牡丹と獅子(狂ひ獅子)
1月の雲深不知処は白銀の世界だった。
風雪舞い、落ち往く花弁
白紙に一滴の朱墨を垂らしたような滲紅に心を惹かれ、魏無羨は静室の円障子からそっと指を伸ばした。
窓の外では大輪の花弁が、雲深不知処を覆う雪に抱かれるように咲き誇っている。
その花の下に小刻みに動く雪像を見つけ、ははっと魏無羨は笑みを零した。
「魏嬰、風邪ひく」
「なんだ、藍湛、戻ったのか」
珍しく夕刻に静室に戻った藍忘機は、薄着の魏無羨に僅かに眉を潜めると、その背を抱くように身を寄せた。
「なあ、見ろよ、あれ。寒牡丹の下に兎がいるぞ」
どこから迷い込んだのか、白い兎はふんふんと鼻を鳴らし、餌を求め、地面に顔をうずめていた。
愛らしい仕草に、横目で覗き込んだ忘機の口端も僅かに緩む。
その微かな変化に魏無羨は満足気に笑った。
「牡丹に獅子と云うけれど、雲深不知処では牡丹に白兎だな」
有名な故事に肖って、揶揄う魏無羨に
「うん」
いつも以上に、口数の少ない藍忘機の目が、暗がりの中で甘く溶けている。
その分かりやすい情欲に、口角を上げた魏無羨は、口付けで応えた。
「・・・なあ、藍兄ちゃん、今日は随分と帰りが早いようだが、何が望みだ?
この艶やかな牡丹のように俺の花弁を散らせたいのか?」
戯れの続きを促すようにやらしく唇を舐め、さり気無く触れた指が、もう忘機の指の間を誘うように撫ぜる。
「君が欲しい」
その直情的な言葉に気を良くした魏無羨は忘機を寝台へと招いた。
もう数えきれない位には、回数を熟した。
そこに極上の快楽があることも、心と体で覚えている。
甘い睦言を囁きながら、するすると衣を脱いで、あまりに物事が上手く進むから、魏無羨は今宵こそ自分の望みが叶うのではないかと思った。
藍忘機が魏無羨の首筋に歯型を刻み、丹念に孔口をほぐす。そのまま向き合う形で互いを貪り愛撫した。毎夜、彼を受け入れているその場所は、すっかり忘機の形に契合しているため、そんなに慣らさずとも、すぐうねりをあげ、待ちかねたように異物を締め付ける。
その具合の良さに堪らず、忘機も腰を突き動かした。
反り返った陽物が、魏無羨の気持ちの良い上点を突き上げる度に、魏無羨は嬌声をあげ、姿態を淫らに揺らした。
両股を忘機の腰に巻き付けると、上半身ごと亀のよう抱きつく。最愛の道侶にしがみつかれ、忘機は悦びのまま腰を動かし、激しく内側を突いた。
そしていつもより早く我慢の限界を迎えると、そっと魏無羨の肩を押し、離れるように促す。
だが、魏無羨は岩にでもなったかのように頑として、離れない。
「魏嬰・・」
咎めるように藍忘機が口にしてもその腕は振りほどかれることなく、かえってその力を強めるだけだった。
困惑と快感に眉を歪めながら、今度は無理矢理、魏無羨の体を引き剥がそうとする忘機に、魏無羨も意固地になる。
寝台の上で格闘技のように、二人は取っ組み合いになるが、所詮腕力で姑蘇藍氏に叶う訳がない。
強い力で押し倒されて、ずるりとその巨大なものが引き抜かれた瞬間、吐き出した精が寝台に巻き散らかされた。
先刻までの甘い雰囲気は何処に行ったのか
肩で息をし、色気なく魏無羨は大の字で寝転がる。
「魏嬰・・」
「・・・なあ、なんで最近、俺の中に出さないんだ?」
「それは・・」
言いあぐねる忘機にもどかしさを感じ、魏無羨は拗ねて背を向けた。
この仙府で二人の仲は黙認されているものだから、都合が悪い。
含光君を見つけようものならすぐに「藍湛、藍湛」と揶揄ってくる構いたがりの魏無羨だが、今日は唇を尖らせて文机越しに含光君を見つめる。
藍忘機だってそんな魏無羨の視線に気づいているくせに、あえて声をかけることなく、淡々と執務をこなしているから、二人の間には不穏な空気が漂う。
含光君対夷陵老師なんて、龍対虎より質が悪い。どうすることも出来ず、おろおろ様子を窺う門弟子たちの居心地の悪いこと。
こういう時、いの一番に動くのが、二人に育てられた藍思追だ。
「魏先輩、何かありましたか」
魏無羨の側に膝まつき、そっと声をかける。
「含光君と喧嘩でもされたんですか?」
