「いやあ、絶景絶景」
端に細い三日月を覗かせた赤銅色の満月を背負い、その城は威風堂々たる佇まいでそこに在った。
「百四十年ぶりの天体ショーだってさ」
「けど、こういうところには、集まりますよね」
元々が要塞としての役目を果たしていた建物だ。血生臭い歴史に加えて、今日は大勢の人々の好奇や畏怖すらも折り重なるように集まり──それは呪いとして形を為す。
「おっ、きたね」
土地に染み込んだ、怨み辛みが力を得て、異形として現れる。地面から噴き出した赤黒い血液のような液体は、徐々に硬化し、甲冑の姿へと変化した。
「日本遺産だから、派手にやって壊さないようにねえ」
「そっくりそのまま返しますよ」
「やるのは恵でしょ。僕は見物。絶景の方のね」
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