その伝わり方や如何「なぁんだか、テーネ、気が進まないなぁ」
4人が放り込まれたのは、机とそれを囲む椅子の他に何もない、殺風景な部屋。
『順が来たら、呼びます』
と研究者が告げてきたことから、待合室扱いなのだと思われる。
待機するうちの一人、【カリスマ】であるテネレが、伸び気味に声を上げた。
パイプ椅子よりはいくらか質の良い椅子に腰掛け、背中を預けている。パニエの入ったスカートがふんわりと形を変える。
「気が進まんのも、当然やんなぁ。こんな人体実験みたいなこと」
応えるのは、【優しさ】のラナーク。アシンメトリーに整えた前髪を指先で翫ぶ。
「あれやろ、脳波取んねやろ?怖いわぁ」
口元には笑みを浮かべながらも、その瞳に楽しげな様子は一つもない。そんなラナークに、食い気味にテネレは「そうなの!!」と叫んだ。さらに勢いづいたテネレは、椅子から体を浮かせて、テーブルに手をついて捲し立てた。
「テーネたちが他者干渉系だからって!!人を巻き込んでまで研究進めていいわけないじゃん!!」
テネレのその言葉が物の少ない部屋に反響した直後、残り2つの影が動いた。その一人目は、ギザギザと尖る歯を三日月型に開いた口の中に光らせて笑う。
「テネレがそんな事言うなんて珍しいねぇ〜。テネレはヌビア復活支持派だったと思うんだけど?」
【野望】であるハトラは、テネレの方を見もせずにそう言った。椅子に腰掛けているという意味ではほか三人と同じだ。しかし、脚を組み、頬杖を付いているその態度は、ほか三人よりは随分傍若無人に見える。
テネレはハトラの言葉を受けて、丸い瞳をギッと鋭く向けた。
「テーネが支持派か反対派かなんてどうでもいいでしょ!」
ハトラは鼻で笑う。
「どうでもいいってことはないでしょ〜?ボクたちが参加してるのは、全てヌビア復活のための研究だよ?ヌビアを復活させたいと思っているテネレが、その研究に反対するってのは、どうも理屈が合わないんじゃないの〜?」
ガチンとキレた、という言葉が似合うほどに、一瞬テネレの顔は分かりやすく赤くなる。ラナークは動けないまま狼狽の表情を見せた。
そこに助け舟を出したのは、最後の一人だった。
「テーネ、落ち着いて?ハトラも、あんまりテーネをいじめないで」
青い髪をふんわりと揺らしてそう言ったのは、テネレの双子の兄でもあり【カリスマ】の片割れでもあるアイールだった。
「テーネは、優しいから。他の人を使った実験だと嫌になっちゃうんだよね」
「そう、そうなのアイちゃん、流石よくわかってるー!」
テネレは双子の兄の椅子に自身の椅子を寄せると、ぎゅうっと音がしそうなほどに抱きついた。他に音も無い空間の中、僅かにレース同士が擦れあう音がする。一瞬優しい兄貴然としていたようにも見えたアイールは、途端に「やっぱりそうだよねー!」とカラフルな綿菓子の様相を見せた。双子は互いをきゅうきゅうと抱きしめ合う。
ハトラはもう一度短い息を吐いたが、それ以上何かを言うことは無かった。