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    さめしば

    @saba6shime

    倉庫兼閲覧用。だいたい冬駿

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    さめしば

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    モブ部員視点の冬駿SS
    部長に懸想するモブ後輩くんのお話。⚠︎未来含め捏造まみれです。

    ##冬駿

    束の間のわずらいとその予後について はじめはたぶん、純粋な尊敬の念だった。
     主将として部を引っ張る一学年上の先輩は、明るくてユーモアがあって、とても人好きのするひとだ。中学の頃は世界選抜チームに選ばれていて、黄金世代と呼ばれるうちの一人だったらしい。もちろん競技への造詣も深く、カバディに明るくない顧問を置くうちの部では、部長が指導者の役回りもこなしている。インドで作った友人を介して本場の練習メニューを取り入れたり、チームの勝利のためなら努力を惜しまない彼は、掛け値無しに尊敬できる憧れの部長だ。後輩の俺たちにも気さくに接してくれて、自然とその背中についていきたいと思わせる、そんな無二の存在。極端に面倒臭がりなところを見せたり、時に暴君のような態度を取って先輩たちから文句を浴びせかけられることもあるけれど。そういった側面もひっくるめて、妙に周りを惹きつけるのが山田駿という人間なのだ。
     大声で笑ったり、瞬間湯沸かし器のごとく怒ったり、怠そうにあくびをしたり。くるくる変わる部長の表情を眺めるのが、俺はいつしか好きになっていた。プレー中の真剣な顔つきも、不敵に笑う顔も、点を取られて悔しがる様子も、きらきら輝くような眩しい笑顔も。彼の見せるすべてを無意識に目で追ってしまう自分がいた。そんな日々を過ごすうちに気付き始めたことがある。特定の状況下でしか拝めない、特別な表情の存在のこと。それはいつだって、部長の隣に彼の幼馴染み——俺と同学年の部員である霞冬居だ——がいる瞬間にのみ、ふわりと浮かび上がるのだった。
     たとえば、今朝の星占いの結果を嘆いたり、体育の時間に靴紐が切れたことを怯えた様子で話す霞を、部長がハイハイと受け流した後の一瞬。もしくは、部長の話に霞が飄々と反論して彼の怒りを買い、周囲に宥められた後の一瞬。注視していない限り気付けないほどわずかな変化だけれど、その綻びこそが俺に大きな衝撃を与えたのだ。ふっと緩む頬の筋肉、かすかに下がる眉の角度、目尻にきゅっと寄る笑い皺。極めつけは、細めた両瞼のあいだに光る瞳のあたたかさ。まだ小さかった頃のいたいけな幼馴染みを、今そこにいる霞に透かし見るような視線だと、根拠もなく思った。二人の過ごしてきた年月の長さを、見えるはずもない時間をぎゅっと凝縮したような色を、その瞳に見た。おそらく本人さえも自覚していない、ささやかに過ぎる強さの眼差し。「やれやれ」、「しょーがねー奴」などと聞こえてきそうなその表情はいつも、現れるや否や文字通り瞬く間に消えてしまう。なのにいつまでも脳裏に焼きついて忘れ難く、どうやら俺はあの一瞬の気色にすっかり魅了されてしまっているらしいと、何度目かの目撃で悟った刹那——すぐさまこの胸の内にきつく蓋をしたのだった。「あれ」が自分に向けられる日なんて絶対に来ないことも、同時に理解できてしまったから。


