荒地にて ただ傍で見ている事しかできなかった。目の前で恩師を殺された瞬間の絶望と憤怒に満ちた少年の横顔を。もうこんな辛そうな表情に触れたくはなかったのに。
人が理不尽に踏み躙られる様は職業柄慣れているはずだった。だが虎杖の今の姿は己が身に堪えた。当然だ。彼はこの短い過酷な期間でどれだけのものを奪われ続けてきたのだろう。それでも一切怯まず業を背負い戦う姿に俺は一度打ちのめされたのだから。未だにあの時の腹の痕が疼く。忘れるな、と言わんばかりに。
「何か飲むか」
「え、いいの?……じゃコーラで」
年相応の笑みを浮かべる虎杖を横目にロビー脇に佇む古びた自販機のボタンを押す。ごとん、と鈍い音を立てて赤い缶が落ちてくる。
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