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    dressedhoney

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    フェルヒュー+エデレス成立前提のエデ+ヒュ
    ★二人での執務中、ヒュの首筋にキスマークを見つけたエデは……
    エーちゃんがわがままな小話

    #フェルヒュー
    ferhu

    嫉妬——エーデルガルト「次は先日行われた、旧同盟領における交易路に関する資料なのですが……」
    エーデルガルトがヒュ―ベルトと共に皇帝の私室へ缶詰となってから、実に数時間は過ぎようとしていた。
    泰平の世を築くべく、彼女らは終戦後も政務に尽力している。
    部下に割り振れる仕事はなるべく渡してしまっているが、後継者の育成もまだまだな現帝国においてほとんどの最終決定権はエーデルガルトにあり、彼女の机はいつだって書類の山に埋もれていた。
    その山を今日こそ切り崩すと宣言したのはエーデルガルトであり、ヒュ―ベルトを呼び込んだのも彼女自身ではあるが、発案者だからとて疲労が軽減されるわけもない。
    休憩を挟まず行われる書類仕事に、エーデルガルトは既に悲鳴を上げていた。
    ヒュ―ベルトは確かに優秀である。
    既に山の四分の一程度は処理したが、ヒュ―ベルトがいなければその半分も終わらなかっただろう。
    しかし彼は彼女にとって、今日に限っては優秀すぎた。
    特に本日の内容はヒュ―ベルトの得意分野であり、彼の手は止まることがない。
    エーデルガルトはそれについていけないでいた。
    一言休憩しようと彼女が言えばヒュ―ベルトは止まるだろうが、エーデルガルトはその一言を言えないまま指定の資料を探し出す。
    自分で呼んだ手前だとか、いくら切り崩したとはいえまだ半分以上書類が残っているだとか、彼女が口をつぐむ要因は枚挙に暇がなかった。
    であればヒュ―ベルトがそれに気付いて気を遣ってやればいいし、実際彼も気が付いてはいるのだが、彼はあくまでエーデルガルトが宣言しない限り同じペースで続ける心づもりである。
    エーデルガルトはそのようなヒュ―ベルトのスタンスを理解してはいたが、やはり彼女が声を上げることはなかった。
    「あらかた主要経路の整備が済みましたので、そろそろ新しい経路へ着手してはどうかいという話で。ゴネリル領と旧リーガン領を結ぶ……口では説明しにくいですね」
    ヒュ―ベルトが手持ちの資料に印をつけ、エーデルガルトに渡そうとする。
    しかし彼女はそれを制した。
    そして席を立ち、ゆっくりとヒュ―ベルトの方へと歩み寄る。
    「いかがされましたか」
    ヒュ―ベルトが座ったまま問えば、エーデルガルトはやれやれといった風に首を振った。
    「ずっと座りっぱなしで、さすがに疲れたの」
    仕事の手を止めずに仕事への気を紛らわせる、エーデルガルトなりの気分転換である。
    ヒュ―ベルトは左様ですかとだけ言い、背後に移動してきた彼女が読みやすいように資料を広げた。
    「こちらからこちらへの経路なのですが……」
    エーデルガルトはヒュ―ベルトの肩越しに資料へ目を通す。
    ヒュ―ベルトは少し体を彼女の方へ傾けながら、話を続けた。
    エーデルガルトはヒュ―ベルトの指を追いながら、彼の話に耳を傾ける。
    彼女は時おり疑問点を指摘しながら、納得がいくまで二人で議論を重ねた。
    「……あら?」
    おおかた話がまとまりつつあった頃合いである。
    エーデルガルトが、ヒュ―ベルトのある異変に気が付いたのは。
    「なにか気付かれましたか。懸念事項は今のうちに洗っておきましょう」
    ヒュ―ベルトが資料を見ながらエーデルガルトに続きを促すが、彼女は黙ったままである。
