「恋に堕ちたら最後」!アテンション!パロ的ご都合設定です。
生まれも育ちも戦場の中、俺にとって今後の人生を左右する出来事が起こった。
いつもの様に雇われの中、ほんのひと時の休息と息巻いて町へと足を運んだ。道中にて雰囲気のある酒場を見つけ適当につまみとメニューから目当ての物を注文する。ここの酒は年代物もあって久しぶりに物の味を感じ余韻に浸っていると酒場には似合わない少年が来店してきた。
横目で観察しながらマスターに話を数分した後に張り紙を貼って丁寧にお辞儀をした後、そのまま帰宅していった。なんだろうと張り紙を見ると牧師の募集をしているという物だ。
「ふーん…牧師ねぇ」
1週間後に控える結婚式に募集をしているとの事で自分には関係ない話だなと苦笑しながらほろ酔い程度に抑えて店を後にする。
「は?」
さぁ寝るかと寝床に着こうとした所を叔父貴に話があると言われ(ほぼ無理矢理)作戦会議室に連れられ(無理矢理、首根っこ掴まれて)言われたのは酒場で見た張り紙の件だった。
「雇い主の娘がその結婚式を挙げる様でな。そこで護衛に付かせたいが娘がむさ苦しいのは嫌だ、何だと駄々を捏ねていて妥協点としてお前含む若造達に式を手伝うスタッフを装って欲しいそうだ。とまぁ強制参加だが」
「お、俺はそんな事出来ねぇぞ!分かってるだろ?!」
「だから、明日から神父に作法や何やらを教えて貰う様に頼んである。行ってこい」
「…はぁ…相変わらず…分かったよ行けば良いんだろ行けば」
「分かれば良い。明日朝一に挨拶しに行くから、ちゃんと起きろよ」
「へいへい、精進しますよ」
(朝一にも程があるだろ…)
叩き起こされたのは朝の4時。まだ日の出も出ない頃に馬を走らせ、少し丘を登った所に着いたのは小さな教会だ。
玄関先で掃除をしている栗色の少年は昨日の酒場で会った子がいた。こちらに気付いた彼はにっこりと微笑み、まだ声色が幼さが更に強調していた。
「おはようございます。お話を聞いています。今日から1週間よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらもコイツがもし問題が起こしたら遠慮なく言って下さい」
「い、いえいえ、そんな…あ、中にどうぞ。何も無いのですがコーヒーでも」
「俺はこれから仕事があるので…ランドルフ、くれぐれも失礼のない様にな」
「へーいさっさと行ってこいよ叔父貴」
シッシと手を払い少年に案内される中、外観だけは見た事はあったが内装は見た事も見る機会も無かった為、色々と物珍しそうに眺めていた。
「さ、ソファにどうぞ」
「お、おう。そういや神父様は何処にいるんだ?一応挨拶しとかなきゃ行けないんだけど」
「あ、えと…俺が神父で…」
「…え?!あ、ごめん、じゃなかったすみません」
「はは、よく間違えられるから慣れっこだよ。それと敬語も要らないよ多分歳も近いと思うし」
少年と思っていた彼は21歳とこれまたびっくりするぐらいの童顔で資料では一通りプロフィールは見ていたが、まさか…
「はい、コーヒー。朝早くからお疲れさま。仮眠したかったら部屋にベットがあるから言ってね」
「お、おう…それは別に大丈夫だけど…ん、美味い」
「豆を引いてるから朝の楽しみでもあるんだ。そうだ話の内容は一通り聞いてるけど、1週間よろしくね」
「こちらこそ…気軽にランディと呼んでくれ。それで俺は何をすれば…」
「えっとね…」
結婚式の流れと動きを一通り教えて貰い、何とか自分でも務まると確信し胸を撫で下ろす。叔父貴のゲンコツは地味に痛いから下手をコケば大目玉を食うのだけは勘弁だ。
まぁ流れも大方、頭に入れれば他は特に何も無いのでゆっくり出来る休日だと思えば何とかなるだろう。
「そういや、普段は一人なのか?」
「一人では無いけど…まぁ平たく言えば。でも町の人達もお祈りをしに来てくれるし楽しいよ」
「ふーん。お祈りね…」
「ランディは教会でお祈りしないの?」
「俺はそんか柄じゃねぇし…そもそもカミサマっていうもんも…あ、すまん。」
「ううん、人それぞれだから。気にしないで。俺も幼少期の頃はよく兄貴のお祈りを邪魔しては遊んでって我儘言ってたし」
「ははっ安易に想像つく」
「む?それはどういう事だ?」
他愛ない会話も程々に牧師の衣装と部屋に案内され好きに寛いで欲しいと言われたがお世辞にも何もない所で彼一人で雑用や買い出しをさせるにも忍びないので一緒に手伝うと言えば年相応の可愛いらしい笑顔を向けた。
「ふぅ。こんなもんかね。」
薪割りを終えた後、汗を拭きながら休憩がてら横になれば思い浮かべるのはロイドの事ばかり。特に飢えているという事ではないが自身に向ける感情は闘神を継いだランドルフではなく1人の人間として受け入れてくれたロイドに心のピースがハマった様に埋めてくれたのだ。
子供扱いするなと頬を膨らませたり、子供をあやす時の表情は大人びていて何処か妖艶な雰囲気にドキドキしたり…また一人でお祈りをしている姿は聖母の様で、腹の奥からドス黒い感情が溢れていく。
