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    jusimatsu

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    jusimatsu

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    デアアイの温め鳥みたいな添い寝
    全体的にアイのストレス値が高め
    ――――――――――――――――――――

    アイザックがデアンから奇妙な提案をされたのは、アイザックが月での生活に慣れ始めて少し経った頃だった。
    眠りたいがアドレナリンが余り気味なため、速やかに寝付くためにアイザックの助けを借りたいというものだ。
    睡眠導入剤が必要ならば自分の専門ではないと言うと、必要なのは薬剤の類ではなくアイザックが近くにいることだという。
    数年単位で睡眠を取らずに活動可能なデアンの、その睡眠を取るタイミングがちょうどこの頃であること、機関がいずれ月に乗り込んでくるフォッシル―空の民―を決して侮ってはいないことなどから、休息には最大限の効率が必要であると彼は判断した。
    そして毎日睡眠が必要なアイザックの時間を無駄に拘束するわけにはいかないので、睡眠を取る時間を同じにする。つまりは一つの部屋で一緒に眠る。それがデアンの提案だ。

    「うん、合理的だね。すごく合理的だ……」

    なぜデアンの睡眠に自分が必要なのかわからないが、そうしなければいけないのならお互いの睡眠時間を合わせてしまうのは理にかなっている。ただ、本当になぜ自分が必要なのかはわからないが。

    「俺の部屋ならば二人が眠るのに十分な広さがある。そこで構わないだろうか」
    「ああ、うん。構わないよ。僕の部屋よりはずっと快適そうだ」

    そして案内されたデアンの個室は、アイザックの予測通り彼の部屋よりも広く、寝心地の良さそうなベッドが置かれていた。調度品も良いものが支給されているようで、彼の性質からか物は少ないが、アイザックに割り当てられた部屋よりも快適に過ごせそうだった。
    ベッドが一つしかないという問題を除けば。

    「デアン、その……この部屋に他の寝具なんかは……」
    「ない。だがこのベッドの広さならば、二人で使うには十分だと判断した」

    デアンの言葉にアイザックが固まる。入眠のためにアイザックが必要だというのは部屋に連れ込むための方便で、実際はよからぬことのために連れてこられたのではないかという疑念が生まれた。

    「……俺はいないほうがいいか?」
    「待ってくれ相棒!!置いていかないでくれ!!」

    思わずアイザックの声がひっくり返るが、どうにか「デアンと二人きりになりたくない」といった類の直接的な言葉は出さずに済んだ。

    「出ていく必要はない。お前の存在が睡眠の障害になるとは考えられない。それに、お前が出ていこうとした時のエンジニアのストレス値の上昇は見逃せない。ここに留まるべきだ」
    「そういうことらしいから、一緒にいてくれないかい?」

    アイザックの表情が困惑したような安堵したような、曖昧な笑顔になる。デアンが不埒なことをしようとしたわけではないことは理解したが、純粋に睡眠のために呼ばれたことについての理由はわからないままだった。

    「ええと……僕は床で構わないから、毛布か何か貸してもらえるとありがたいな」
    「それは許可できない。固い床では疲労回復の効率が悪い。体の脆いお前ならなおさらだ。それにより近くで眠るためには、同じベッドで寝るべきだ」
    「そう、だね……はは……」

    そうしてアイザックはすべてを諦めることにした。合理的かつ時間だけは異様にある月のことだ。睡眠効率の悪い仮眠用の簡易寝具などないだろう。そしてアイザックの部屋からベッドを運んでくる労力も非合理的だ。
    二人がベッドの中に収まると、デアンの表情が怪訝そうなものになる。

    「先ほどからストレス値が上昇している。何か不都合があるのなら、また日を改めよう」

    意外な言葉にアイザックは驚いたが、中止する気はないようなので希望を持つのはやめることにした。

    「大丈夫。相棒以外の誰かと一緒に寝るのが久しぶりすぎて、少し緊張してるだけだよ。こういうのは慣れだから、日を改めても同じことになるんじゃないかな」

    アイザックの言葉は全くの嘘ではないが、真実からは程遠い。デアンと一緒に眠る恐怖心が、他人とベッドを共にする緊張をはるかに上回っている。
    ただでさえω3の言動はアイザックにとって恐ろしい物である上に、デアンはアドレナリンが余っていると言っていた。そして彼のアドレナリンの消化方法は何かを破壊することだ。その何かが自分である可能性は限りなく低いが、0ではない。そう思わせるほどに、時折ω3が見せる空の民には理解できない行動と衝動は強烈だった。

    「それより、どうして君の睡眠に僕が必要だと思ったのか、聞かせてもらってもいいかい?」
    「非合理極まりないが、俺にもよくわからない。ただお前が必要だと感じた。それだけだ」

    理由がわかれば恐怖心も薄まるかもしれないと発した質問への答えに、アイザックは軽い絶望感を覚えた。デアン本人ですら理論立てられないとなると、ますます衝動の餌食になるかもしれないという考えが頭から振りほどけなくなってしまう。

