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    転生の毛玉

    あらゆる幻覚

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    転生の毛玉

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    【ヌビアの子】エルベとラナークの話
    高校生組は妙にこじらせているので可愛い(親馬鹿)

    ##創作

    メリクリを君と居住区の端、研究所区域に入ろうというエリアを駆け抜ける二つの足音。夜明けの『ヌビア学研究所』に、けたたましく響いた。

    「はっ、はっ…」
    「ひぃ、……」
    冷たい空気が鼻の中に流れ込むと、痛んで仕方がない。もう少し防寒をしてから部屋を出ればよかったと思う。エルベは大丈夫だろうか、と顔を上げた時だった。
    「あー!くそっ!なんでクリスマスまで学校あるんだよ!」
    叫びながら、エルベは猛然と走る。やや速度が上がる。オレは、それを必死に追いかけた。息を切らしながら、からから笑う。
    「休みにして欲しいなぁ、ホンマに!」
    「全くだよ!」
    ぜえはあと白い息を吐く。時計を見れば、一限の始業時刻、つまり8時15分まで、あと10分だった。
    「大学生身分の奴らが、羨ましいぜ、ちくしょーっ…」
    途切れ途切れながらも、エルベは悪態をつく。フエやラサ以上、大学生身分の彼らは、どんなに早くても1限が9時始業だ。そもそも、【ヌビアの子】だから仕方なく大学生身分を受けているだけで、授業をまともに取っていない面子さえいる。ナスカやハトラがその良い例だ。
    「俺だって、も少し、寝てたかった…」
    疲労に喘ぎながら走るエルベに、オレは「せやな」と笑って同意を示した。研究所区域を走り抜ける間、すれ違うスーツや白衣の人たちからチラチラと視線を向けられるのを感じる。彼らにとってまたとない研究対象が2人も息切らし走っているのだから、好奇の目を持つのも無理ないことだとは思う。それでも、止まってなんてやらない。文字通り眼中にも入れずに走っているエルベを見習うのだ。
    「こういう時さ、カステルが、羨ましくなるよな…」
    走る速度は落とさずに、エルベが呟く。オレは、頭の中に1つ年上の、背丈の小さなヌビアの子を思い出した。
    「【スピード】?」
    「そう、【スピード】」
    「せやなぁ」
    カステルは【スピード】のヌビアの子だ。長距離短距離問わず、その気になれば世界記録を全部塗り替えてしまうだろう能力の持ち主。自室から教室までの道のりを、オレ達はこうして息を切らして走っている。ところがカステルならば、ものの一分、しかも涼しい顔で教室にたどり着くことが出来るのだろう。想像すると、ちょっと悔しい気持ちになる。
    「リヨンは、遅刻なんかしねぇ、だろうし」
    「そらアレや、性格の、問題や」
    エルベが付け足した言葉に、オレは笑う。もう一人の、1つ年上のヌビアの子。【知識】でもある彼女は、その従兄と並んでヌビアの子随一の生真面目さを誇る。『ヌビア様のために勉学と研究ができるなんて、こんな幸せなことはありませんわ!』と恍惚とした表情で言い放ったときの衝撃は、今でも忘れられない。ともかく、彼女のことだ、今日も始業30分前には教室にたどり着いて清掃・予習を済ませているのだろう。こればかりは性格の問題だ。お世辞にも真面目とは言い難いオレやエルベには、生憎見倣えそうにない。

    それからしばらくは無言で走った。8分ほど全力疾走して、やっとのことで高等部の建物があるエリアに辿り着く。オレより少し前を走っていたエルベが、やっと速度を落とし、息を切らし、疲労困憊の色を滲ませながら振り返った。
    「ラナーク、今日は、研究の方は?」
    「特に、あらへんよ」
    「俺も!じゃあ帰りも一緒だな…折角のクリスマスだし、食堂で豪遊しちゃおうぜ、ケーキなんか食ってさ」
    そう言って満面の笑みを見せる。オレが「そらええなぁ、賛成」と答えると、パッ、と明るい顔を見せた。
    「じゃな!また放課後!」
    エルベはそう言うと、自分の教室のある1年棟へと駆け込んでいった。手を振り、その後ろ姿を見送る。エルベは、もう前しか見ていない。よく通る声が時折、「おはよう」と誰かに言っているのが耳に入った。
    やがてエルベが影さえ見えなくなった時、自分の顔からふっと笑顔が消えたのに気がついた。
    「………ほな、勉強しに行きますか」
    呟いて向かう先は、2年棟ではない。
    他に使う人のない自習室だ。
    今日も、そこで、オレは一人で過ごし続けるのだ。
    「ホンマ、オレはエルベみたいにはなれへんわぁ」
    オレの呟く声は、始業のチャイムに掻き消された。
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