蒼の羨望昔のことを思い出す時、時々浮かぶのはあの人の穏やかな笑顔だ。
以前聞かれたことがある。
「クロウは、いつベナウィの副官になったんだ?」
「大将が侍大将になった時ですかね。指名されたんです」
「そうか。……ベナウィの慧眼には感服だな。二度と敵には回したくないものだよ」
「そりゃあちっとばかり買い被ってやいませんかね」
「いいや、そんなことはないさ」
草むらに座り、頬杖をついて俺を見上げるその人は、山積みの政務から逃げ出してきたとは思えない爽やかさを纏っている。まあ、逃走に気づいた大将が追いかけてくるのも時間の問題だが。
「クロウは、いつベナウィと出会ったんだ?」
「結構、昔ですね。大将、まだ元服もしてなかったはずなんで」
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