「まあそんなとこだな」流石に房事が原因だとは言えず、魏無羨は唇を尖らせたままも、曖昧に答えた。
沢蕪君は半刻置きにこちらの様子を窺がっているし、藍景儀は「魏先輩、早く謝った方がいいよ」と心配しているようで、俺が悪いと決めつけてる。
啓仁先生が不在でよかった。心配させるのも老体に響く。
文机に頬杖をつき、これで、3度目の失敗だ、と魏無羨は唸った。度々魏無羨は藍忘機に中出しを迫っていた。
1度目は、色仕掛けで迫り、2度目は、酒に酔わせてみた。
その全部が、煽っていくうちに藍湛の手管で気持ち良くなり、気がついた時には事が済んでいた、という失敗談に終わっていた。
別に、魏無羨とて中で達することに強い性癖がある訳ではない。今だって十分気持ちいいし、毎夜致しているのに、無理に中に出す必要はないというのも、理解している。
ただ初体験から散々好き放題、内に出されていた身としては、急にぱたりと惜しまれては気になって仕方ない。
(藍湛を疑っているわけじゃないけど)
魏無羨の脳裏に昨夜見たあの寒牡丹がよぎる。牡丹と獅子と言ったが
「獅子」は百獣の王の象徴であり、「牡丹」は百華の王、富貴の象徴だ。
この仙家において、藍湛はこの獅子にも牡丹にも並ぶ特別な存在だ。由緒正しい血筋に、雅正を重んじる品行方正な態度、そして極めつけに天上人にも見紛うあの美しい容姿。世家以外にも心酔している者は少なくないと知っている。
そんな藍忘機を見ていると、魏無羨は時々、何とも云いえぬ不安に駆られる。
(急にやらなくなったのだって、何か俺には言えない理由でもあるんじゃないかって)
含光君が輝けば輝くほど、強い光のもと、魏無羨の影が濃さを帯びる。
(俺は、きっと他者が知っている含光君じゃ足りない)
座学時代から、頑固で動じることのない彼の澄ました表情が、静けた心が、己のせいでかき乱されるのが好きだった。
怒った顔も、焦った顔も、微笑んだ顔も、その琥珀色の瞳に写るのが自分だけのものであればいいと願った。
幼い魏無羨には、揶揄う以外に彼の視界に入る術を知らず、その執着こそが恋愛感情の端緒だと気づいたのはもう随分長い年月が経ったあとだったが。
誰にも見せない藍忘機が欲しい。彼の難い心の内側に自分だけが存在している証が欲しい。その欲は想いが繋がった今も強くなる一方だ。
最初の頃のように、余裕がなくなって、外聞も恥も捨てて、俺だけを相手に獰猛な獣の貌になる藍湛が見たい。
その欲の全てを、殘しすら余さず、俺の中で受け止め、全部、全部、俺の物にしたい。
「魏嬰」
気づくと藍忘機の美しい顔がすぐ傍にある。
「うわ、なんだ、藍湛、どうしたんだ?」
疚しいことを考えていた義無羨は、喧嘩を売っていることも忘れ、思わず声を上げた。
「静室に戻る」
魏無羨が物思いに耽っている間に、執務を全て済ませたという藍忘機は、そのまま魏無羨の手を引いたため、仕方なく、魏無羨も重い腰を上げる。
「おや、もう痴話喧嘩は終わりかな」
ころころ笑う沢蕪君の声が遠くで聞こえた。
静室に着くとすぐに藍忘機は、魏無羨の正面に坐した。
それが魏無羨には説教の前の子供のようで落ち着かない。またそのように畏まった態度をとられては、何か良くないことを言われるのではと身構えてしまう。
だが、魏無羨の予想に反し、藍忘機が差し出したのは一冊の本だった。
「……?」
そっと捲って、魏無羨は思わずすっとんきょうな声を上げた。
「……藍湛、これは一体どういうつもりだ?」
あまりに真剣な目をして差し出すからどんな大層な説法が書かれているのかと思えば、藍忘機が寄越した物は、いつかの魏無羨が蔵書閣で彼を揶揄うために疲労した断袖の春宮画ではないか。
「含光君ともあろうものがなんの悪戯だ?まさか昨夜の仕返しとか?」
「違う……ここを」
「但し書き?」
忘機に促されて、魏無羨はよくよく文字を追う。
『……肛門は本来、排泄を行うためのものであり、必ずしも房事に適しているわけではない。
特に精液や性器の挿入により、腹痛や尿路の痛みを引き起こし、死病に至る恐れがある』
「はは、藍湛!まさか俺がこうなることを心配していたのか?」
こんな如何わしい本のこんな細かいところまで読んで?
