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    🖋→Twitterのリプツリーログ等。30日CPチャレンジ走り切りたい……

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    30日CPチャレンジ2日目
    Cuddling 抱きしめる
    ーーー
    原作軸(地獄昇柱〜最終試験前)
    CとJとSQが三人でお茶をしながらガヤガヤする話
    原題は「Cがでっかいぬいぐるみ抱えてるのを見て大爆笑するJ」

    ##CJ
    #30日CPチャレンジ
    30-dayCpChallenge

    2:Cuddling 青い空、空よりも青い海。太陽は頂上を少し通り過ぎたところから地上を燦々と照らしている。
     この日のジョセフに課せられた特訓は、リサリサ所有のエア・サプレーナ島近海をひたすら遠泳するというものだった。矯正マスクを装着しながら取り組むことで、ただ肺や呼吸器を鍛えるだけでなく、体力が限界を迎えた後も正しい波紋の呼吸法を維持するように身体に覚えさせることが目的というのは他でもないリサリサの談だ。ただこの矯正マスクは波紋の呼吸をしないと息ができなくなる仕様なので、文字通り命懸けで呼吸を維持しなければならず、鍛錬中に掛かる精神的プレッシャーも果てしない。それも計算のうちなのかもしれないが、来島初日から地獄昇柱に突き落とされ、どれだけ修行内容に抗議しても養豚場の豚を見るような目で静観され続けた経験を持つジョセフからすると、リサリサはただ『ついてこれなければそれまで』と考えているだけのように見えた。
     ——なんてことを考える余裕がある程度に、ジョセフはこの遠泳の鍛錬に慣れ始めていた。全身を使って何時間も泳ぎ続けるので体力が大幅に削られることには変わりないけれど。
     そんなこんなでジョセフは今日も無事に十数キロの距離を泳ぎ切り、午後の特訓がひと段落つく。海から地上へ上がろうとすると、浮力の助けのなくなった分だけずっしりと錘を乗せたような圧力がジョセフの身体にかかる。

    「お疲れ様です、午後の修行はこれで一旦中断とします」
    「中断……?」
    「ええ、少し用事があるの。続きは夕食の後に再開しましょう」

     何とか海中から全身を引き抜き、地面に転がりながら息を整えるジョセフはリサリサからタオルを受け取る。真っ先に顔に滴る水を拭うと、今朝洗濯したばかりなのか、石鹸のような匂いと干したての布団に似た太陽の匂いがした。



    (そういやシーザーの奴、もう特訓終わったかな)

     身体を拭いたタオルと海水に濡れた服を使用人たちに預け、シャワーを浴びたジョセフはさっぱりとした気持ちで館内の廊下を歩いていた。
     およそ日が沈むまで、束の間の休息を与えられたジョセフ。彼はその時間を共に修行をする仲間であり、気の置けない友人であるシーザーと過ごそうと考えた。今日は偶然朝から
     鍛錬も別々であったので、どんな特訓をしたのか聞いてみたい。たまには自らお茶の用意でもしてやろうと、ジョセフは優雅で華麗なティータイムの構想を頭の中で練る。
     そうして浴場や彼の私室などを様々に訪ねてみたものの、ジョセフが足を運んだ場所のどこにもシーザーの姿はなかった。普段は相手の方から探して話しかけてくれることも多いので、これほど訪ね回ってシーザーの姿を見ないという経験はない。おかしいなぁ、とジョセフは小首をかしげた。

     ジョセフは彼がいそうな場所は大体見回ってしまったので、次はどこを探すべきかと思案しながら彷徨う。宝石のような青緑色が凪いだアドリア海、そしてその手前に横たわる広大な中庭を通路の窓から見下ろしてみるが、それらしい人影は見つけられなかった。
    ジョセフが人探しをしながらしばらく歩き続けていると、突然客間の扉が開き、そこからスージーQが現れる。箒やバケツなどを抱えているところを見るに、どうやら掃除をしていたらしい。彼女はジョセフに気づくと花が咲くような笑顔を浮かべた。

