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    mitsuhitomugi

    @mitsuhitomugi

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    mitsuhitomugi

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    天田のクリスマスの話です。大遅刻ですが10の位がまだ2の間に完成できてよかったです。よくねえ。

    #ペルソナ3
    persona3
    #天田乾
    tendaQian
    #クリスマス
    christmas

    僕とサンタクロース その日の教室はいつも以上に騒がしかった。
    「なんか全然頼んだのと違うプレゼント来たんだけど!」
    「サンタの手紙がお父さんの字そっくりでさ〜」
    「ゲーム貰えたけど電池入ってなくてプレイできなかった……」
     今朝教室に入った瞬間に聞こえてきたのはそんな話ばかりで、クラスメイト達は一日ずっとこの調子だ。というか、十二月に入ってからずっとクラスの話題の中心はクリスマスだった。そのピークが今日というだけで。
     冬休み目前という時期も相まって良くも悪くも落ち着かない児童たちの輪の中で、天田は一人浮かない顔をしていた。
     
     帰りの会が終わるや否や、クリスマス談義に勤しむ周囲を横目に天田は一人そそくさと帰り支度を始めた。
     級友達がそわそわとサンタクロースへの頼みごとを考えていた頃、特別課外活動部は唐突に世界の終末が差し迫っていることを告げられた。そのせいで天田はずっとこの浮ついた空気感に馴染めずにいる。プレゼントはもう決めたのかと悪意無く聞いてくる友人に、何を呑気なことをと苛立ちを覚えたこともある。あれは理不尽だったと反省しているが、やはり学校にいる間は自分だけがどこか別の世界に取り残されたような孤独感が付き纏っていた。
     それでも、ちょうど二日前にも真田と語らった通り、ここで諦める訳にはいかない。自分にはまだやるべきことがあるのだ。ランドセルの錠前を閉めると、強固な決意が伝わったみたいにカチンと少し強い音が鳴った。

    「あれ、天田もう帰るの?」
    「ああ、今日はちょっと……」
     肩ベルトに両腕を通したタイミングで友人に声を掛けられた。早くこの落ち着かない空気から脱出してしまいたいのだが、どうやら今日は運が悪いらしい。目の前の少年は一切の他意もなく、天田に予想通りの質問を投げかけた。
    「そういや天田さ、プレゼント何もらった?」
    「僕は……もらえなかった。良い子じゃなかったからかも。じゃ、また明日な」
    「えっ、おい、天田!」
     呼び止める声も無視して、逃げるように教室を飛び出した。廊下に出ると、暖房の効いた室内とは対照的な冷たい空気が天田を包む。
     自分の元にはサンタクロースは二度と来ない。二年前のクリスマスに悟ったことだった。
     きっと終末なんか無くたって、この季節は静かな疎外感に苛まれていたことだろう。去年はクリスマスの奇跡なんてものをほんの少しだけ信じてみたけれど、そんなものは幻想で、やっぱり「サンタさん」は現れなかった。むしろ、今年は「サンタさん」――母親にしっかりと別れを告げ、母のいない世界を生きていくことを誓ったのだから、サンタクロースに縋るなどあってはならない。「サンタの正体は親だ」と訳知り顔で話していた数人のクラスメイトがさり気なく自分を哀れむような目で見ていたことはとっくに気付いていた。だから、サンタクロースなんていなくても平気だと、そう自分に言い聞かせてきた。
    「でも、やっぱり……」
     無我夢中で走っていた足を止める。上がった息を整えながら視線を落とすと、冷え切った指先が悴んで痛々しいほど赤くなっていた。
     寂しい。悲しい。辛い。静かに呟いた言葉の先の候補は色々あったが、どれも今の天田の心を的確に表すものでは無かった。
     俯いたままで正門を抜け、そのままポートアイランド駅までの道を行く。足下を見ながら歩いていると、道に落ちている不気味なチラシが昨日より増えている気がした。モノレール乗り場に辿り着き、乗客の少ない車内に乗り込む。巌戸台駅で降りると、胸の中のモヤモヤを吐き出すように溜め息を一つこぼした。
     (このまま帰る気にもなれないな……)
     溜め息は白い色をして視界に現れ、そのままあっと言う間に霧散してしまう。その様をぼんやりと見届けた後、天田は長鳴神社へと向かった。こんな気分の時は、神社に立ち寄って心が持ち直すまで過ごすのが天田の恒例になっていた。