ついつい軽口を叩いてしまう魏無羨に
「以前……腹を下した」と咎めるように忘機は口にした。自分の身に降りかかる禍をすぐ忘れてしまうのは魏無羨の癖だ。何のことだと記憶をたどり、やがて「あ」と声をあげた「いや、あれは・・」「君を傷つけたくない」いっそう真剣な藍湛の眼差しは、真っすぐに魏無羨に注がれている。
その視線はどんな時も痛々しい程に誠実で真摯で(なんで中だししないんだなんて、俺はまた無神経だったのもしれない。藍湛はこんなに俺のこと考えてくれていたのにな)そう思うと愛しさが込み上げてきた。
ぷるぷると訴える藍湛は兎のようにかわいい。
口下で笑うと、魏無羨は唐突に円窓から身を乗り出した。
「魏嬰?」
そして、ひょいと腕だけ伸ばすと、今度は何かを掴んだその右手を藍忘機の絹のように美しい髪へと添える。
「あれはな、実は、こっそり食べた夜食に香辛料を入れすぎただけだ」
目を見開いた藍忘機の流れるような黒烏色の髪に、詫びの代わりに花をひとつ。
紅の寒牡丹は、藍忘機の透き通る白肌に映え、やはり美しかった。
百獣の王、百華の王。だが今は俺だけのものだ。
「藍湛、お前が俺を心配してくれてとても嬉しいけど、俺はやっぱり、お前としたい」
魏無羨は、素直に伝えた。今度は俺も一緒に気を付けるから、だから、おまえのものを全部くれ、そう熱っぽく口説く。
「そうでないと俺、お前の全部が愛おしくて、もう我慢できないんだ」愛しい魏無羨の熱い告白を前に、藍忘機が勝てるはずもない。
観念したように頭を垂れて「うん」
ようやく硬い表情を僅かに和らげ、藍忘機は、微笑んだ。
藍忘機の陽物を口いっぱいに入れて、その股の間に魏無羨は跪いていた。
下衣越しにその熱さを舐め回し、その独特の感触を舌で味わう。藍忘機の尿道や濡れた陰毛すら、もっと深く奥まで飲み込んで愛した。
同じ男のものを咥えるなんて、藍忘機に会うまでは考えたことなかったし、考えたくもなかったと思う。
だが、長い睫毛を伏せ快楽に耐える藍忘機が愛おしくて、眼尻に光る泪が綺麗で
もっと、もっと、もっと
俺の体で、感じさせたいと思ったら指は下半身に伸びていた。
「藍湛の、全部欲しい。子種も全部・・」
「魏嬰・・」ちょっと上ずった、藍湛の低い声
時折聞こえる噛み殺すような嗚咽が、快楽に耐える長い吐息が、確かに彼が感じていることを教えてくれるから魏無羨はもっと大胆に藍忘機を誘える。
「なあ、藍湛……いい……?ちゃんとこれも俺の中に出してくれ、約束だ」口に食みながらしゃべる度に、もどかしい部分が藍忘機を擽っていく。
啄むように藍忘機の側面を舌で撫ぜると、藍忘機が僅かに耳元を赤く染め、酷く欲情した瞳でこちらを睨んでいるのに気づく。
(その目が好きだ。俺にもっと執着してくれ)
唇をすぼめて、唾液を塗り込むようにして尿道をなぞった。舌を大きく出して先っぽに口付けをして、わざと見せつけるように藍忘機を見つめる。
(なあ、藍湛、俺今どんな顔してる?他の奴にこんな顔、見せたことないぞ)
俺の全部を見せるから、藍湛の全部が欲しい。もう溢れた気持ちが抑えきれない。