    不思議に思ったヒュ―ベルトが彼女の方に向き直れば、エーデルガルトはすっと手をヒュ―ベルトへと伸ばした。
    その指はヒュ―ベルトの首の裏筋へと延び、ある場所をくるくるとなぞる。
    一体どうしたものかとヒュ―ベルトはエーデルガルトの顔を見上げたが、彼女の瞳には何も映っていなかった。
    「……少々激務が過ぎましたかな。どうにもお疲れの様で」
    エーデルガルトに無理をさせている自覚のあったヒュ―ベルトは、理解できない主の行動に加減を間違えたかと内心反省する。
    つい先日、エーデルガルトの伴侶たるベレスから『二人とも無理しすぎないでね』と釘を刺されたばかりなのだ。
    さっそく言いつけを破ったとなれば、かつての教師としての彼女がまた顔をのぞかせるだろう。
    彼女もまたフォドラのため、エーデルガルトのため尽力している一人であるので、出来れば手を煩わせるのは避けたかった。
    どうしたものかとヒュ―ベルトが思案する間も、エーデルガルトはヒュ―ベルトの首筋、ある一点をなぞり続けている。
    何かの暗号だろうか、それとももっと単純な?
    「…………!」
    ヒュ―ベルトがその意味に気が付いたのは、彼女に触れられている場所を具体的に想像した時であった。
    あまりの羞恥に、顔が真っ赤に染まる。
    首の裏筋、普段であれば襟で隠され、ヒュ―ベルトより背の高い人物でないと目にすることが出来ないその場所には。
    あるのだ、秘密の場所に、秘密の物が。
    ヒュ―ベルトはエーデルガルトへ謝罪するため口を開こうとするが、それよりエーデルガルトの行動の方が早かった。
    「なっ……」
    エーデルガルトが、先ほどまで指でなぞっていた場所に唇を寄せる。
    そうして思い切り、吸い付いた。
    ヒュ―ベルトは目に映る光景が理解できず、身を固くし声を上げることもできない。
    彼に許されたのはただ、リップ音と共に主の唇が首筋から離れ、真横にあった彼女の顔が後ろへと引いていくのを感じることだけであった。
    「妬けてしまうわ」
    耳へと吹き込むような焦げた言葉に、ヒュ―ベルトは思わず肩を跳ねさせる。
    ぞくりとしたものが、上から下へと背骨を駆け抜けていった。
    良くない火種を投げ込まれたようである。
    腹の底で、得も言われぬ感情が燻っていた。
    やけるという、その言葉の真意を。
    彼は。
    彼女は。
    「……だって、私と師より堂々と仲良くしているんだもの」
    ヒュ―ベルトは、詰めていた息をようやく吐いた。
    やはり過慮であり、ヒュ―ベルトの浅慮が招いた些事である。
    皇帝が自分に向ける嫉妬を些事などと一蹴するのもどうかとは思うが、ヒュ―ベルトの中にはそれが些細なことと思ってしまうほどの杞憂があったのだ。
    エーデルガルトはベレスのことを愛しており、公的にも伴侶であった。
    しかし立場上おいそれと愛し合う様子を衆人観衆に晒すわけにもいかず、かといって恋人関係という期間をすっ飛ばして結ばれた二人であるから、彼女らは満足な蜜月をまだ過ごせていない。
    そんな彼女の前でこのような——首筋にキスマークを付けて政務に励むなどという——姿を見せては、エーデルガルトが嫉妬するのも当たり前であった。
    ヒュ―ベルトは今度こそ彼女に謝罪の言葉を述べる。
    「申し訳ございません、エーデルガルト様。ただ、これはフェルディナント殿に非があるのではなく、」
    ヒュ―ベルトの言葉を遮る様に、エーデルガルトの手が再び彼の首筋へ伸ばされた。
    そして白い手袋が汚れるのも構わずに、口紅の跡を親指で拭いながら彼女は言う。
    「貴方がねだったのでしょう? わかるわよ、あなたのこと、それくらい」
    ヒュ―ベルトが見上げたエーデルガルトのライラックは、確かに、燃えていた。
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