空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:10 時折足を向けるその場所で篠原の視界に現れたのは、汐見の姿であった。
「珍しいな、こんな所で」
「お前こそ」
心底珍しいものを見るような視線を汐見に向ければ、汐見は鬱陶しそうに片手をひらりと振りながらも篠原へと言葉を返す。汐見が珍しい訳ではない、部活で飽きる程に顔を合わせているから。珍しかったのは、彼が一人で大学部に併設された図書館に居る事だった。
高等部と大学部――そして学生と教員たちの宿舎や食堂だのコンビニだのが併設された広大な敷地からなるひとつの町のようなこの場所で、高等部の生徒が大学部の図書館に揃うのは珍しい事だった。課題をこなす為の文献をあたるのであれば高等部でも事足りる。
篠原は大学部に在籍する学生との逢瀬の為に時折この場所を訪れていたが、篠原が入学してから一年半を過ぎた今までの間、汐見を含めた高等部の生徒と出会うという事はなかったのだ。
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