    「お疲れさま! もう今日の鍛練は終わり?」
    「サンキュー! オメーもお仕事お疲れちゃん! いやァそれがよォ、リサリサが用事あるつって中断しただけなのよねン。夕食の後にまたやるんだと」
    「大変なのねェ……」

     スージーQは頬に手のひらを添え、同情するように眉尻を下げた。彼女は波紋使いではないためジョセフやシーザーがどのような敵と戦おうとしているのか、その詳細については何も知らない。しかし彼らの修行を間近で見つめ、そして支えていることは紛れもない事実であって、ここで修行に励む誰もが彼女の献身を理解していた。ジョセフもまたその内の一人で、スージーQの表情にかかる翳りを払うために何か別の話題を探す。

    「……なァスージーQ、そういやシーザーの野郎見てねえ? 結構探してんだけど見つかんねーんだよ」
    「あら、シーザーなら朝から街へ出て行ったわよォ? なぁにJOJO、聞いてなかったの?」
    「そーなの? 全然知らなかったわ。折角この俺が優雅にアフタヌーンティーでも淹れてやろうと思ったのに、間の悪い奴だぜ」

     スージーQの話はジョセフにとっては初耳で、今まで彼を探すために歩き回っていたことがまったくの骨折り損だったことを悟ってげんなりとした。
    しかし肩を落とすジョセフとは対照的に、スージーQは頬を赤らめて目を見開き、明らかに気分を高揚させた様子で声色を弾ませる。

    「ええッ!? JOJOって自分でお茶淹れたりできるの……!?」
    「どういう意味だよ! 俺だって英国出身、エリナおばあちゃんにみっちり仕込まれてるんだぜ? 紅茶の一杯や二杯や百杯ぐらい余裕で淹れれるっつーの!」

     ジョセフの決定的な言葉で彼女の視線に混ざっていた疑いの眼差しがなくなり、凄いじゃない、と言いながら楽しげに両手を胸の前で合わせる。

    「ならシーザーが帰ってきたら私にも淹れてもらおうかしら? おやつどきには戻ってくると思うし」
    「いいぜ、それじゃあアイツ見かけたら教えてくれよ。俺はキッチンで準備してるからさ」
     わかったわァ、なんて間延びした声を上げながら元気に手を振るスージーQと別れ、ジョセフは宣言通り館のキッチンへ向かう。移動の途中、窓から外を覗いて時計塔を見ると、その針は十四時過ぎを指していた。後一時間ほどでシーザーが戻ってくるのであれば、お茶菓子の一品ぐらいは作る時間はあるだろう。
     キッチンに行くまでの道中、ジョセフは何を作るか考える。そうしていると彼の脳裏にふと、まだ自身が幼い頃、祖母と共にアップルパイを焼いたときの記憶が蘇った。
     慣れた手つきでするすると林檎の皮を剥く祖母の隣で、料理の経験など数える程しかないジョセフは皮の剥かれた林檎を辿々しい手つきで薄くスライスしていく。それを砂糖で煮詰めるときのシナモンの匂いや、パイに塗る艶出し用の卵黄の色、そしてオーブンから漂う芳醇なバターの香り。焼き上がったそれを二人で切り分け、祖母特製のブレンドティーと共に戴く。そんな和やかな思い出が明瞭にジョセフの表層に現れた。

    (久しぶりにアップルパイでも焼いてみるか? んー、でも時間が微妙だな……)

     思い出に浸りながら歩いている内に目的地であるキッチンの扉はすぐそこまできていた。
    作りたい料理の大まかな方向性は定まったので、細かいことは材料を見てから考えようと、ジョセフは木彫りの重たい扉に手をかけた。せめて林檎はたくさんありますようにと心の中で祈る。



