「起きた?」
***
視界は最悪だった。
前方に手を伸ばせば、自分の手すら見えなくなるほどの吹雪。おまけにただでさえ寒かった気温がさらにぐんと下がってきた。きっと日が沈んだのだろう。夜が明けるのを待つよりも先に、動けなくなるほうがずっと早いに決まっている。木の根にうずくまれば、多少は生きている時間が伸びるかもしれないが、それでも雪に埋もれた死体が一つ、早朝に見つかるだけだろう。
はぁ、と息を吐く。白い息が見えるのは、雪の照り返しで異様に明るいからだ。厚手の手袋をはめた手のひらを見る。雪が少しずつ染みてきていた。指先が冷たいのを通り越してほとんど感覚がなかった。
さく、と自分以外の足音が聞こえた。どきりと心臓が早鐘を打ち始める。
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