    「ただいま……って、風花さん?」
    「天田君!?あっ、お、おかえりなさい」
     寮に帰ってきた天田を出迎えたのは風花だった。しかし、何やら普段の穏やかな返事ではない。まるで隠し事でもしているかのような不審さだ。
    「あの、何かあったんですか?」
    「な、なんでもない!なんでもないのよ、本当に」
    「そうですか……」
     見るからに怪しいが、本人がなんでもないと言うのだからそういうことにしておく。風花のことだから滅多なことはしないだろうし、余計な詮索はしないでおいてやるのだ。こういうのを「大人の対応」と呼ぶ。
    「外、寒かったでしょ?ココアでも飲む?」
    「大丈夫です。自分でコーヒー淹れますから」
     返事をしながら、ひとまずランドセルを下ろすべく部屋に向かう。風花は優しいし情報支援の面ではとても頼りになる先輩だが、何かと天田を子供扱いしたがるのが困ったところだ。ゆかりもそうだが、子供というだけでかわいいだの何だの言われるのは不服である。小学生だろうと、それなりに男のプライドというものがあるのだ。
    「悪気はないんだろうけど、正直カンベンしてほしいよなぁ……」
     独り言を呟きながら階段を昇り、ポケットから自室の鍵を取り出す。一番手前にある自分の部屋の前に向かうと、通販番組で届いた荷物よろしく見慣れない箱が扉の前に鎮座していた。
    「うわっ、な、何だ……!?」
     恐る恐る近寄って見てみると、それは赤と緑の縞模様をしたツヤツヤの紙に包まれていて、蝶結びになった金色の小さなリボンが貼り付けられている。
     「まさか、プレゼント……?」
     天田を戸惑わせるには充分すぎるそれは、紛れもなくクリスマスプレゼントの様相をしていた。しかしなぜこんな物が、と動揺したのも束の間。天田の中ではすぐに合点がいった。
    「そっか、さっきの風花さんの態度はこういうことか」
     恐らくは、風花が天田にクリスマスプレゼントを用意していて、こっそり部屋の前に置いておき「サンタの仕業」ということにしたかったのだろう。心優しく、そして天田を子供扱いしがちな彼女の考えそうなことだ。気遣いは嬉しいが、サンタクロースなんて信じていないのだから普通に渡してくれれば良いものを。
    「へへ……ちょっと困っちゃうけど、嬉しいな……」
     照れ臭さを紛らわすように頬を掻き、箱を抱えて部屋に入る。学習机の傍らにランドセルを下ろすと、包装紙を破らないよう丁寧にプレゼントを開封した。
    「これ……クッキーかな」
     中から現れたのは洋菓子が大きくプリントされた銀色の小箱だった。贈り主であろう風花は、男の子が好きそうなものがわからないからとお菓子をチョイスしたのだろう。
    「お礼言わないとな。せっかくだしみんなで食べるのもいいかも」
     クッキー缶を片手に、先程と比べると随分明るくなった心持ちで扉を開ける。部屋の外へ一歩踏み出した瞬間、コツン、と爪先に何かが当たった。
    「うわっ、また!?」
    「またって何だよ!?」
     驚いた拍子に叫んだ天田に続いて、よく聞き慣れたちょっとだけ間抜けな大声が響いた。
    「あ、順平さん。もしかしてこれ、順平さんのですか?」
    「い、いやぁ?俺っちな〜んも知らないな〜?」
    「わざとらしすぎますって」
     ちょうど目の前に立っていた順平は、「しどろもどろ」なんて言葉がよく似合う慌てようだ。そして天田の足下にはまたしてもラッピングされた箱。先程のものよりも少し大ぶりだった。
    「別に隠さなくていいですよ。ありがとうございます」
    「相変わらず可愛げのない小学生だなーオイ。そこは素直にサンタさんだー!ってはしゃいどけよ」
    「僕サンタさんはもう信じてませんから。でも気持ちは嬉しいですよ」
    「中身にも喜んどけよ、ガキンチョー!」
     順平が捨て台詞を吐きながら隣室に引っ込んでいくのを見届け、箱を拾い上げて天田も再び自室に戻る。風花の時よりやや雑な手つきで包装から取り出されたそれは、男児向けヒーロー作品の食玩だった。
    「順平さんもああ見えて結構優しいよなあ。ちょっとうるさいけど」
     同意を求めるように、ゲージの中のハムスターに話しかける。ハムスターはただ一心不乱に回し車の中で走り続けるばかりだ。
    「お前には関係ないか」
     こちらを見向きもしないハムスターを見ながら独りごち、再びクッキー缶を小脇に抱えて部屋の扉を開けた。……はずだった。
    「イテッ」
    「え!?」
     扉に何かがぶつかった感覚がして、同時に小さな声が聞こえた。半端に開いた扉の隙間から人影が覗く。
    「……あ、天田…………」
    「何してるんですか……」
     目の前に立っていたのは我らが特別課外活動部のリーダーだった。恐らくたった今扉にぶつけた箇所なのだろう、前髪に覆われた額をさすりながらばつが悪そうな顔をしている。
    「いや、これは、その……メリークリスマス」
     恥ずかしいところを見られたせいか天田とは目を合わせようとしないまま、リボンのついた大きな袋を手渡してきた。変に誤魔化さない分潔い。
    「ありがとうございます。やけに大きいですね、これ」
    「UFOキャッチャーで取れたから、喜ぶかと思って」
     そう言うリーダーは今度は天田の顔を見て、少し照れくさそうに言った。やっぱり、真正面から言ってもらえる方が嬉しい。
    「へへ、嬉しいです。なんだろう……ぬいぐるみですか?」
    「当たり。土偶と迷ったけど」
     感情があまり顔に出ない彼は、冗談と本気の境目が時々よく分からない。それでも、どうやら天田が喜んでいるのを見て安心したらしいことは伝わってくる。
    「そうだ、さっきクッキーを貰ったんです。よかったらみんなで食べたいなって」
    「もしかして、山岸サンタから?」
    「知ってたんですか?」
    「うん。この前……二年生だけで喋ってた時、『天田くんにプレゼントあげたら喜ぶかな』って言ってたから。まさかみんなやるとは思わなかったけど」
     階段を二人並んで降りながら、こっそりサンタクロースのネタばらしをされた。今日のリーダーはいつもよりよく喋る。彼も密かにクリスマスの空気感に浮かれているのだろうか、なんて考えると、見上げた先のクールな横顔がどこか楽しげに見えた。
     
