猫になった蛍と魈の話「……蛍?」
望舒旅館の最上階。しん、と静まり返ったこの場所で、魈は目を瞬かせる。目の前には顔を真っ赤にして涙目になった蛍がいた。特筆すべきは、その姿。
白金色の髪から伸びるのは柔らかそうな猫の耳。尻の方からはゆらゆらとしっぽが揺れている。
「ど、どうしよう魈……っ」
魈の姿を確認した蛍は、感極まったように魈の元へと抱き着く。感情がリンクしているのか、蛍の頭についている耳がへにょ、と萎れた。
魈はというと、心底面倒くさそうな表情を浮かべながら蛍を頭のてっぺんからつま先まで観察すると、危険なものでは無いと判断したのかみゃーみゃーと騒ぐ蛍の背をとんとんと優しく叩いた。
仮にも恋人に向ける顔では無いと思う、と少し唇を尖らせながら蛍はぎゅっと魈に抱き着く。
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