こんなに誰かを好きになるなんて、3才の羨羨とは大違いだ。なんだか可笑しくて「ははは……」と笑った。
その瞬間、藍忘機の顔が苦しそうに歪められる。
「ら、藍湛?」
「魏嬰、それはわざとか」
藍忘機が、強い力で俺の太腿を開いた。急にバランスを失った上半身が寝台へと倒れ、魏無羨の股は藍忘機の眼前に容赦なく曝け出された。
彼のものを咥えながら、あどけなく笑う魏無羨のその最奥では、触れてすらいない彼自身が、はちきれんばかりに天井を仰いでいた。
「とても……興奮している」
「お前、そういうこというなよ」
流れ出た先走りが、綺麗な寝台を汚す。
息を乱しながら、赤い顔で魏無羨が乳首を突き出すと、約束事のように藍湛が咥えた。
ちゅうちゅうと赤子のように吸われて、魏無羨は忘機の膝の上で嬌声を上げ悦んだ。
(こんなすまし顔の男に、俺・・!女みたいに胸を舐められている)
自ら胸を摘まみ、もっと、もっとと咥えさせる背徳感に悶えた。
乳首への直接的な快楽は、魏無羨の陽物に更なる刺激を伝え震わせる。
知己なんてとっくに超えている。
この堅物で美しい男が夢中になって己の小さな乳首に食らいついていると思うと堪らなかった。
藍湛の唇の熱さを味わいながら、朦朧とした意識の片隅で、こんなところ他の奴らには見せられないと思った。
一方でもしこの痴態を見られたら、と思うと嫌になるくらい興奮した。
(皆が見ている前で、藍湛に犯されたい)
目を白黒させてお子様たちは二人を見るだろう。
啓仁先生は今度こそ、泡を吹いて倒れるかもしれない。
あいつらの大事な宝物が、品行方正で気高い含光君が、その気品ある唇で、男の胸を夢中で舐めまわし、しゃぶっている。
俺の尻穴に、怒張した自身を突き立て、獣みたいにガクガクと腰を振るのだ。
真白な校服の間からは二人の生々しい結合部がにちゃにちゃと厭らしく見え隠れするだろう。
そして彼らの前で
「あ・・あんっ!」「・・んっ」
思い切り達するのだ。白い精液を俺の中にぶちまけて。
そうしたら、この終わりのない独占欲は癒えるだろうか
想像するだけで気持ちよくなってしまい、魏無羨はがくがくと激しく腰を揺らし、藍忘機を挑発した。
興奮して勃起しっぱなしのそこからは、しどけなく先走りが零れ、染みを作る。
「魏嬰、何を考えた」
「うん?そりゃ・・・お前とこういうことしてんの、いっぱい見られたいなって」
真っ赤な顔で、腰を上下させながら、にへらと笑う。
男の股に跨りながら、指で尻穴を弄ばれ、そんなことを云うに、藍忘機の血管は切れそうになった。
「や、らんじゃ・・・、あっ、だめっ、あっ」
互いに後ろへ手を着き向かい合った態勢で、魏無羨のはしたなく拡げられた股の間には、忘機の陽物が無慈悲に刺さっていた。
股をおおきく開き、秘めた尻穴を曝け出した態勢に流石に羞恥を覚えたが、両足の内側を閉じられないよう、藍忘機の肢が押さえつけていた。
「やだ・・これ」
魏無羨の股の間からは、じゅぼじゅぼと竿が後孔へ出入りするのが丸見えである。
おそらく、藍忘機の方からも。
充血した穴に、赤黒く起立したものが突き刺さっては、抜かれていく。
(俺、今、すごく藍湛に犯されている・・!)
