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    sara_at

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    sara_at

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    つきしょばのアレです。
    ジョとベースの話に絵描きが狂った結果字を書きました。
    文章を書き上げたの初めてかも…拙い出来ですが…。
    俺モブ視点のお話です。

    electric bass  electric bass
      
      重いガラス扉を押し開けて、まだ薄暗い店内を見渡す。電気も点いていない薄暗い空間に唯一光が差し込む扉の前に立つと、店内に俺の影が黒々と落ちた。
     静かに陳列された楽器たちは、まだ見ぬ持ち主を今か今かと待っているように見える。
     さほど繁盛もしていないが、閑古鳥が鳴くほど寂れてもいない楽器店。そこは俺がひとりで切り盛りしている小さな城だ。
     ぱち、ぱち、と店の奥にある照明のスイッチを順に入れていくと、並べられた楽器たちが順々に輝き出す。
     ピカピカに磨かれたギター、メタリックなボディが映えるベース、店の奥にどっしりと鎮座するドラム、白と黒のコントラストが眩しい鍵盤、どの楽器も活躍する時を夢見ているようだった。
    「今日はどんな客がくるかな……」
     一人呟きながら、俺はまず店内の掃除を始めた。掃除といっても夜の間に落ちた埃を払う程度の簡単なものだ。広くもない店内の掃除はものの十分もあれば終る。
     最後に店の入り口の掃き掃除だ。秋も深まった街は、見事に街路樹が紅葉している。その美しさと引き換えに入り口前には落ち葉が色とりどりの模様を描くのだが、意外とこれに足を滑らせる歩行者が多い。
     俺は屋外用の箒と塵取りを手にしてガラス扉を開けた。
    「あ」
     ふと聞こえたのはやや高い少年の声。その方向に視線を向けると、一瞬チカリと光が目を刺した。声の主の銀髪が朝日を反射させたのだと気付いたのは、瞬きを何度かした後だった。
     見慣れない種族の少年は、銀糸に混ざった赤い頸を気まずそうに掻きながら、秋の紅葉にも負けない真っ赤な瞳を忙しなく泳がせている。どうやらショーケースの中に飾られているベースが気になるようだ。
     今日一番初めの客としては面白い。
     そう思った俺は軽く入り口の落ち葉を散らし、ショーケースと俺を行き来している瞳がこちらを捉えた瞬間に声をかけた。
    「坊主、ソレが気になるのか?」
     少年は一瞬瞳を見開いて、ゆっくり小さく頷いた。
    「店、入ってみるか?」
     元来人相の良い方では無い俺の容姿に怖気付いたのかと思ったのだが、それは次に投げかけられた言葉に杞憂だったと気付かされる。
    「いいのか?おじさん」
    「お兄さん、な」
     
      少しだけ痛んだフロアを、小さな歩幅の足音が付いてくる。
     楽器店は初めてなのか、俺の後ろの足音は時折止まり、暫くして慌てて距離を詰めてくる。規則正しく吊るされたギターやベースに目を奪われているようだった。俺はその中から木目が渋めのベースを手に取り、店のカウンターで軽くチューニングを始めた。
    「それはなんて楽器?」
     大人の身丈に合わせたカウンターに、やっと顎を乗せて少年が尋ねる。一応ギターとベースの見分けはつくらしい。観察力があるな、と内心関心しつつ、俺の手元を懸命に見つめる大きな瞳に目配せをした。
    「エレキベースだ」
    「どんな音?」
    「弾いてみりゃ分かるさ」
     チューニングを済ませたベースのネックを掴んで、店奥の革張りのソファに腰を下ろす。
    「ん」
     ぶっきらぼうに自分の股ぐらを叩き、少年に膝に来るよう促した。少年は少し戸惑い気味に俺の目の前まで歩み出ると、俺とその手にあるベースを交互に見つめる。
    「あっちのは?」
     少年が指差す先は、先程外から見ていたショーケース内のベースだった。
    「ありゃこの店で一等上等な楽器だ。簡単に触らせられるか」
    「ふぅん」
     やや不服そうに唇を尖らせる少年は、諦めたのか再び俺の手のベースへ視線を戻す。
    「じゃあコレ、ひとりで持ってみたい」
    「馬鹿、ヒョロガキが持てるほど軽くねーんだよ」
     そう言いつつ俺はベースを持つ片手を少年に突き出した。白く小さな両手がベースの太いネックをしっかり握りしめる。少年が確かに握った事を確認してから、俺はベースを支える腕から少しばかり力を抜いた。
    「う、わ……!」
     途端にベースは重力に従い、その細腕に重みを伝える。勿論俺が支えているので床に落とすような事はない。
    「重い……」
    「だから言ったろ?」
     軽くため息を吐き、俺は少年からベースを奪うと、再び自分の膝へ乗るよう促す。意図を汲んだ少年は、今度こそ膝によじ登ってきた。
     余談だが、赤々と燃える炎を思わせる彼の尾は見た目ほどの熱はなく、じわりと触れた場所に熱を伝えるだけだった。
     少年が姿勢を正すと、手近にあったアンプにベースを繋ぎ、未発達の薄い体が落ちないよう、俺の体と挟むようにベースを構えて、厚めのピックを少年に手渡す。適当なコードを押さえてやってから、右手で弦を指差した。
    「この弦をソレで弾いてみろ」
    「どれでもいいのか?」
    「いいぞ。全部一気に弾いてもいい」
     俺の返答を聞くなり、少年はぱっと表情を輝かせてベースに向き直ると、ピックを握った手を勢いよく振り下ろした。
     ボン、とアンプを通して重低音が響く。それは身体の芯に、心臓に、振動を伝えた。音の波を受けて少年の尾の光が増す。
    「ビリビリする!」
    「ははっ、お前筋がいいな」
     実際、この少年は思い切りが良かった。普通このくらいの年齢の子供は、初めて触るものにはもっと慎重になるはずだ。それを躊躇わずに四弦全てを弾く度量が、俺には気持ちの良いものに思えた。
    「なあ、違う音も出るのか?」
     すっかりベースの虜になった少年が、爛々と瞳を輝かせて見上げてくる。わずかに顎を擽る銀の髪がくすぐったい。こんな齢の子供を相手にした事などなかったのに、この子供にはどうも良くしてやりたくなった。
    「勿論だ、次はここを押さえて……」
     俺は次々とコードを押さえ、その度に少年が嬉々として弦を弾く。それはすっかり日が高く上がるまで飽きる事無く続いた。
      少年の腹の虫がなる頃、丁度俺の膝も血流の限界を迎えた。ゆっくりと少年を床に下ろし痺れた足を慎重に伸ばしていると、まだ弾き足りないのか、少年は尾を一層輝かせて俺に向き直る。
    「なぁ、また来てもいいか?」
     この少年にはまだ楽器を買うだけの財力はない。正直、客として扱うには割を食うだけの存在なのだ。俺もこう見えて決して暇な訳では無い。訳ではないのだが……。
    「ああ、いつでも来い」
     爛々と輝く血のような、炎のような赤い瞳は、俺から「否」と言う言葉を奪い去っていた。