     オーブンの焼き時間の残りが一桁にまで減った頃。キッチンの中にはケーキの焼ける甘ったるい匂いが立ち込めていた。
     熟考の結果やはりアップルパイを作る時間はないと判断したジョセフは、その折衷案として林檎を混ぜ込んだパウンドケーキを焼くことにした。賽の目切りにした林檎を煮詰めてコンポートにし、それをケーキ生地に混ぜ込んで焼くだけの簡単な焼き菓子だ。焼くまでの作業よりも焼いている時間の方が長いので、使った器材を洗い終えたジョセフはコンポートにしきれなかった林檎のあまりを摘みながら暇を持て余していた。
     そうしているとジョセフの退屈を察したように、廊下の外からバタバタと忙しない足音が近づいてきて、間もなくキッチンの扉が勢いよく開かれる。

    「JOJO〜! シーザーが帰ってきたみたい……って、なァにこれ! すっごく良い匂い!」
    「マジかよ、グッドタイミングじゃねえか! もうすぐケーキが焼けるからよ、お茶と一緒にそっちに持って行くわ」
    「まさかケーキまで焼いてるなんて思わなかったわァ……! じゃあシーザーと一緒に食堂の方にいるわね!」

     再び忙しなく去って行くスージーQの背中を見送り、ジョセフはポットが並々になるよう湯を沸かす。焼き時間の残りはおよそ五分を示している。ジョセフはこの短いタイムリミットの間に、茶器や皿などの準備を終わらせてしまう。普段は使用人たちがこうしたお茶の準備もしてしまうため、どこに何が収納されているのかがイマイチ分からないジョセフは少し準備に手間取ってしまう。それでも何とかトレイの上に必要な道具や食器を揃えていく。タイミングよく沸いた湯を使ってティーカップやポットを温めながら、棚の上に並べられた紅茶の缶のラベルを確認する。

    (エリナおばあちゃんは確か……これと、これをブレンドしてたはず)

     アッサムとアールグレイと書かれた缶を取り出し、ポットに注いだお湯を捨ててから茶匙でそれぞれの茶葉を数杯ずつ掬い入れる。ついでにティーカップに注いだお湯も捨てておく。
     あらかた準備が整うと、オーブンに備え付けられたタイマーがケーキの完成を告げる。ジョセフが調理台の上に置かれたミトンを引っ掴んでオーブンの扉を開くと、部屋に立ち込めた匂いよりもずっと鮮烈な甘い空気が放たれる。火傷しないよう注意して鉄板ごとケーキを取り出すと、それは予想以上にうまく焼き上がっていた。満足のいく出来にジョセフの頬は自然と弛む。早速今ここで焼き立ての味を試してみたい気持ちになるが、あまり時間をかけていると紅茶が冷めてしまう。少し迷ったのち、結局二人のところに合流してから切り分けることにした。ジョセフはトレイに乗せた丸皿の上に型から外したケーキを置くと、両手に大量の荷物を抱え、弾む心と共に調理場を後にする。



     足早に二人の待つ食堂へと向かうと、その入り口の扉の前にスージーQが立っていた。

    「こんなとこで突っ立ってどしたの? 中に入んねーの?」
    「そ、それは……JOJOが食堂に入る前に、先に伝えとこうかなって」
    「……何を?」

     先程食堂を出て行ったときとは打って変わって随分しおらしい態度を見せるスージーQにジョセフは困惑を隠せない。何のことだろうと考えてみても、ジョセフには彼女が言わんとすることに思い当たる節がなかった。

    「実は、シーザーが……」
    「……シーザー? あいつがどうかしたのか?」

     言い淀む彼女から発せられた待ち人の名前に、ジョセフの胸には一抹の不安が過ぎる。朝から街へ出かけ、怪我をして帰ってきたのだろうか? 一度悪いことを想像すると芋づる式に雑念が浮かび、上手に焼けたケーキのおかげで高揚していた気分が途端に不安に置き換わっていくのを感じた。

    「ちょっと片方持っといてくれねェ?」
    「え、ええ……じゃなくて、シーザーがね——」

     スージーQの言葉を待つより先に、ジョセフは解放された片腕で食堂の扉を押し開く。部屋の中はいつも通りの食堂で、数刻前に昼食を採った時と何ら変わりはない。扉を開いて奥の方、長いテーブルの端には見慣れたブロンドの髪の青年が座っていた。ずっと探し回っていた男の姿だ。

