「食事は?」
「食べてきたから、といっても昨日の残り物だけど」
彼、最近食べないから。と小さく恨み言付け加えたところで私は顔を上げる。
見下ろすばかりだった部屋の絨毯に彼の影が落ちたからだ
「……あ、あの、日車くん」
「瞼が光ってる、唇も」
「え?」
「……この前と違うな」
する、と彼の指が伸びてきて私の頬にそっと触れた。彼に触れられるのはこれが初めての事だった。ほんの少し冷たい指が輪郭をなぞられる感覚はこそばゆくて、恥ずかしくて──そして何よりも、まだどこか友人として見ていたはずの彼からの愛撫を今身に受けているのだと思うと私はもうなんて顔をしたらいいのか分からなくて、ただただ視線を彷徨わせるばかりがせいぜいだった。
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