    「ただいまー。ごめん、遅くなっちゃった」
    「ゆかりちゃん!おかえりなさい。どうだった?」
     ちょうど天田達が一階に着いたすぐ後に、ゆかりが帰ってくる声がした。おかえりなさいを言うには二人の位置は少し遠く、ラウンジの中央へと歩みを早める。
    「やー、散々迷ったけどね。結構イイの見つけたよ」
    風花と何やら喋っているゆかりは、提げていた紙袋から中身を取り出すと背の低いテーブルに置いた。遠目から見ただけでも包装の華やかさが窺える。
    「あの、リーダー……あれって……」
    「あー……どうしよう……?」
     十中八九、ゆかりサンタによる天田宛のプレゼントだろう。シャドウとの戦闘では寸分の迷いなく作戦を指示するリーダーも、困り果てた様子で頭を掻いている。このまま進めば若干気まずいことになり、撤退すれば恐らく階段を昇る最中に視界に入ってバレてしまう。進むことも戻ることも能わず。
    「僕、行っちゃまずいですよね」
    「僕の後ろに隠れてやり過ごせ」
    「無理がありますよ!」
    「今はそれしかない!」
    「他にあるでしょ!せめて物陰とか……」
    「あっ、天田君!?」
     二人して小声で悶着している間に、いつの間にかゆかりはすぐ側まで来ていたらしい。ゆかりは咄嗟に抱えていた荷物を身体の後ろに回したが、残念ながら派手な包装と華やかなリボンがはみ出している。三人共「しまった」という顔をしながら硬直してしまった。
    「や、これはー、その……ね?リーダー」
    「……僕?」
    「ほら、なんかうまいこと言いなさいよ……!」
     頼もしい先輩達が目の前で声を潜めて破綻した計画の修復を図る様は正直見ていられない。天田は若干躊躇いながらも会話に割って入ることにした。
    「あの、大丈夫です。さっきリーダーからもプレゼント貰いましたから」
    「うっそ、君バレちゃったの!?」
    「山岸と順平もバレたよ」
    「全員じゃない!」
     ありえなくない、とがっかりした顔で落胆すると、ゆかりは肩を落として天田に申し訳無さそうな顔を向けた。
    「ごめんね、天田君。もしかして夢壊しちゃった……?」
    「いえ、大丈夫です。元々サンタはいないって知ってましたから。それよりもみなさんの気持ちが嬉しいですよ」
    「マジ天田君しっかりしすぎだわ……」
    「大人だね、天田は」
     泰然とした態度に感心の声を向けられ、嬉しさが心の内側の方からじわじわと広がっていくのを感じる。
    「それより、みんなでクッキー食べませんか?風花さんから貰ったやつですけど、せっかくなので」
     そう提案する天田の顔は、緩んだ頬を引き締めきれていないままだ。ゆかりとリーダーは同じようにクスリと微笑み、それぞれに返事をした。
    「良いね。それじゃ順平と先輩達呼んでくるよ」
    「私飲み物用意しとくね。天田君ココアで良い?」
    「僕も手伝いますよ。あと僕はコーヒーが良いです」
     今度はゆかりと二人並んでキッチンへ向かう。他愛ない話をしながら、こんなに賑やかなクリスマスは初めてだと思った。サンタクロースがいなくたって、こんなに楽しいのならクリスマスも案外悪くない。次のクリスマスはアイギスも揃ってみんなでパーティーが出来たらきっともっと楽しいだろう。そんなことを考えながら、天田は小さな幸せを噛み締めた。
    「あ、てかゴメン、私まだプレゼント渡してなかった!!」
    突然大きな声を出したかと思うと、ゆかりはずっと身体の後ろで抱えたままだったプレゼントを天田に差し出した。
    「はい、天田君。メリークリスマス!」
    「へへ、ありがとうございます」
    素直に受け取って笑顔を交わす。やっぱり、直接渡されると照れ臭いがそれ以上に嬉しい。
    「来年はさ、みんなでプレゼント交換会とかしたいよね」
     笑顔のまま、少しだけ真剣な調子でゆかりが言った。
     来年、次のクリスマス。当たり前に来るものではないことを自分達は知っている。だからこそ、天田も笑顔のままで強く頷いた。
    「ええ、やりましょう。きっと楽しいですよ」
     互いの決意を確かめ合うように、ほんの数秒の間だけ無言で視線を交わす。だから戦おう。そう言外に伝え合うと、元の調子に戻ってゆかりはまた気の緩んだ笑顔になった。
    「でもさー、美鶴先輩とかスゴイ物持ってきそうじゃない?ウン十万円とかするようなやつ!」
    「それを言ったらアイギスさんも何を持ってくるか分かりませんよ?何せロボットですし」
    「あー、確かに。あと順平とかさ、絶対ロクな物じゃないって。天田君順平から何貰ったの?」
    「フェザーマンのフィギュアでした。お菓子売り場に売ってるやつ」
    「男の子にはそういうのの方が良いかー。うわ、私も相手次第では大事故起こす気がしてきた」
     平和な未来のことをなんでもないように想像して話す。それはまるで祈りのようでもあった。
    「風花ー!一緒に飲み物の準備手伝ってくれないー!?全員分ー!あ、天田君は先にプレゼント部屋に置いてきなよ」
    「はい。すぐ戻ってきますね」
     そう言い残して駆け足気味にラウンジを出て行く。階段を昇りながら振り返ると、楽しげに笑うゆかりと風花の姿があった。
    もうすぐ新しい一年が始まる。去年の今頃はまだ何も知らなかった。けれど今は違う。戦い続ける覚悟がある。この先の未来も、変わらず皆で笑い合えるように、進み続けなければならない。
     期待と覚悟とを胸に抱え、天田は一人そっと呟いた。
    「母さん。僕、諦めないよ」
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    mitsuhitomugi

