おかえりと、ただいま。 冬の冷えた北風が乾の金糸の髪を揺らす。うっすらと落ちてきた影に誘われ水色の空を仰ぐと、一羽のカラスが頭上を通り過ぎていった。
感傷なんて無駄だとわかっている。それでも乾はその黒い羽ばたきに九井の姿を重ねてしまった。
「ココ……」
いまさらどうすることもできないのに、あの日までずっと自分の傍に居てくれた幼馴染の名前が零れ落ちる。もうあれから一年が経つというのに、乾のなかにある九井の色彩はわずかも薄れてはくれなかった。
「そういえばイヌピー君って、ココ君と幼馴染っていってましたよね。ずっとココ君と一緒だったんすか?」
街の雑踏に溶けていくはずの声が風に乗り、隣を歩いている松野千冬まで運ばれてしまったらしい。
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