マチルダは微笑む「花垣く~ん?
またDVDの中身が違うと苦情が来たんですが洋画のコーナーは君担当でしたよねぇ~?」
答えなくてもわかっていると言わんばかりに年下の店長がねっとりした口調で責め立てる。
愛想笑いしながらすみません、と頭を下げれば「はいまた口だけぇ~」とあてこすられる。
謝る以外に道がないが、謝らなければ謝らないで「どうしたんですかぁ~その口は飾りですかぁ~考える脳みそないんですかぁ~」と嫌味が倍増すること請け合いである。
なんでこんなところにいるんだろ。バイトならいくらでもあるのに。
でもなぜだかここから離れられない。若い店長は使えない年上のバイトなんかさっさとクビにしたいみたいだが。
いつも店に最後まで残るのは武道だ。DVDの中身のチェックを終えると一番最後に見るものがある。お気に入りの洋画。腕利きの殺し屋がアパートの隣人の少女を汚職警官から庇い、共に過ごしていくうちに絆が芽生えるストーリー。端的に言えばハッピーエンドではない。殺し屋なんて生業である以上、主人公は幸せになるべきではないんだろう。少女に金を遺し、自分は少女の家族の仇を道連れに死ぬ。
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