     居酒屋独特の喧騒をよそに、数年前の記憶をひとり思い返してはあと息を吐く。ずっと封印していた思い出。芽生えてしまったと知りながら、自ら摘み取った想いのこと。確かな恋慕にさえなれなかった感情は、名前をつけるならやはり「憧れ」なのだろう。憧れのままに押し留めて終わりを迎えた、小さな小さな傷跡。
     今日のOB会だって、一切の後ろめたさも妙な期待もなく、純粋に楽しむためにやって来たのだ。集合場所に連れ立って現れた部長と霞を見た時だって、全くもって平気だったのに——同級生と談笑する最中、飛び込んできたゴシップさえなければ。
     ——さっき隣のテーブルから聞こえてきたけど、あの二人、今付き合ってるらしいぞ。幼馴染みの部長コンビ。え、山田先輩と霞が?
     友人たちの交わす会話に心臓がどきりと跳ねて、封じ込めていた記憶が小さな痛みとともに蘇ってきたのが数分前のこと。
     ——なになに、大学入ってから? えー、高校の頃は仲良いなって程度だったよな? 幼馴染みと付き合うって漫画みてえだな。いいなあ、俺も彼女ほしー。そういえばこないだ行った合コンでさ……。
     酔っ払いたちの話題はすぐ別の方向へ流れていって、動揺を押し込めていた俺は密かに安堵した。良くない流れへ傾かないよう、不自然でない程度に口を挟むべきかと逡巡していたのだが。
     鼓動を落ち着けるため、ひとり静かにちびちびとビールを舐める。けれど燻る好奇心は俺の視線を勝手に誘導し、隣の長テーブルが視界に入ってしまった。その座席に並ぶ二人、部長と霞の様子をこそりと観察してみる。周囲に悟られないよう注意を払いながら。側から見れば、昔と同じく普通に仲の良さそうな幼馴染みといった雰囲気だ。しかし部長を熱心に見つめていた過去のある俺にかかれば、隣の男を見る彼の目が一貫して優しい色をしていることは遠目にもわかった。周囲の目がある手前、態度自体はぶっきらぼうに通そうと努めているようだけれど。その視線を受ける霞はほどほどに酒が回ってきているらしく、どこかふわふわとした様子ながらも時たま隣へ寄越す視線が露骨に甘い。アルコールのせいで体面を繕えなくなっているのではないかと、余計な心配をしてしまう。その霞の唇が「駿君」と幼馴染みの名を呼ぶ形を描き、呼ばれた彼は億劫そうに、けれど穏やかな様子で首を傾けて応える仕草をした。——懐かしいな、あいつがその呼び名をぽろっとこぼすたびに怒鳴りつけられるところを、昔の俺は羨望とともに眺めていたんだっけ。現在の二人を見つめる自分の心の内をいくら探しても、霞を羨む感情はどこにも見当たらなかった。改めて完全に吹っ切れたのだと、認めてやってもいいのかもしれないな。そう思うと途端に心が軽くなって、なぜだかビールの香りがより芳しく感じられた。視線を自分の手元に戻し、さあ飲み会も仕切り直しだと大皿の料理に箸を伸ばす。というかそもそも、大人数の飲み会で恋人同士並んで座るって、相当だよなあ。——バカップルとか言われても反論できませんよ、部長。本人の前ではとても言えそうにない軽口が思い浮かんで、自然にふっと笑いが漏れる。すると、なんか楽しそうだなお前、と向かいに座る友人から声を掛けられた。そう見えているのなら、何よりだよ。
     あの頃、部長の眼差しに宿っていたのはたぶん幼馴染みへの情に他ならなかったはずだけれど。今はそこに愛しげな色が乗っているのを目の当たりにして、あの表情を好ましく思った自分をようやく肯定できる気がした。時を経ても、彼の心の特別な席に座っているのはやはり霞冬居なのだった。ジョッキを軽く持ち上げて、心の中で過去の俺と乾杯をする。傷の浅いうちに終わらせてくれたこと、感謝してるよ。思い出とともに勢いよく流し込んだビールは、苦味を伴う格別の喉ごしだった。
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    さめしば

    DONE灼カバワンドロワンライのお題「こどもの日」で書いたSS
    5月5日の井浦慶の話。⚠️捏造要素あり
    「じゃあ今から十五分の休憩に入ります! 皆さん、水分はしっかり取ってくださいねー」
     はあーい! 整列した子どもたちの声が、体育館の天井に高く響いた。

     きょうは五月五日、こどもの日。都内のとある大型スポーツ施設では、小学生を対象としたスポーツフェスティバルが開催されていた。さまざまな競技団体が集うこの日、カバディ協会に割り当てられたのはここ、第二体育館の午前のプログラムだ。「こどもカバディ体験教室」と題し、競技未経験の子どもたちにカバディの楽しさを知ってもらう——これが本日のねらいである。その折り返しとなる休憩時間、運営スタッフとして参加中の井浦慶は、持参したペットボトル片手に休息を取っていた。立ったまま体育館の壁に背を預け、小さな溜め息を吐く。——わかっちゃいたけど、子どもの相手ってのはなかなか骨が折れるモンだな。スポーツドリンクを喉に流し込みながら、目の前の喧騒を眺めつつ思った。体力の有り余っているらしい男子数人が、休憩の間も惜しむようにマット上でじゃれ合っていた。狭いコート内で行われる鬼ごっこがいたく気に入ったと見える。悪くない光景だと、井浦は素直にそう思った。すると、井浦のところにまっすぐ近付いてくる男がひとり——同じくスタッフの一員として参加中の、山田駿だ。
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    さめしば

    TRAINING付き合ってる冬駿のSS
    お題「黙れバカップルが」で書いた、井浦と山田の話。冬居はこの場に不在です。
    お題をお借りした診断メーカー→ https://shindanmaker.com/392860
    「そういえば俺、小耳に挟んじゃったんだけどさ。付き合ってるらしいじゃん、霞君とお前」
     都内のとあるビル、日本カバディ協会が間借りする一室にて。井浦慶は、ソファに並んで座る隣の男——山田駿に向け、ひとつの質問を投げ掛けた。
    「……ああ? そうだけど。それがどーしたよ、慶」
     山田はいかにも面倒臭そうに顔を歪め、しかし井浦の予想に反して、素直に事実を認めてみせた。
    「へえ。否定しないんだ」
    「してもしゃーねえだろ。こないだお前と会った時に話しちゃったって、冬居に聞いたからな」
     なるほど、とっくに情報共有済みだったか。からかって楽しんでやろうという魂胆でいた井浦は、やや残念に思った。
     二週間ほど前のことだ、選抜時代の元後輩——霞冬居に、外出先でばったり出くわしたのは。霞の様子にどことなく変化を感じ取った井浦は、「霞君、なんか雰囲気変わったね。もしかして彼女でもできた?」と尋ねてみたのだった。井浦にとっては会話の糸口に過ぎず、なにか新しいネタが手に入るなら一石二鳥。その程度の考えで振った一言に返ってきたのは、まさしく号外級のビッグニュースだった。——聞かされた瞬間の俺、たぶん二秒くらい硬直してたよな。あの時は思わず素が出るとこだった、危ない危ない。井浦は当時を思い返し、改めてひやりとした。素直でかわいい後輩の前では良き先輩の顔を貫けるよう、日頃から心掛けているというのに。
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