞いた彼女の言葉を思い出す。
     きっとそれは、お礼と称して現れた青い髪の少女が一番伝えたかったことなのかもしれない。
     貴方はもう寂しく無い。
     愛に飢えなくて良いのだと。
    「皆有り難う」
     心からのお礼。
    「ご馳走冷めちゃいますし、早く一緒に食べましょう」
     なるの言葉に頷き始まる時間にヒロが噛みしめるのは、幸せな時間だった。


     ボロボロになる爪は、もう無い。

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