バレンタイン小話「三郎〜!!」
手を振ってやってくる謝憐に花城は顔を上げる。
「兄さん!!」
「おはよう、呼び出して悪かったね」
「いいや、ちょうど兄さんに連絡しようとしてたんだ」
少し声が弾む。
だって、今日はバレンタインデーだ。少しは期待していいはず。
「そうだったのか」
会えて良かったと、頬を桃色に染めて謝憐は微笑む。
僕の天使は何て可愛いのだろう。
「それで、三郎。これ」
渡されたのは小さな紙袋。
「大したものではないんだけど、あ、味見はした。食べられると思う・・・んだけど」
ゴニョゴニョと語尾が消えていく。
しかし、聞き取れなくても聊かの問題もない。その時すでに花城の意識は飛びかかっていた。
「手作りなの!?」
神からの手作り菓子。これは神の食べ物だ。
生きてて良かったと、涙が溢れそうになる。
「三郎、おーい・・・」
紙袋を両手に持ったまま、天に召されそうになっている恋人に、謝憐は苦笑いをする。
「大事にします!」
「いや、食べてね」
あの部屋に飾られるのが想像出来て、先に注意をする。
「そんなに日持ちしないだろうし」
ただでさえ、自分の作ったものは友人たちからは劇物扱いされている。
これ以上は命の保証は出来ないと。
「・・・じゃあ、たべます」
「随分未練がある顔だな」
「貴方が手ずから作ったものを頂けるなんて、滅多にない機会です」
「そう?」
「そうですよ」
ふーん、と謝憐は少し考えて、そうだ。と手を叩く。
「私が毎日ご飯を作ってあげれば良いんだ!」
「へ?」
間抜けだ。すごく間抜けな声がした。
ただ、あまりの驚愕に花城は取り繕うことも出来ない。
「「・・・・・」」
それってプロポーズなんじゃ・・・
口から滑り落ちた言葉の重大さにやっと謝憐は気がついて慌てる。
「あ、いや、そのこれはだね・・・」
「も、勿論、お願いします!!」
「は、はい!!よろしくお願いします!!」
お互い真っ赤になりながら目線が合うと、堪え切れずに笑い出す。
一頻り笑気を吐き出すと、花城は自分のコートのポケットに手を入れる。
「・・・これじゃ、格好がつかない」
唇を尖らせながら差し出した。
小さな箱は・・・
謝憐の目が驚きで大きく開く。
「こ、これ・・・わ、たしに?」
「はい、ずっと一緒にいましょう」
震える指先で箱を開けると、チョコレートより甘く、鮮やかで輝くものが入っていた。
「もちろんだ!!」
謝憐は全力で花城に抱きついた。