「あっ!・・あん!・・ああ!」
衝かれる度に、胸が焦げるように熱くなった。
藍忘機の生まれつきそそり立った角度が、魏無羨の気持ちの良い一点を抉っては引いていく。思い切って腰が使えないだけでも、もどかしく、苛つき同時に興奮を覚える。
目の前には、煽情的な光景が広がっているというのに、ひいては寄せる波のように、藍忘機のそれは魏無羨の内側を抉っては逃げてしまうのだ。
何度も急所を攻め立てられ、もどかしい気持ちでいっぱいになった魏無羨は、早くなんとかして欲しいと懇願する。
「あ!ああ!藍湛!藍・・、藍兄ちゃん!おれもうイきたい・・!イきたいよぉ!」
そう言っている間にも、腰を強く揺さぶられているから、魏無羨の懇願はヒックヒックと泣いているように聞こえた。
堪らなくなりながらも藍忘機はわざと落ち着いてゆっくり腰を使うので、一突きごとに魏無羨は堪らなくなり早く早くとせがみながら、力の入らなくなった腰で、ぴゅっぴゅっと先走りを飛ばした。
その様子を、藍忘機は余すことなく見物している。
(藍湛お前、可愛い兎じゃなかったのか)
てっきりいつもみたいに、強請れば直ぐに達かしてくれると思ったのに。
今宵の含光君は違うらしい。
息の粗い・・・白い清楚な姿をした猛獣に魏無羨は今、無慈悲に犯されている。
懇願してもやめてくれない
それどころか
もっと腰を激しく動かし、ついっと見せつけるように腰を浮かせれば、二人の間に、恥ずかしい透明の糸が引いた。
「やだっ・・!藍湛。俺が悪かった!や、めろ・・って・ん」
口では嫌がる素振りをしてみても、眼前に衰えない性器があれば、気持ちが昂揚しているのは丸分かりだ。
向かい合って、互いの結合部を見せ合う藍忘機は、いつもとは違い意地が悪く、ちょっと怖い眼差しには興奮した雄が滲み出ている。
それもたまらなく好きだと思った
求めてくれるのが嬉しくて
堪え性のない魏無羨は我慢できなくなる
「……俺の中に、出して」
おどり狂う獅子は牡丹や蝶に戯れて狂う。
結合部をつなげたまま、のけぞった魏無羨を余すことなく、藍忘機は貪った。
足を上げるほど、締まりがよくなるといわれるが、今や魏無羨の両足は高らかに藍忘機の肩へ乗せられ、ゆっさゆっさと揺さぶる仕草で内側を突き上げられる。
尻だけで自分の体重を支える不安定な態勢に、魏無羨はもう自分の全てを藍忘機に委ねるしかなかった。
その間隔も、その強弱も
ふうふうと息を乱し、快楽に従順になる。魏無羨がこれほど大人しくしているのは珍しい。
藍忘機は、自分の陽物が難く、魏無羨のほぐれ切って赤く充血した底へとずぶりと埋め込まれていく様子をじっと観察した。
何度もごくりと喉仏が上下したが、我慢してゆっくりと出し入れすることで、魏嬰の唇から「あ・・んぅう」と琴を弾くような嬌声が漏れ、蕾から愛液が溢れる様子を楽しむこともできた。
「魏嬰、綺麗だ」褒めると、真っ赤に感じている顔で胸に顔をうずめてきた
可愛いが、困る
己の膨張が限界を迎えようとしている。
互いに長時間、あの一部を突き上げられる快感はたまらなかった。
入口をゆっくりと出し入れされる感触に魏嬰はのけぞった。
藍湛の髪に刺した赤牡丹は、いつのまにか寝台に投げ出され、一瞬目を奪われたが、それもまた激しく長い藍忘機の律動に意識を戻された。
藍湛の陽物がいやらしく、内側を撫でると、否応なしに心臓が高鳴る。
魏無羨の痛々しく勃起したそれからも流れ落ちる精子が、己の内太腿をてらてら濡らした。