    「シーザー!」
    「ああ、JOJOか」

     彼の方へと近づきながらその名前を呼ぶと、シーザーはすぐに振り返って椅子から立ち上がろうとする。その瞬間、彼が立ちあがろうと身を屈めたときに、ジョセフの目に予想外の光景が広がる。
     入り口からではシーザーと机の上の装飾により死角となって見えなかったのだが、なんとシーザーの隣の椅子に、巨大なクマのぬいぐるみが着席していたのである。

    「俺たちのためにお茶を淹れてくれたんだって?」
    「…………クマ?」

     シーザーは何もおかしいことは無いと言わんばかりの平静さだった。
     心配して損したとか、どういうことなのとか、ジョセフの胸の内に色々な感情が駆け巡る。唯一正確に言えるのはスージーQの様子を見て抱えた緊張が完全に緩み、ジョセフの手から大量の茶器の乗ったトレイが滑り落ちそうになったことだけだ。



    「だから先に伝えとこうと思って待ってたのよォ。JOJOったら絶対ビックリしてお茶をひっくり返しちゃうだろうし!」
    「そういう大事なことは先に言えよ! 中々要件言わねェから何事かと思ったわ!」

     心配が杞憂に終わったのを良いことに、ジョセフは大袈裟に文句を言いながらお茶会の準備を広げる。キッチンから運んでいる間にちょうどよく蒸れた紅茶をそれぞれのティーカップに注ぎ、波打ったパン切り包丁でまだ温かいパウンドケーキを切り分ける。それらを慣れた手つきで配膳すると、ジョセフは二人にそれらを勧める。

    「さァ召し上がれ。今回のはか〜なり自信作だぜ」
    「おい、もしかしてこのケーキも手作りなのか?」
    「そうよォ! おばあさまに教えてもらったんですって!」
    「なんでスージーQが自慢げなんだよ……」

     意外だと思った表情を隠さずに浮かべ、シーザーは恐る恐るといった手つきでゆっくり卵色のスポンジにフォークを突き刺す。一口大に切り分けたそれを口の中へ含むと、彼は目を見開き、頬に人差し指をあててくるくると回す。金色の睫毛に縁取られたオリーブ色の瞳は何かを言いたげにジョセフの方に向けられていた。

    「……Buono! 美味いぞJOJO!」
    「ええ、ええ! ホントに! こんな特技があるんだったら早く教えなさいよ!」
    「だろォ? もっと褒めてくれても良いんだぜ」

     ジョセフは二人からの賛辞を受け取りながら、自らも得意げに自信作のケーキを食べる。甘く煮詰められた林檎と、その分砂糖の量を減らして甘さを控えめにしたスポンジのコントラストがうまく調和していた。口に含むとコンポートを作る際に混ぜ込んだシナモンの風味がほのかに広がり、それがかつて食べた祖母のアップルパイのものと同じで、懐かしさにジョセフの表情が穏やかに弛む。

    「本当はアップルパイにするつもりだったんだけどよ、ちィっとばかし時間が足りなかったのよねン。誰かさんを探してた時間がなければできたかもだけど?」
    「ム……そういえば言い忘れていたかもしれない。すまないことをした」
    「まァあんまり気にしてないんだけどな! それよりシーザー、今日は何処に行ってたんだよ。まさかテメーだけ修行してねぇなんてことはないよな!?」
    「当たり前だろう。ロギンズとメッシーナの二人と本島の方で修行をしていた」

     シーザーの言う本島とはヴェネツィアのことを指している。しかし島全体がリサリサの所有地であるこのエア・サプレーナ島とは異なり、本島は沢山の市民や観光客で溢れかえっている。しかも土地自体も沢山の建物によって入り組んでいて、ジョセフにはあのような場所で波紋の修行ができるとは思えなかった。
     そんなジョセフの疑問を察してか、シーザーは問われるまでもなく言葉を続ける。

