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    mksb_94

    落書きとワンクッションが必要系置き場

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    ちまちま続き書いてた鮫ロナ君監禁話その3。ドちゃ視点で初めての食事まで。

    吸血鬼と鮫の人魚③ 再会した時に見せたあの表情は、確かに喜びに満ちていたのに。ここに来てロナルド君が最初に見せたのは怯えた表情だった。なにが怖かったのだろう、こんな脆弱な私に恐怖する要素なんてないはずなのに。私を殺した後は恐怖の色が消し飛んでいたので、これで元に戻るかと期待したけれど、あの柔らかい表情は戻らなかった。
     しばらく窓の外を見ていた彼がひとつ大きなため息をついた後、尾ビレで床を叩いて水槽に飛び込んだ。その際の水飛沫が身体を貫き、私はまた砂になった。
    「えっ、簡単に死にすぎだろ!前は外で風もあったのに平気だったじゃねぇか、あっ、もしかして俺がお前の砂食べたから?」
     ロナルド君はその生まれ持った強さに似合わない精神構造をしている。自分は怖がられる存在であることを受け入れているし、その恐怖を与えられる力を求められているとも理解している。海では神格化され、実際に力を行使すれば敵無しな事実もあるのに、何故か自分に全く自信がなく、自らの行動が他者に与える影響はよくないものだと思い込んでいる。だから殺しにかかって殺せなかった私の心配までしてしまう。
     初めて会ったあの日、一時間もなかったやりとりだけで、私はロナルド君の人となりと海での立ち位置を知るに至った。彼の生活、人生の中で、他者との会話は本当に希少な機会なのだとわかった。
    「いや、大丈夫だよこれはもともと。外では君の言う通り風に巻かれるのが怖いから気合を入れているんだよ。室内では気が緩んでるからすぐ死んでしまうんだ。」
     ゆっくり再生しながら返せば、よく今まで生きて来れたなと感心されてしまった。今日のロナルド君は出会った日よりもたくさん私について聞いてくれる。思えば、畏怖欲についての疑問は、私個人ではなく種族に対するものだった。あの時感じた違和感と若干の苛立ちの原因にやっと気付く。彼は私を見ていなかったのだ。最後に名乗った時に、彼の中に私個人がようやく認識されたのだろう、今日初めて彼は私と対話をしているのだ。
     なんだか嬉しくなってしまう。見たかった笑顔も楽しい空気もないけれど、彼は今確かに、吸血鬼ドラルクの情報を取り込んでいる。
    「なにニヤついてんだ気持ち悪い。本当に鑑賞するだけで満足なのかよ、鮫の俺見て何が楽しいんだ?」
    「違う、これは君との会話によるものだ。君は綺麗な見た目をしているし眺めているだけでも幸せな時間を過ごせるだろうけど、なにより君が私に興味をもってくれたのが嬉しくてね。」
    「は?何言ってるんだよ、興味じゃねぇ警戒してるだけだ。」
    「警戒なんて必要ないのになぁ、じゃあまず私のことを話そうか。」

     自分のことを誰かに語るなんて初めてだったのに、思ったよりもスムーズに口が回った。幼少期からの思い出や家族の話を、少しでも楽しんでもらえるように物語調に抑揚をつけて話した。ロナルド君は一切反応してくれなくて、興味なさげな表情のまま視線も合わせてくれなかったが、隣に座って静かに聞いていた。
     思い出せる御祖父様の無茶振り行事について端から紹介していき、先日の遠泳大会に及んだ際、隣からイルカが鳴いたような、可愛らしい音が聞こえてきたので話を中断した。ロナルド君を見れば、耳まで真っ赤にして視線を逸らし震えていた。
    「えっ、どうしたの大丈夫?」
     私の声かけと同時にまた同じ音が鳴り響き、ロナルド君は慌ててお腹を抱える。そこでようやく音の正体が彼の腹の虫だと気付いた。
    「あぁごめんね、お腹空いたよね。ロナルド君人魚だし人間の料理も食べれるかな?さっきも話したけど料理には自信があるんだ。ちょっと待っててね、すぐ作ってくるから!」
     うずくまって動かないロナルド君から返事はもらえる気がしなかったので、私は勝手に話を進めて足早にキッチンへ向かった。