    「なんで、だろうね。バイタルの計測だったら僕より適した人や計器があるし、そもそも僕も寝ちゃったらそんなことできなくなるしね」

    話をそらそうとすればするほどドツボにはまっていくことにアイザックは泣きそうになる。枕元に置かれたレイベリィに助けを求めたくなるが、彼にもこの空気を和らげることは不可能だろう。

    「あー……そういえば、月ではなにか寝付きをよくするためのおまじないなんてものはあるのかな?」
    「おまじない。気休めか。そういった確実でないものはここでは利用しないが、フォッシルは使うのか?」
    「そうだね。寝る前にホットミルクを飲むとか、子供が相手なら親が子守歌を歌ったり、体に触れることで安心感を与えたり、かな」
    「歌はノイズにしかならないと判断するが、触れることには興味があるな。試してもよいだろうか」
    「うん、構わないよ。こうやって優しくなでたりするのが一般的かな」

    アイザックの手がゆるやかにデアンの肩や腕を撫でる。不快ではなさそうなことを確認してから、頭に移動した。
    体をトントンと叩く方法もあるが、万が一にも同じことをやりたがったデアンが力加減を間違えてはいけないので、あえて除外した。

    「初めての感覚だが、心地よいな」

    気に入ったらしいデアンがアイザックの頭に手を伸ばし、そのまま撫で始めた。痛くはないが大型犬を可愛がるようなわしわしとした力加減で、やはり軽く叩く方法は教えないで正解だったと実感する。

    「もう少し力を緩められるかな? 一定以上の刺激はかえって意識を覚醒させるよ」
    「む、善処しよう」

    少しずつだが、デアンの手が撫でる、触れるといった言葉に近い加減になっていく。動きのぎこちなさが、彼の人生に優しく触れるという行動の必要がなかったことをうかがわせた。
    今まで経験のなかったことをデアンにさせた。その事実がアイザックの心をわずかに動かしたような気がした。
    アイザックもまたデアンの頭や背中を撫でる作業を再開した。大人二人が寝かしつけるために互いを撫であうという奇妙な光景だが、デアンが必要だと感じたのならそうするしかないのだろう。
    そうして続けていくうちに、デアンの表情が穏やかになっていくのが目に見えてわかった。

    「セロトニンの分泌を確認した」
    「精神の安定に必要な物質だったね。君、アドレナリン以外にも合成回路を組み込んでたのかい?」
    「いや、アドレナリンの合成回路以外は実装していない。この行為による効果だろう」
    「君に効くとは意外だったよ。それならもう少し続けていよう」

    撫で続けていると少しずつデアンのまばたきがゆっくりになっていく。アドレナリンによる過剰な覚醒状態は確かに解消されているようだ。

    「フォッシルの習慣にも有用なものはあるようだ。他になにか眠る時のルーティンはあるか?」
    「そうだな……横向きになってなにかを抱くとよく眠れるって人もいるよ。抱き枕っていって、頭に敷くんじゃなくて抱きしめるために作った長い枕もあるんだ」
    「姿勢の変化による精神状態の変化か。興味があるな。次に眠るときまでに用意しておくが、今はお前で代用することにしよう」
    「えっ!?」

    アイザックは突然恐怖の対象から引き寄せられて抱きしめられ、叫び声を上げなかった自分を褒めた。
    彼の機嫌を損ねるのは恐ろしいが、彼を落ち着かせるための苦労を水の泡にするのも同じくらい恐ろしかった。

    「脈拍が上がったな。不快ならば謝罪する」
    「ああ、うん、急な接近で驚いただけだよ。これで君が早く眠れるなら、続けてくれたほうがありがたいな」
    「そうか」

    デアンはアイザックを抱きしめながら、いまだに脈の速いアイザックを落ち着けるために撫でていた。
    まるで大切なものを愛おしむような行動だとアイザックは感じる。ただ眠りにつくための提案からこんなことになるとは、この場にいる誰も予想していなかったのではないか。
    もちろん奇妙な感覚に陥っているのはアイザックとレイベリィだけで、デアンはこの行動が愛情表現に酷似していることなど知る由もない。

    「……」

    気づけば体を撫でるデアンの手は止まり、呼吸は穏やかで一定のリズムを保っていた。完全に眠ったらしい。
    それを確認してアイザックはようやく生きた心地を取り戻した。砕かれることはないと頭では解っていても、感情というものは自在にコントロールできない。それをそのままにしているのだから、自分は中途半端に空の民なのだと実感する。
    ω3の一人に抱きしめられたまま眠ることを余儀なくされているという異常事態からくる緊張感も、ある程度の安全が保障されてしまえば眠気には勝てないようだ。適度に温かい物に包み込まれていることもそれを加速させる。それがデアンであってもだ。

    ――そういえば、抱きしめられたときは痛くも苦しくもなかったな。撫でられたときに加減を覚えておいてもらってよかった。

    こうしてアイザックもゆっくりと眠りに落ちていく。

    デアンがアイザックの側にいることによるアドレナリンの中和を自覚するのは、まだ先のことだった。
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