      それから少年は時折店を覗きに来るようになった。時間は決まって午前中。丁度店を開く頃合いに現れる。連日訪れる時もあれば、パタリと姿を消す時期もしばしばあった。
     俺は彼の来訪の頻度など気にもせず、毎日決まった時間に店を開け、客の相手をし、楽器を売る。
     大切にしてくれそうな客だったり、すぐに飽きそうな客だったり、そこに私情は持ち込まないのだが、あの少年のように嬉しそうに楽器を弾いてくれたなら……そう思うようになっていた。
      少年は店に来ると当然のように俺の膝に座るようになったが、俺とて客の相手がある。
     ベースの持ち方を教え、数種類のコードを教えると、少年は店の隅の革張りのソファで一人で熱心に弦を弾くようになった。
     たどたどしく、時折コードを間違えるいびつな音は、いつしかこの店の空気に馴染み、店内BGMのように空間を満たしていく。
     ともすれば不協和音も含むというのに、いつからか、俺はこの音がすっかり気に入っていた。
     
      色鮮やかに着飾っていた街路樹の葉がすっかり落ち、朝の空気が冷える頃、俺はいつものように入り口の掃き掃除のために外へ出た。冬の気配を纏った空気に吐く息が白く染まる。
     ふと、気配を感じてショーケース前を見ると、もこもこに着膨れをしたいつもの少年が、しかしいつもと少し異なった様子で、ショーケース内のベースを眺めていた。
    「お前、来てたなら声かけろ。寒かっただろ」
     俺は掃除もそこそこに少年を店内に招き入れる。少年の普段は軽い足取りが、今日はやけに重い。
     何かあったのか、自分よりも随分と小柄な体で俯かれてしまえば、その表情は伺い知れなかった。
     すっかり彼の定位置になったソファに少年を座らせ、向き合うように床に膝を付くとやっと表情が見える。
     いつからあの場に立っていたのか、すっかり冷えた肌は、頬と鼻を赤く染め、太陽のように輝いていた瞳を自身の膝へ落としたその表情は、まるで真冬の曇天模様だった。
     何と声をかけたら良いのか迷っていると少年の小さな口がゆっくりと開く。
    「オレ……ここにはもう来れない」
     やっとの思いで絞り出した小さな声は、俺の耳にしっかりと届いた。
     曰く、少年は生まれつき体が弱いのだそうだ。来訪時間が決まって午前中なのも、空気が綺麗な時間帯なら発作を起こすリスクが少ないから。姿を見せない日は体調を崩して寝込んでいたそうだ。
    「でも、こんど大きな手術を受ける事になって、そのために病院がある町に引っ越す事になったんだ。入院もするし、この町からは遠いから……だから……」
     最後の方は言葉にならなかったのか、彼にしては珍しく半端な言葉で会話が途切れた。
     残念な事に、俺はこんな子供にかけてやれる言葉を持ち合わせていない。ただ黙って話を聞いて、そうか、と相槌を打つ事しかできなかった。
     暫しの沈黙、こんな時に限ってまだ他の客は来ない。奏でる音もない。冬の空気が重く、冷たくのしかかった。
     かける言葉が見つからない。言葉がないのなら……。
    「ちょっと待ってろ」
     俺は少年の前から立ち上がり、店のカウンター横のガラスケースから一枚のピックを取り出した。
     それは量産して乱雑に箱に詰められた物とは異なり、作りも価格もそれなりの物だった。
     専用の小箱と共に少年へ手渡すと、曇り空のようだったその瞳が、驚きと喜びを会い混ぜにしたような、複雑な表情を載せて俺を見上げてきた。
    「これっ……」
     少年の驚きは当然だった。俺が手渡したピックは、彼が憧れて止まないショーケース内のベースと同じブランドのロゴが輝いている。
    「やる。あのベースは無理だが……これならな……。あと、あー、なんだ、その……手術、頑張れよ」
