ぽろりと取れた京極堂の首を触ったら、ぽろりと落ちた
慌てふためいた私は血が溢れ出ていないかとか、生きているのかとか、とにかくよくわからない現実に頭を悩ませる
首からは、血は出ていない
触ると温かい、どう言う事なのだろう
「京極堂」
瞼が閉じられたままの京極堂に話しかける
これは幻なのだろうか
「なんだい関口君」
瞼がゆっくりと開いて、答えた
腹筋も肺もないのに、話している
これは夢か幻なのかもしれない
わからない
温かい生首を自分の目線に合わせると、動けないとは困ったものだ、と京極堂がそう告げる
「京極堂、なんで」
「君が触ったからだよ」
首は触るとぽろりと落ちるものさ
そう言って笑った京極堂は煙草を所望した
ポケットからくしゃりと潰れた煙草の箱を取り出して咥えさせる
火をつけてやると、いつもの京極堂のように煙を吐き出している
「手がないから灰は君がやってくれた前」
伸びた灰をとんとん、と灰皿に落としてからまた咥えさせてやる
「なんだって一体こんな」
「さっきも言っただろう、触ると取れる物なのさ」
「医学的にそんな事はありえないよ」
君が望んだから、取れる時もあるんだよ
そう言ってまた彼はにぃ、と笑った
なんだかいつもの京極堂じゃあないみたいで恐ろしい
けれども、首だけの彼は綺麗だ
吸い終わった煙草を揉み消してやると、目があった
「口付けを、してもいいかい」
「君は好き物だな」
うん、と言って耳の辺りをもって彼に口付ける
ぺろりと唇を舐めてから、あむあむと唇の感触を楽しむ
温かい
嗚呼、生きている
割り開いた唇と歯列をなぞりながら楽しむ
血の味はしない
私が吸っている煙草の匂いと、京極堂の匂いだけがする
肺の中が苦しくなるまでそうしていると、フッと眠気が襲ってきた
ああ、まだ楽しんでいたいのに
薄れていく意識の中で、私は彼の首が恋しく思った

ほら、起きた前
どうやら私は京極堂の居間でうたた寝をしていたようだ
京極堂の声に目を開けるとゆっくりと体を起こす
頬に畳の跡がついているような気がする
「随分と、夢を見ていたようだね」
「君、首は」
僕の首がどうかしたのかい？
右に首を傾げた京極堂の首は落ちない
ゆっくりと立ち上がりながら、彼に近付いて、首に触れる
取れない
「首は取れるものだろうか」
「刃物やノコギリで切り落としたら取れる」
そうか、と言って私はポケットからぐしゃぐしゃになった煙草を取り出して咥える
火をつけようとしたら、京極堂がマッチで火をつけてくれた
すう、と深く深く吸い込むとぼんやりとする
「君の首に、これを吸わせている夢を見た」
「そうかい、じゃあ吸わせてくれた前」
うん、と言って灰を落としてから彼の唇に咥えさせてやる
根本まで一気にじりじりと吸い切った彼は、自分でそれを揉み消した
「首だけじゃない君は」
やはり一番安心する
そう思って新しい煙草に火をつけた