かいしんのいちげき! 久しぶりの宿屋だった。
みんなで並んでテントで眠るのが嫌いなわけじゃないけれど、旅人というのはきっと、時折どうしようもなく柔らかなベッドが恋しくなってしまういきものなのだと思う。
どれだけ仲間が増えても、ボクとカミュはいつも当然のように、お互いになんの相談もなしに二人で一つの部屋を取る。
それがなんだか嬉しいとカミュに言うと「そんなもんか?」と素っ気ない返事が来るのもそれが『当たり前』だからな訳で、やっぱり嬉しいなと思えた。
ベロニカ達にじゃあまた明日と手を振って、女将から渡された鍵の番号を確かめてから部屋のドアを開ける。
疲れたな、お風呂で寝ちゃいそう、そんな他愛のない話をしながらベッドに腰掛けて鞄の中身を整頓していたら、突然生温かい感触が首筋を撫でた。
「っひゃあ!?」
──思わず、変な声が出てしまった。
隣のベッドに寝転んでいたはずのカミュがいつの間にやらボクのベッドに移動して、首筋に息を吹きかけてきたらしい……ということを理解するのと同時に、じわじわと顔全体に熱が広がるのを感じた。
「カミュ!」
「おいおい、なんつー声出してんだよ」
にやにやしながら揶揄うその言葉に、より一層顔が熱くなる。
「もう……! 仕返しっ」
ボクはカミュの脇に指を差し入れ、思いっきりくすぐった。
「あっ、ちょ……ははははっ!」
カミュは身をよじらせてボクのくすぐり攻撃から逃れようとする。それでも体はボクの方が一回り大きいから、腕で包み込むようにカミュの胴をがっちりと捕まえれば、もう身動きの取りようがなかった。
「は、ひっ……こら! やめろって!」
「やだ! やめない!」
ボクは躍起になって叫びながら、今度はカミュの脇腹をくすぐる。抵抗しようと暴れるカミュの指が、シーツにうねる白い波を生み出していた。
──そんな風にじゃれあってどのくらい経ったのだろう、ベッドの上に転がるカミュもボクも着古したシャツみたいにくたくたに力を失って、休息のひとときのはずが全く意味をなしていなかった。
「……ああ、もう、オレが悪かったって。だから、そろそろ、勘弁してくれ……っ」
乱れた服と肩を揺らす呼吸、潤んだ瞳、白い肌にじんわりと浮き上がったあかいろ。
──あれ? なんだかすごく、カミュが色っぽく見える、気がする。
彼の吐息に混ざった熱にあてられたように、その輪郭がぼんやりと滲む。急に固まってしまったボクの顔を覗き込んで、カミュが言う。
それはふいに揺らぎ始めたボクの心にとどめを刺し、二人のかたちを変えてしまうには十分すぎる、かいしんの一言だった。
「どうしたんだよ。お前、まるで──」