弱さではなく、強くなった。と 「姫、手を」
「ありがとう」
シャロンの手に自身の手を乗せるとゆっくりシャロンにエスコートされるがままアスパシアは階段を下りていく。
今日は舞踏会。
キングダムの王、即位の記念であり王直々の提案のものだった。
「姫!…すごい、美しいぞ…!流石私の姫だ」
「誰があなたの姫ですか、誰が」
「あだっ」
そう言ってシャロンは容赦無く王ーー、オルタナの頭を叩いた。
「何するんだよ!王だぞ!?キングダムの国王の頭を叩いていいと思ってるのか!?」
「失礼、手が滑りました」
「お、お前な……」
相変わらずそうやって小競り合いを続けるシャロンとオルタナの舞踏会であれど変わらない様子に思わずアスパシアは笑った。
「あー、おっかし!…アンタたち本当いつもと変わんないんだから緊張してるアタシがバカみたいじゃないの」
「姫…失礼ながら、緊張していたのか?」
「な、本当に失礼ね!」
「はは、悪い」
「…もうっ、まあいいけど…緊張はそりゃ、するわよ…だってアタシもうアンタのお嫁さんなんでしょ?シャロン。宰相妃ってわけだ」
「…そうだな」
「そうするとなんていうか、前は特に気にしてなかったの気にしちゃうようになったし、こういうドレスも慣れないしで…アタシ、弱くなった、っていうか…」
と言ってオルタナを気にしてアスパシアは視線を外した。
「よく似合っているよ」
そう言って取っていたアスパシアの手の甲に口づけを落とす。
「…アンタが選んだんだっけ?このドレス」
「ああ、そうだとも。お気に召さなかったかな?」
「ううん、その逆。気に入ってるわ」
青空をそのまま切り取ったようなドレスはアスパシアのラベンダーカラーの髪がよく映えていた。
「それはよかった」
そう言ってシャロンが笑うとタイミングよくゆったりとした音楽が流れる。
「姫、踊ろうか」
「ええ!」
手を取られるまま、誘われるままアスパシアはシャロンと踊っていく。
「…そんなにも人間らしくなるのが嫌か?」
踊っていることをいいことに耳に唇を寄せ、シャロンは問う。
「嫌…とは少し違うけど、ずっと神様として生きてきたからさ、なんか…ヘンな感じなのよね。アタシってこんなに弱かったんだ〜って実感させられたというか」
「……私が思うに、それは弱くなったのではないと思うが」
「え?」
「そうやって君を留まらせるのが私の存在であり、君が私の足枷であるように私が君の足枷であることが嬉しく思う。そして、人は大切な人のために強くなれる者だ…だから、弱くなったのではなく君は強くなっている、と言うことはできないかな」
「……流石シャロン、まどろっこしい言い方は得意ね」
「君な…」
励まして損した、と息を吐くシャロンに太陽のように眩しい笑顔をアスパシアは送る。
「アハハ!ごめんごめん!怒んないで?」
「別に、怒ってなどいない」
「本当?」
「私は嘘は吐かないとも」
「なら本当だ。…ねえ、シャロン」
音楽が止まると同時にぐいっとシャロンの顔を引き寄せ唇を奪う。
「励ましてくれてありがとね、シャロン!」
そして男前に、かっこよくアスパシアは笑うもんだから負けっぱなしは悔しいシャロンは引き攣った笑みを浮かべ、負けじとキスを返すのだった。
こんな宰相、シャロンの姿はキングダムの歴史においてもはじめてのことだろうーー。
-Fin-