    「二人が人混みの中に紛れ込み、俺は彼らの波紋を辿って二人を見つける。それが今日の修行内容だったんだ」
    「そんなことできんの!?」
    「ああ。お前もやってみればできるんじゃあないか?」
    「でもォ、どうしてぬいぐるみを持って帰ってくることになったの?」
    「そ、それは……」

     スージーQの指摘にシーザーは一瞬言葉を詰まらせた後、何かに区切りをつけるように大きく息を吐いて、ぽつりぽつりと話を始める。
     彼の話によると、このぬいぐるみはヴェネツィアの街の一角にある雑貨店で見つけたものらしい。ロギンズたちを探索する側、偶然その店の前を通りがかり、そしてショーウインドウの中に飾られたこのクマのぬいぐるみと目があったそうだ。

    「テメー修行中に何やってんだよ」
    「それについては俺も自分でどうかと思った。だが……どうにも既視感があってな」
    「既視感? テディベアなんて大体どれも同じ顔だろ」

     しかしシーザーはそう思わなかったらしい。彼はその既視感が気になりすぎて、師範代たちの波紋を辿るための集中が切れてしまったのだ。これでは修行に支障をきたすと判断し、当時の彼はまずその既視感の正体を解き明かすことに意識を集中させることにした。 
     ガラスを隔ててシーザーの方を見つめるぬいぐるみを、シーザーもまたじっと見つめる。しばらくの間そんな風にして頭を働かせていれば否が応でも問題は解決へ向かう。今回もまた答えに辿り着くことはできたのだが、シーザーがふと視線を少し横にずらすと、そこには雑貨屋の店主がぬいぐるみと同じように視線を自身に向けていることに気がついた。

    「…………それで購入を勧められたというわけだ」
    「ぶッ、アッハハハハハ!!」
    「ええッ!? それで買ったの!?」
    「ああ」
    「修行中だったのよね……?」
    「……ああ。だからその後はずっと抱きかかえて二人を探していた」
    「ヒィ〜〜〜!! やば、ッはは、腹痛ェわマジで!!」

     腹を抱えながら大爆笑するジョセフに対し、スージーQは純粋な驚愕の表情を浮かべている。二者それぞれの反応を見て、シーザーは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。
     ジョセフは改めてシーザーの隣に座るぬいぐるみに視線をやる。大きさは座った状態で一メートル程はあるだろうか。とにかくその大きさが衝撃的な情報として真っ先に脳に飛び込んでくる。笑いを堪えて細部を見ると、首元には緑色を基調としたボーダー柄のリボンがマフラーのように巻き付けられていて、その色の鮮やかさが栗色の生地に生えている。頭部に小さくちょこんとついた丸い耳も、光を反射してきらりと輝く大粒の黒いボタンの瞳も愛くるしい。
     ただ今のジョセフは、これがシーザーと長時間見つめあっていたぬいぐるみであるという事実を意識するだけで笑い転げそうになる。唇の裏側を噛んで堪えながら、時たま小刻みに震えて笑うジョセフにシーザーは怪訝そうな顔を浮かべた。

    「そんなに面白いんだったら、お前にやるよJOJO。お茶とケーキの礼だ」
    「〜ッ!……じゃなかった、なんでだよ? お前が見つめて……ッププ、買ったテディベアだろ?」
    「いや、それは何というか……むしろ貰ってくれるとありがたいんだが……」

     シーザーの性格的に、例え強引に何かを勧められたとしても、本当に不必要なものであれば彼はキッパリと買わないことを伝えられるだろう。ジョセフとスージーQは不思議に思って顔を見合わせる。

    「……そうだわ! それより気になるのが、結局その既視感って何だったの?」
    「そういや聞いてなかったな。何だったのォ? シーザーちゃん」
    「……あー、えっとだな…………」

    やけに歯切れが悪いので、あれほど笑いが込み上げていたジョセフですら気分が落ち着いてくる。二人してシーザーの次の言葉を待つべくじっと見つめていると、視線で穴が開く代わりにシーザーの顔色がどんどん真っ赤に染まっていく。元の肌が白いので余計に赤みが目立ち、視線を向ける二人はそれぞれ只事ではないようだと悟る。
    はくはくと何度か音を出さずに唇を動かした後、シーザーは消え入りそうな声で小さく呟いた。

