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    sayutanuco

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    ココイヌですが、千冬とイヌピーの会話になってます。
    マブに至るまでの一場面を捏造過多で妄想してみました。
    大丈夫だといいのですが……

    おかえりと、ただいま。 冬の冷えた北風が乾の金糸の髪を揺らす。うっすらと落ちてきた影に誘われ水色の空を仰ぐと、一羽のカラスが頭上を通り過ぎていった。
     感傷なんて無駄だとわかっている。それでも乾はその黒い羽ばたきに九井の姿を重ねてしまった。
    「ココ……」
     いまさらどうすることもできないのに、あの日までずっと自分の傍に居てくれた幼馴染の名前が零れ落ちる。もうあれから一年が経つというのに、乾のなかにある九井の色彩はわずかも薄れてはくれなかった。
    「そういえばイヌピー君って、ココ君と幼馴染っていってましたよね。ずっとココ君と一緒だったんすか?」
     街の雑踏に溶けていくはずの声が風に乗り、隣を歩いている松野千冬まで運ばれてしまったらしい。
     自分のこの想いが誰にも届かず虚しく消えていくこと。それが九井への償いのひとつだと思っているはずなのに、千冬の柔らかな問いかけに、乾の心は揺らいでしまった。
    「……まぁ、そんなもん。ココとはガキの頃からずっと一緒だった」
    「じゃあ、すっげぇ気の合うダチだったんすね」
    「オレにとっては、だけどな…」
     ひんやりと頬を撫でていく風が、自分に触れてくる九井の指先を思い起こさせる。
     色々なことがあったけれど、乾が帰りたいと思える場所は九井の隣だけだった。助けられてしまったことに罪悪感を感じながらも、苦しみから救い出してくれた背中の温もりを忘れるなんて無理だった。
    「それって、どーいうことなんすか?」
     首を傾げている千冬に、乾は自販機で買ったホットカルピスを投げつける。
     片手で軽く受け取った千冬から視線を外すと、乾はフード付きのコートのポケットに手を突っ込んだ。
    「オレにとってココは大切なやつだけど。ココにとってオレは重荷でしかなかったからな」
     なんの取り柄もなく、足を引っ張るだけの存在。
     そんなどうしようもない自分の傍に九井がいてくれた理由なんて、誰にいわれずともイヤというほどわかっていた。
     どれだけ九井の背に爪を深く立てても、姉の代わりでしかない自分はもうこれ以上を望めない――……
    「ココのためなら、オレはいつだって死ねるのにな……」
     微かに目を見張った千冬に、馬鹿みてぇだろと乾は小さくはにかむ。
     大事なときに守ることさえできず、九井の足枷にしかなれなかった。いつだって助けられるばかりで、なにも返せはしなかった。
    「まぁ、オレの命なんてたいして役にも立たねえし。ココはいらねぇっていうだろうけどな」
     色々な後悔を絡め取りながら虚しく消えていくだけの想い。なのに無くしたくないと、最期まで抱えていたいと望んでしまう。
     冬の寒空の下。どうしようもない感情に乾が苛まれていると、まだ中身が半分ほど残っているペットボトルを頬に押し当てられた。その温かさに誘われ視線を向けると、手が掛かるなぁと千冬が苦笑していた。
    「ふたりの間になにがあったのか詳しくは知らないっすけど。でもそこまで想ってくれる奴がいるって幸せなことだし。イヌピー君のその想いに、ココ君が救われることだってあるんじゃないっすか?」
     そんなこと、あるのだろうか。乾は金糸の睫毛を震わせながら、空色の瞳をぎこちなく瞬かせる。
     おまえもオレの金が目的だったんだろと。感情なんていらないと切り捨てられて。立ち去っていく九井の後ろ姿に、手を伸ばすことさえできなかったのに。
    「ココ君もイヌピー君も、まだしっかり生きてるんだし。心残りがあって棄てたくないなら、覚悟決めて突っ走ればいいんじゃないっすか? オレの相棒はどんなに悩んでも、立ち上がれないくらい凹んでも。必ずそうしてましたけどね」
     九井への想いと同じように、乾の中心に色濃く残っている花垣武道の姿。頑張ることはつらくないと、諦めてたまるかと。柴大寿に圧倒的な力の差を見せつけられながらも立ち向かい、膝をつかせた。