    DONE3月5日には間に合わなかったし言うほど3月5日に寄せた話でもない、後輩達の卒業を祝う美鶴の話です。
    スターチス その日中に終えねばならない粗方の仕事を片付け、ふうと息を吐く。するとふっと力が抜けて、こんなにも肩に力を入れていたのかと美鶴はようやく気が付いた。
     ここ暫くは公安と共同での非公式シャドウ制圧部署の設立及び始動に向けた各所への調整、交渉、加えて各地に出現したシャドウの対処など、やるべきことが隙間なく詰まっていて休む暇がほとんど無い。当然、仕事で手抜きなどするつもりは毛頭無いが、やはり疲労は相応に溜まってしまうものである。
     気分転換に紅茶でも淹れよう。そう思い立ち席を立った時、窓から差し込む夕陽が目に入った。時計を見やると、時刻はそろそろ18時になろうかという頃だった。
     ほんの少し前までは、この時間になるととっくに陽は落ち切っていた気がする。春というのはこうも知らぬ間に訪れているものだったか。大人になると時の流れが早くなる、とは聞いたことがあるものの、いざ実感すると何かに置いて行かれてしまったような寂しさがあった。それはきっと、1年前まで寮で共同生活をしていた仲間達を想う懐かしさと一体の感情なのだろうと美鶴は思う。
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