12 アル空今日はこれといった記念日ではないはずだ。誕生日でもないし、想いを伝えるイベントがある日でもない。
しかしアルベドの研究室、その一角にあるデスクの上には、リボンの巻かれた箱や袋、束ねられた手紙が山積みになっていた。
「アルベド、これは……?」
ここ数ヶ月実験を進めていたアルベドが、ひと段落ついたからと空を誘い部屋に招くまではよかった。が、これまで見たこともないようなプレゼントと思しきものが山になっているのを見て、もしかして自分は何か特別な日を忘れているのでは? と不安が拭えない。
空の視線が向く方へ顔を動かしたアルベドは、無感動に「あれか」とこぼした。
「最近、絵画教室を開いてね。今回は女性が中心に集まったんだけど、何回か開催していたら、日に日に贈り物を貰うことが増えていって……」
受け取れない、と最初は断ったものの、すぐに捨てても構わないからと凄まれたり、近くにいたスクロースが一旦引き取って穏便におさめたりしているうち、結局廃棄するのは勿体ないからそのままにしている、と淡々と語った。
本人に自覚があるのかは疑問だが、アルベドは整った顔立ちをしている。佇まいもどこか品がある上、長いまつ毛が縁取る両目で見つめられたら大抵は息を呑んでしまうだろう。
絵画教室も、アルベドは真剣に取り組んでいたことは想像に難くない。褒めることだって忘れないし、修正が必要ならフォローもしたはずだ。
そんな姿に、何も思わずにいられる人の方が少ない気がする。
「……空?」
押し黙ってしまった空はうまく笑えないまま俯いて、アルベドの片手を取った。
「……ほんとは、喜ぶところだと思うんだけど。ごめんね。ちょっと、やきもちやいた」
「……やきもち」
繰り返すアルベドに頬を赤くして、空は目を合わせないまま頷く。
「君が人気者になるのは嬉しいって思うんだけど、同じくらい、なんか……こう、俺だってアルベドのこと、好きなのになって」
思って、まで、消え入りそうな声をした空に、アルベドは繋がれた手を引いて空を正面からきゅっと抱きしめる。
「……アルベド?」
「ふふ、君があまりに可愛いことを言うから」
「か、かわいくは」
「可愛い。とても。……ボクのことでそんなに心を乱される君が、とても可愛い」
そう何度も言わないでよと、恥ずかしいからと距離を取ろうとしても無駄だった。体格差はそんなにないはずだというのに、アルベドの抱擁は空には解けないでいる。
まるめこまれてるな。結局こうやって、憤ったところでその熱をいとも簡単に奪ってしまう。
「……ずるいなあ」
そして観念するしかないことも空は重々承知の上で、アルベドの胸に額を預けるのだった。