    「…………JOJOに、似てるなって」

     普段であればうっかり聞き返してしまいそうになるほどの小声だったが、彼自身が長い間勿体ぶったせいでやってきた静寂のために、その言葉はしっかりと二人の鼓膜を揺らした。シーザーは耳の先まで火傷したように真っ赤になって、心なしか瞳が潤んでいるようにも見えた。
     ジョセフはシーザーの放った声を音としては聞き取ったものの、言葉として瞬時に処理することができなかった。時間をかけてゆっくり噛み砕いていく。
     ……それってつまり、俺みたいだから買ったってこと?

    「ンなっ、はあ!? な、何言ってんだよテメー!!? そういう歯が浮くようなセリフは女の子たちに言ってやれっつーの!!」
    「お前たちが聞くから答えたんだろうが!!」

     シーザーの感情が伝播するように、ジョセフは自らの顔が沸騰したように熱を持つのを感じる。こそばゆい気持ちを振り払うように勢いよく椅子から立ち上がって騒ぎ立てるが、どうやっても早鐘を打つ心臓は落ち着く様子がない。
     追い討ちをかけるようなスージーQの「言われてみれば、この子の色とJOJOの髪色は似てるわね。マフラーの色も!」という言葉でこの場から走り去りたくなるほどに羞恥心に拍車がかかる。余計なことをいうんじゃあねェ! という気持ちを込めて目線をやるが、他人事だからか(実際に他人事なのだ)スージーQはただただ微笑ましげに二人のやりとりを静観するだけだった。

    「お、俺に似てるからって買ったテディベアを本人に渡す奴があるか!? しかも野郎!! 身長二メートル弱の! これならまだスージーQに渡す方がわかるだろ!!」
    「やァねえ、この話を聞いて受け取れるわけないじゃない〜」
    「こういう時だけきっぱり言い切るんじゃあねえ!!」

     ジョセフとシーザーは師範代たちがいないことを良いことに、際限なく声を荒立てて言い合いを続ける。この場に居合わせた唯一の第三者であるスージーQも、彼らの間に飛び交う言葉が照れ隠しのために発せられていることを知っていたので、特に二人を止めようとする気はさらさらなかった。優雅にケーキのおかわりを切り分けながら、華麗な手つきでティーカップを手に取り紅茶を含む。
     最終的に先に痺れを切らしたのはシーザーの方だった。いきなり椅子から立ち上がり、カップに残った紅茶を一気に飲み干すと、隣に座らせていたぬいぐるみの首を引っ掴む。
    ジョセフとスージーQが予想外の行動に目を白黒させているうちに、シーザーはぬいぐるみを両手で抱え直しながら大股でジョセフの元へ移動する。

    「Grazie per il tè e il dolce, JOJO……これはお前が持っててくれ」
    「ぇ、あっ……ちょっとォ!?」

     急なことに驚き、ジョセフは差し出されたぬいぐるみを反射的に受け取ってしまった。それを見たシーザーは躊躇なく踵を返し、瞬く間に食堂から姿を消す。してやられた、という感情が脳内を占拠するが、今からシーザーを追いかけてこのやけに手触りの良いテディベアを返しに行く気にはなれなかった。ジョセフは力なく椅子に腰を下ろす。

    「素敵なお礼をもらえてよかったじゃない! あとでお部屋に飾りましょうね」

     ジョセフの内心を知ってか知らずか、やけに楽天的な声色でスージーQが言う。それに対してジョセフは何かを言おうと彼女の方を見ようとしたが、自分の逞しい太ももの上に座るぬいぐるみがジョセフの視界をすっかり遮っていたためにそれは叶わない。
    もはやジョセフにはどうすることもできず、ただ火照る身体の熱を逃すように、黙ってぬいぐるみを抱きしめることしかできなかった。
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