「らんじゃ・・ん」
散々焦らされ、もうだめだ、と魏嬰は腰を揺すり強請る。
透き通るような肌に、所々充血に染まったた乳首や尻が、生々しくて、寒牡丹を連想させた。美しい彼は、白い獅子の狂った動きに、どんな風に花弁を散らし、朝露をまき散らすのか。
横抱きにして、藍忘機は抱いた。
お尻の穴が大きくひらいた魏無羨のひくつくそこに己を何度も激しく突き入れ、内側から強く貫くように犯す。
目の前が、火花が散ったかのようにチカチカした。
「あ・・あっ!!あっ!」
長い間我慢していた分、待ち望んだ直接的な刺激は想像以上に魏無羨の奥底に届いた。
熱くて、ぐちゅぐちゅで、硬い。
藍忘機の熱さや大きさや形、長さ、くびれ、感触まで己の中で感じて
魏無羨は隠せない藍忘機の本心まで覗けたような気持ちになる。
多分、これは同じだ。
藍忘機の独占欲に触れて魏無羨は、もっと藍忘機に近づけた気がする。
普段とは逆に、魏無羨は藍忘機の首筋に甘く噛み付いた。(俺のだ・・!こいつは俺の・・)
言葉はなかった。ただ
動物みたいな喘ぎの中で狂ったように踊り呻いた。
欲情の濁流に翻弄されるのが、気持ちよかった。
ナカに熱い飛沫が叩きつけられる。じんわりと広がっては、休む暇もなく、すぐに硬さを取り戻す藍忘機の物にかき混ぜられていった。
精液を精液で押し流すようなそんな競り合いがあった。
耐え切れないように、ほとばしりが何度も、二人の結合部分から流れていった。
腰が何度も痙攣して、その度に強く藍忘機を締め付けた。
藍忘機が、何度も何度も角度を変えて、爆ぜ、その度に叩きつけられる飛沫の熱さを
中で感じて。
それすら次の快楽への潤滑油のように擦り付けてあって、分かち合って
終わらない波に流される。
ずっとこうしていたい
(藍湛‥俺・・・)
もうお前と離れたくない
何事に阻まれることなく
このまま
ひとつの動物になりたい
・・・・・
体に残る鈍い疲労が心地よかった。
酷使した体を寝台に投げ出し、心まで満たされた魏無羨は拡げた両手で、藍忘機を探した。
接吻や睦言を期待しているわけではないが、ただこの余韻に一緒に浸りたい
そんな魏無羨の横で「魏嬰」と藍忘機の低い声がする。薄目を開くと、既にしっかりと白い衣を纏い、桶を片手に髪の毛を一つに結った藍忘機が目に入った。
嫌な予感がした魏無羨はすぐさま体を反転し、柔らかな布団の方へ逃げようとしたが、すぐに肩を捕まれた。
「身体を洗う」
「・・・なあ、今じゃなきゃだめか?」
「うん」
眠い、疲れた、動きたくないと唸る魏無羨だったが、藍忘機は無理やり魏無羨を風呂桶まで引っ張っていくと、大分冷めてしまった水をかける
「うわ、冷たい!」
「早く・・かき出す」
冷やかな風呂桶に沈め、激しく中に水を流し込む。
「っ・・ぁっ!」
酷使したのは身体だけじゃない。むしろ一番無理したと言っても過言ではないその部分を激しく刺激され、思わず暴れる魏無羨だったが「我慢」と、無理やり押さえつけて行為を再開する姑蘇藍氏の怪力になす術がない。
風呂桶の中で、腰だけ突き出した恥ずかしい態勢で無理やり彼の指で孔を開かれる。
「あ・・らんじゃ・・」
「腰!よじるな!」再び藍忘機に怒られる。
・・・・・
「・・まだ喧嘩してるんですか」
翌日、何も知らない藍景儀が呆れた顔で、言う。
「まあそんなとこだ」
甘い喧嘩は、しばらく続いたのだった。