【ツバエルツバ(ひろぷり)】攻略宣言私の一番の騎士は、陽の光の中で一層オレンジの毛並みが美しく輝く青年だった。
鳥の姿は相変わらず狂おしいほど愛らしいのに、人間になると凛々しくて可愛さと同じくらい格好良くて……彼と出会えた事は本当に幸せと何度だって思う。
もしかしたら、私と会うために彼はソラシド市に落ちたのかも――なんて運命や必然の類の事も考えてしまうほどだ。
真摯に真っ直ぐに、私を護ると決意し実行した彼に、私が惚れるのはきっと当たり前の事だったんだと思う。
普通は赤ん坊の頃の記憶なんて忘れることが常なのに、彼との事は覚えていることが多い。
私が転びそうになったら支えてくれて、敵にさらわれそうになった時はそれこそ命を賭して救おうとしてくれたのだ――あの時果敢に飛ぶ姿は鮮明に脳裏にも焼き付いている。
いつだって、プリンセス、なんて優しく微笑みかけてくれるのだから。私が彼を恋し愛するようになる事は、当然だった。
そう、私が彼に恋し愛する事は、だけであるが。
「プリンセス、今日もお美しいですね」
城内で出会うとすぐに彼は片膝を着いて讃美を言葉にした。
煌めく瞳を見るに、彼は心から思っているのだろう。嘘を吐けない性格でもある。
意中の相手から褒められれば、女の子は誰だって嬉しいものだ。それに恋愛の情が込められていなくても……。彼からの私への矢印は敬愛であり親心という意味合いでの親愛なのである。
彼は私が彼に恋をしている事も、恋も愛も向けてほしいと思っているなんて、このままだと一生気づく事は無いのだ。きっと私がステキなオウジサマとケッコンして幸せになるんだという未来が来る事を夢見て疑わない。
何度考えても、私はそんな最低な未来を選びたく無いのよね。
「ねえ、」
私が声をかけると、彼は小首を傾げる。歳上の男の人だけれども、その仕草が可愛らしいと私は思う。
「動かないでね」
彼の両頬を固定すると、口許のすぐ横に唇を落とした。顔を離すと彼は特に気にもせず――挨拶だとでも思っているのかしら!?――私を見つめ続ける。
強引に唇を奪うなんて彼に対して気が引けたから遠慮したというのに、こんなに平然としているなんてそっちにすれば良かったわ、なんて考えてしまう。
「ねえツバサ。次は口にして良いかしら?」
この言葉に流石に彼も慌てたのか、ご冗談をって顔を真っ赤にしている。その姿がとても可愛らしくて不貞腐れた感情は少しだけ上昇した。
「私はもう赤ちゃんじゃ無いし、口付けの意味くらい分かっているわよ」
なんなら赤ん坊の作り方だって知っている。
だったら尚更こんな事、なんて言葉に詰まる彼の顔はもっと赤くなる。
――こうして意識してくれるなら、一先ずは成功といったところかしら。
「またね、ツバサ」
もっともっと私のことでいっぱいになれば良い。
今はまだ答えという好意を口にしないでおいて、長い紫の髪とドレスを翻し、部屋へ向かった。
次は思いきって押し倒してみようかしら、なんて彼への攻略は始まったばかりである。