     柄にもない事をした気恥ずかしさからか、真っ直ぐに少年を見る事が出来ない。視線を外しつつ、ソファに座る彼をちらりと伺い見れば、熱心に店内の照明にピックをかざして眺めていた。
     小さな手の中でくるくると踊るそれは、散りばめられた控えめなラメ素材が光を繊細に反射させ、星屑のように美しい輝きを放つ。ピックの輝きを映したかのように、少年の大きな瞳はキラキラと輝いていた。
     気が済むまで輝きを堪能した少年は、大切そうに同じロゴが輝く箱にピックを仕舞い、その年齢に似付かわない少し寂しそうな笑顔を浮かべた。
    「有難う、大事にする」
     ぎゅう、と胸の前で握られた手の中の箱に視線を落とす。
     親でもない俺が彼にしてやれるのは、この程度の事だった。
     
      あれから十数年。彼が手術を無事に終えたのか、病を克服したのか、知る術はどこにも無く、俺はただ毎日同じように楽器を売る日々を送り続けた。
     少年が憧れていたショーケースのベースは、彼が姿を消してから程なくして、そこそこ音楽が出来そうなどこぞの男にあっさり買われて行った。今は別の楽器がショーケース内を彩っている。
     幾度も幾度も季節を織り重ね、俺も店も少しずつ年季が入り始めたとある夏の日。
     あまりの暑さに客足も途絶え、暇を持て余していた俺は、何気なくあのソファに腰を下ろして携帯端末をいじっていた。
     見慣れたSNSの下らない文章や広告を、特に読むでもなくスクロールしていると一つの広告が目に飛び込んできた。
    『学生フェス』
     真夏の海で開催される学生限定の屋外フェスのようだ。広告バナーには美しい海が描かれている。
    「学生かぁ、このクソ暑い中よくやるなぁ」
     俺は誰も居ない店内で静かに呟いた。何となくバナーを見ていると、開催日は本日、しかもライブ配信があると記載されている。どうせ暇なのだから、たまには若く勢いのある音楽を堪能するのも悪くないかもしれない。
     ほんの気まぐれで、配信用のURLをタップした。
     途端に端末から威勢の良いギターの音が飛び出す。澄んだボーカルの歌声に熱い演奏、なかなか実力のあるバンドのようだが、俺の目を奪ったのはステージの端で客を煽るベーシストだった。
     明々と燃える尾に、逆立てた朱色が混じる銀髪。何より楽しそうに演奏をする赤い瞳には見覚えがあった。
     声が、出なかった。
     息を飲み、彼の一音一音を耳が追う。ボーカルを映しがちのカメラの外側から、あの日体を震わせた重低音が響く。
     モニター越しでもわかる、俺よりも大きくスラリと成長した彼は、ピンと五つの弦を張った、持ち主によく似た真っ赤なベースを掻き鳴らす。彼は初めて与えたベースよりも音域が広い相棒を選んだようだった。
     その指先が奏でる低音は、生を謳歌するような、生きる事を鼓舞するような力強さを宿し、暴れがちなバンドメンバーの音をしっかりと纏めていた。
     彼らの最後の曲、間奏中に小柄なボーカルがメンバー紹介を行う。
     DOKONJOFINGER、ベーシスト、ジョウ。
     一番初めに紹介されたのが、彼だった。
     思えば、少年の頃から彼の名前を知らなかった。
    「ジョウ……」
     端末を手に、その名前をつぶやく。
    「ジョウか、いい名前だ」
     彼らの演奏はクライマックスを迎え、スピーカーから全員揃ったお礼の雄叫びが聞こえる。
      たったひとりで楽器店に通っていた病弱な少年が、こんなに心通わす仲間と共にステージで楽しそうに暴れている。たったそれだけの事実が、俺の胸を熱く振るわせた。
    「歳とったなぁ、俺も……」
     じわりと滲む視界の向こう、モニター越しに突き上げられた彼の手には、あの冬に手渡したピックが真夏の太陽を浴びて輝いていた。












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