■■くんは汚いサモナー　真人の直感が面白そうな散歩道を捉え、未知を求めて足が弾んだ。今日に知るモノは糧となるか芥となるか……人の群れを悠々と追い越し、辿り着いた曲がり角から半身を覗かせる。
「うげっ」
　瞬間、真人の視界を支配したのは四体の式神であった。
　気高さすら感じる大蠅、荘厳な佇まいの芋虫、黒白双頭の鴉、蛇とも竜ともつかない爬虫類。それぞれが放つ剥き出しの強さに、真人は本能的に来た道へと身を隠した。特級呪霊の己といえど、単体で相手をするには難しいと判断する。
　しかし、危険な好奇心に抗えるほど真人は時を経ていない。
（式神使いのオフ会か？）
　術式で手の甲に眼球を追加し、角の向こうに身を潜めたまま腕を伸ばし、式神達の観察を開始した。
（違う、一人だ）
　式神達は一人の青年を中心に留まり、固まり、付かず離れず取り囲んでいる。その様は“守る”というよりも、ただ“在る”だけ。低級呪霊が青年の――文字通りの――眼前を横切って逃げても、式神はじっと眺めるだけで動こうともしない。青年自身は何かが横切った事すら認識していないようで、笑顔で横断歩道の反対側に手を振っている。気付かなかったでは済まされず、雑魚を放置する方針にしては、あまりに可笑しく暢気な挙動だった。
（代謝から警戒が見えないし、祓う敵意どころか式神を操る意思も動作も無い。まさか……“見えてない”のか？　呪霊も、式神も？　じゃあ、この人間ってもしかして）
　天与呪縛。『見えない』もしくは『見ない』に縛られるが故に、強力な式神を縁で縛りつける人間。『見えない』が為に、無自覚なまま力を腐らせている人間。呪術師の耳に届かず呪詛師の手も捉えていなかった彼は、この日、呪霊の眼によって捕捉された。
（面白いモノ、みーつけた）
　糧か、芥か。直感の先、真人を待っていた未知の名は――

「おーい、キタサモー！」