見てくれない彼を見てる話 Side:S
それは始めて見る光景だった。
「タツキ!?」
「はぁ……っ、はぁ……」
薄気味悪い部屋の中、タツキが力なく床に崩れ落ちる。誰よりも早くカチャカチャとドアを開けようとしてくれていた腕は、支えを失ったようにだらんと弛緩していた。顔は真っ青で、呼吸は乱れている。easyが口癖のなんでも卒なくこなすタツキが、俺とヒジュンの目の前で急迫した状態になっていた。
薄暗くチープさが残る狭い部屋。そして、小物の影に隠してあるカメラ。極めつけは、いかにも胡散臭そうなお札。「打ち合わせの時間までここで待機してください」とスタッフに言われた時から、俺はこれが何の撮影かはなんとなく察していた。電気が消えて入口のドアに鍵がかかり、いよいよどんなリアクションを取ろうと考えた矢先。真っ先にドアが開かないか確認していたタツキが、ズルズルとその場に倒れ込んだのだ。
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