刻一刻と時間が流れていくのが、こんなにも憎くなるのかと思ってしまう。もう少し…あともう少しロイドと一緒に居たいと思ってしまう。きっとこの想いは吐き出してはいけないモノだと思っていても横で笑うロイドを手に入れたいという感情で入り混じっていく…
「ランディ?どうしたんだ?」
「あ、いや…何でもねぇよ。これで今日の分は終わりだから美味いモンでも作ってくれねぇか?」
「そういうと思ってサンドイッチ持ってきたよ。お疲れ、ランディが力仕事してくれるから助かるよ」
「これぐらい朝飯前だ。他にやってほしい事があれば言ってくれよ。あと3日しかねぇし…」
「うん…そうか、もうそんなに経ったのか…ランディが来てから楽しくて時間があっという間に過ぎて行くな」
「そりゃ…嬉しいお言葉を」
ロイドの言葉にドキッと胸が昂った。ニヤける顔を必死に隠す様にサンドイッチを頬張った。
「名残惜しいけど…結婚式が終わればランディは帰っちゃうのか…」
まるで捨てられる仔犬の様にへにゃりと眉を曲げて下を向く。そんな表情をされて胸がズキスギと痛くなる。ポンと頭を撫でてやると気持ちよさそうにされるがままに…
「偶にこっちに顔を出すから、そんな顔をすんな」
「…うん…」
口に出たのは嘘だ。ロイドに安心するようについた嘘。いつ何処で野垂れ死ぬか分からない自分にココで平和に暮らしているコイツに側に居てくれなんて歯の浮いた言葉は出なかった。
名残惜しそうに手を離せばロイドはまだ残っている仕事をしてくるよと言って離れていく。その背中は寂し気に…きっと嘘だと気づいているのだろう。振り返らずに教会へと戻って行った…。
(ランディの馬鹿…)
教会に戻ったロイドはへたり込む様に床に座り、声を殺しながら泣く。本当は分かっている。ランディが自分を慰める様に言ってくれた優しい嘘。でも本当はそんな嘘より一緒に居たい。
最初に会った頃は兄を重ねていた。気さくに面倒見の良い彼に甘える様になっていき、いつしか敬愛から別のモノへと変わって行った。ここでの暮らしに不満は無い。だけど1人で待っているのは辛かった。
「ランディ…俺を連れ出して…」
「……」
ドアの向こうで啜り泣くロイドを抱きしめるには遠い…
握り締めた拳は爪に食い込み血を流した。
所詮は人殺しの手だ。ここで幸せに生きるコイツに差し伸べる手は血で汚れ過ぎていて触れる事さえ許されないのだ。
………
結婚式当日
ランディは牧師の衣装に身を包み、段取り通りに事は進んだ。教会に鳴る鐘が響く中、祝福に包まれ小さいながらも彼らの門出を祝った。依頼主である男も涙を流し娘の晴れ舞台に感動している。
(何とかなったな…これが終わればお役御免…か)
ロイドとの別れが迫り自分の中の感情がドンドン大きくなっていく。今日の夜はたんまり酒を飲んで忘れる様に…いや忘れる訳がない。たったの1週間だったがロイドと居た時間は自分の中でかけがえの無いモノだ。自分を押し殺すのには慣れている筈だ
本を閉じ、大きなため息を付いた。さぁ笑ってお別れを言おうと勝手口を開けた時、目に飛び込んで来たのは荒っぽい運転をした車が教会目掛けて走り数人の男達が銃を手に取って依頼主目掛けて発泡する。
兵達も隠し持っていた銃を手に取り応戦するが、とても間に合わない。
「やべっ…!!」
走り出したのは、どの兵でも無くロイドだった
「危ないッッッ!!」
依頼主に覆い被さる様にして庇ったロイドの腰に弾が当たる
「ぐっ…!」
そのまま倒れる形で血を流すロイドに俺の何かがプツンと切れた
…………
意識が朦朧する中、ずっと手を握ってくれていたのは誰…?目を薄らと開けると今にも泣きそうになっている男が居た。
「ランディ…?」
「馬鹿野郎!何で走って行った!どんだけ…どんだけ心配した事かッッ」
痛いぐらいに抱き寄せられ、医療班の人らしき人に止められて身を何とか剥がした後は目に涙を浮かべていた。
「他に痛い所はないのか?!あったらすぐに言えよ!」
「大丈夫だからランディ落ち着いて」
ふと疑問が浮かびランディに問いかける
「そういえばココ妙に揺れるんだけど、何処かに向かってるのか?」
「ん?あぁ、特にって訳でもねぇけど。あのままじゃ他の追手も来ると思ってよ、一通りの荷物とか貴重品ぽいのは積んでるから安心しろ」
「ら、ランディちょっと待って、荷物?貴重品?」
「町の奴らにはお前は撃たれて死んだって言ってあるから安心しな。」
「そ、それって」
「お前を連れ出すのには好条件だったし。何よりあのまま残していたら何をしでかすか分からないからな。…ロイド、今更ながらだが俺と一緒に…」
続きの言葉なんて要らない。だから返事はせずにランディの唇を奪う。鳩が豆鉄炮食らったような顔をして驚くランディに
「何処までも付いていくからなランディ」
「あぁ絶対に離さねぇからな」
end