     まったく想像していなかった光景に心が震えたのを乾はしっかりと覚えている。あのとき堪らなく込み上げてきたものは、どうしようもない自分が置き去りにしてきた大切な感情だった。
    「ココ……」
     微かに唇を震わせながら、乾は手のひらに爪を食い込ませる。
     どんなに小さくても、ココ...と口にするといつだって振り向いてくれた。あの低くて艶のある甘やかな声で、イヌピーと穏やかに返してくれた。
     乾の記憶の中にある声は、すこしも薄れてはいない。けれど、もう随分と耳にしていない事実に、うまく息が吸えなくなりそうだった。
    「余計なお世話かもしんねえっすけど。そうやって立ち止まってるのって、イヌピー君らしくねぇなって」
     関東卍會の創設メンバーに九井が加わっていることは、佐野万次郎を追っているドラケンから聞かされて知っていた。そこにイザナの下についていた連中も合流し、よくない噂が乾の耳にまで届いてきている。
     誰に強制されることもなく、ひとりになった九井が選んだ道。別れを告げられた乾が干渉する余地なんてないだろう。だから、もう届くことはないのだと自分の心を誤魔化して耐えてきた。
    「ほんっとオレらには遠慮の欠片もなくて、口より先に蹴りが飛んでくるくらいだってのに。なーんでココ君相手だと、そんな聞き分けのいいイイ子になっちゃうんですかね」
    「………」
     そう、なったのはいつからだっただろうか――。
     白く染まっていく空気を乾がぼんやりと見つめていると、大きく息を吐き出した千冬が肩を竦めた。
    「まぁ、それだけココ君が特別ってことなんですかね?」
     返答なんて待つ必要もないと。唇の端を持ち上げて微笑んだ千冬の言葉に、どくりと乾の心臓が温度を持ち始める。
     少年院から出所した日。自分を待っている奴なんていないはずだった。それなのに、おかえり、と制服姿の九井はやわらかに微笑んでくれた。なんの疑問もなく、ただ当たり前のように乾に手を差し出してきた。
     あの日。離れようと思っても、どうしても九井から離れられなかった理由を乾は知った。
     もうずっと、ずっと――。乾にとって目の前にいる幼馴染だけが特別だった。九井の傍らだけが。乾が安心して帰ることのできる、たったひとつの場所だったことを。
    「……っ……」
     唇から零れ落ちていく吐息が、どうしようもなく震える。なんとか呑み込もうとしても溢れ出てくる感情は抑えきれず、乾の視界がゆっくりとぼやけてくる。
     本当は諦めたくなんてない――。
     金がすべてでいいと叫んだ友人を、無理にでも取り返したい。またこの手を振り払われることになっても。余計な世話だと告げられることがあったとしても。それでも、向こう側にいる九井を奪い返したい。
    「オレは、ココのこと……」
     もしかしたら九井はとっくに乾のことなんて忘れているのかもしれない。でも、たとえそうであっても構わない。
     自分自身が九井を諦めたくないと心から願っているのだから。
     滲んでしまった涙を作業着の袖口でぐいと拭って、乾はゆっくりと息を吸い込む。見上げた空にはもうカラスの姿もなく、ただ、澄んだ青色だけが広がっていた。
    「ドラケン君には怒られるかもだけど。イヌピー君がなんかするならオレは手伝いますから」
    「松野、でも……」
     関東卍會が危険だという噂は、元東京卍會である千冬の耳にもしっかりと届いているはずだ。それでも千冬はまかせてくださいと明るく笑って、乾の背中を押してくれた。
    「タケミっちがあっちから戻ってくるまで、できることはオレらで進めておきましょう」
    「花垣が、戻ってくる……?」
     言葉の意味がわからず首をかしげていたら、内緒ですと千冬に背中を強くたたかれた。
    「まぁ、そんなことより。ココ君取り戻せたら元壱番隊メンバーで遊びにいきましょーね」
    「……あぁ、そうだな」
     それが叶う未来なのかはわからないけれど、大切な答えを無くさないように乾はぐっと手のひらを強く握りしめる。
     この手が九井に届くまで、自分は諦めないと決めたのだから。




        ◆◆◆





    「でもココが壱番隊と遊ぶとことか想像できねぇな」
    「そんときはココ君のこと思いっきり困らせてやりましょーよ」



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