     ロナルド君のために食材は十分に用意してあるし、元人間で料理を食べる家族に味見役をしてもらいクオリティも上げてある。頭の中は真っ赤になったロナルド君に支配されていたが、身体は問題なく動き調理が進められていた。
     まだ彼に触れる勇気はなくて、真っ赤な顔を見ることが出来なかったのが悔やまれる。恥ずかしさを押し殺して丸まっていたあの時なら、ふわふわな髪を撫でていい流れだったのではないか、なんて勿体ないことをしたのだろう。
     この料理も彼の口には合わない可能性だってあるし、そもそも食べられないかもしれない。なので、あらゆるパターンを想定してメニューも決めてある。最初はオムライス。彼の初めてを見たくて、食器なんて触ったこともないだろうけど、手掴みで食べられるものは避けた。並べたカトラリーを無視して犬のように喰い付いてしまうかもしれないが、食べてもらえるならなんでもいい。彼が自分の為に作られたものを無碍にできないことは想像に難くないので、正直口にしてもらえる確信はある。もし美味しいと言ってくれたら、彼に触れてもいいか聞いてみよう。

     ロナルド君がいる水槽は、まるで水族館のように中が一望できる面があり、上部は開放されているため水中で大きな波をたてると観覧者は水を被ることになる。水槽の高さに合わせたステージが窓際にあり、昼には陽光、夜には月光が射す六畳ほどのスペースが、今のロナルド君にとっての唯一の陸地になる。このステージは巨大な水槽の端に蓋をした形になっていて、ステージから水槽へ足を踏み入れるとベンチのような足場が用意されている。水中でこの足場に座るとステージがテーブルになるのだ。御祖父様も昔ここで人魚を飼っていたのかと思わずにはいられない。
    ランチョンマットとスプーン、完成したオムライスを抱えて戻ってみると、ロナルド君はステージ下の暗がりに潜んでいた。腹の虫が泣き止んでくれないのか水中でも丸まっているが、真っ赤だった耳はすっかり元通りだ。私に気付くと手元の料理に視線が注がれた。
     階段を昇ってステージに上がると、ロナルド君が水面から顔を半分出してじっと様子を伺っている。ランチョンマットを敷いて皿とスプーンを並べれば、ロナルド君はしっかり水中のベンチに収まって料理の前で待機していた。おそらく初めて目にするオムライスを訝しげな表情で見つめているが、身体の動きが興味と期待を隠しきれていなくてとても可愛らしい。
    「さあ召し上がれ。食べ方は知ってるかな?」
     私はスプーンでオムライスのソースと卵と御飯の三層を掬って見せた。
    「このお皿の上にあるものは全部食べられるよ、こうやって」
     ガチリと、説明を遮ってロナルド君はスプーンに喰い付いていた。食べさせるつもりはなくて、やり方を見せてからスプーンごと手渡すつもりだったから、驚いた私は手を離し、砂になりそうになるのをぐっと堪えた。ロナルド君は自分でスプーンを口から引き抜いて咀嚼を始めると、大きく見開かれた目からみるみるうちに大粒の涙が溢れてきた。
    「えっ!泣くほど不味かったの?無理して食べなくていいよ、吐き出して!」
     どんな反応が来ても驚かない覚悟を決めていたが、まさか泣き出すなんて予想外だった。ショックもあったが初めて見た泣き顔が可愛くて、悪い気はしない。私はすかさずハンカチを懐から取り出して、彼の涙を拭った。
    「ちがう、ビックリしただけ」
     ロナルド君はうつむいてぽつりと言う。人間の味付けが人魚には刺激が強いのだろうか、だとすると私のレシピは全部使えない可能性が出てきた。泣き顔にテンションを上げた罰だろうか、楽しみだった食事計画が白紙になりそうだと気を落としかけた時、ロナルド君が顔をあげた。
    「こんな美味しいもの、初めて食べた!」
    涙で頬を濡らしながら、彼は満面の笑みを称えていた。こんな幸せそうな表情は初めて見た。私はこの瞬間のために今まで料理の腕を磨いてきたのだと思ってしまうくらい、胸の高鳴りを覚えた。
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