銀色の鈴が鳴る日にはクリスマス、世界中が幸せに包まれる日が今年も訪れた。
今年は日曜日がクリスマスイヴなので、どこもかしこも混んでいる。
前日に購入しておいた骨付きのもも肉や、野菜達、そして今日買いに行くのはケーキだ。
俺と和さんで手分けして好きな自分の好きなお店で相手が好きそうなケーキを買う、という事を今年はやってみよう、という話になった。
店は絶対に混むだろう、お互いに健闘を祈りますと言い合うと家を出た。
和さんは電車に乗って買いに行くみたいで、俺は近くの商店街に買いに行く事にした。
商店街は早い時間なのに混んでいる、一緒に向かいながらお目当てのケーキ屋さんが見えて来た。
「俺はここで、和さん気をつけて来てくださいね!」
「うん、行ってくる」
ひら、と手を振って微笑んだ和さんが駅の方向に消えて行った。
俺は一人列に並んだ、前に3人、この人数なら大丈夫だろう。
早く買って、帰ったら料理に取り掛からねばならない、そう思いながら塚本は列に並び続けた。
やっとお目当てのケーキが買えた、お店を出ると列はもっと伸びていたので良かったな、と思う。
さて、家に帰る前にもう一度八百屋さんを覗いて行こう、ベビーリーフを二つと人参を買い足す、これで良いやと買い物を済ませると、家に帰った。
まずは一番手間のかかる鶏肉から処理していこう。
まずは骨付きのもも肉の付け根の下をぐるっと一周包丁を入れて皮と分かれるようにする。
次に塩を多めに裏表にかけ、手ですり込んでから馴染ませておく
軽く水分が浮きでたらキッチンペーパーで余分な水分を取っておく
次に多めに油をフライパンに入れると皮付きのままよく洗って水気を取ったニンニク二片と皮目を下にした鶏肉を入れて火をつける
皮の方だけカリッとなるくらい焼いたら、バットにニンニクと一緒に取り出しておく
次に鶏肉が入るくらいのジップロックを用意して、その中に鶏肉を一枚とニンニク一片、生のローズマリー二つとオリーブオイルを鶏肉が浸る位入れる。
それを二つ分用意したら炊飯器を開けてその中に入れて90度位のお湯を1リットル位入れて炊飯器で3時間程保温する。
これで一旦鳥は終わりだ。
油はまだ後で使うので別に取っておく
さて、次はニンジンを千切りにする作業が待っている、以前作った時に面倒くさかったので千切りにしてくれる機械にセットするとそのままニンジンを細く切ってくれる
まぁ手動だから手が疲れるのには変わりないのだけれど、全部包丁で切るよりは随分ましだと思う。
2本千切りにしたら、お酢を多めに小鉢に入れてそこにオリーブオイルを、次に砂糖を多めに入れて塩と胡椒を少しいれたマリネ液を作ってよく混ぜる
混ぜたマリネ液をポリ袋に入れたニンジンとレーズンに合わせて中身が出ないように口を縛るとシャカシャカ振って全体が馴染むようにする
そろそろいいかな、と馴染ませた袋を冷蔵庫の中に放り込んでおく
さて、次はコーンポタージュだ
スイートコーンの缶詰特大と、国産のコーン缶を二つ用意してミキサーの中に汁を切って入れる、前日に飴色になるまで炒めておいた玉ねぎも加えておく
そこにミキサーが回りやすくなるように牛乳を入れてミキサーの電源を入れる
全体的に細かくなったら、ザルで皮と液体を何回かに分けて取り除く作業を行う
これが手間になるけれど、やらないと美味しさが半減する気がするので手間をかけて丁寧に行う
綺麗なクリーム状になったコーンと玉ねぎに牛乳を加えて溶いてゆく
弱火にしてからコンソメ顆粒を入れて、塩胡椒を少々
沸騰する直前に火を止めたらバターと生クリームを混ぜて完成だ。生クリームは少しだけ取っておく
ベビーリーフを洗って大きめの器に入れて冷蔵庫に入れておく
さて、これでほとんどの料理は終わったようなものだ
台所を片付けていると、和さんが帰ってきた
「お帰りなさい」
「ただいま、すごく混んでいた…」
人混みに疲れたのだろう、少しやつれたような顔をした和さんにお茶淹れますよ、と言ってケーキを受け取って台所に戻った
温かい紅茶を用意すると、着替えて来た和さんに手渡してソファーで一緒に一息
「やっぱり混んでましたか?」
「店も混んでいたが、何より道に人が溢れていたからな」
困りものですねぇ、そう呟くとコツンと和さんの頭が肩に当たった
「お疲れ様です」
ちゅ、と額に口付けをするとふふ、と微笑まれた
こんな時間も悪くない所が幸せで溢れている
幸せだなぁと思いながら、しばらくそうして過ごしていた
紅茶を飲んでまったりとしていると、ぴーっ、ぴーっと言う炊飯器の音が鳴った
「できたのか?」
「まだ後は仕上げが待ってます」
それまでちょっとお昼寝しましょうか?
そう言って和さんの肩に腕を回すと、分かったと言って身を任せてくれた
カップを置くとそのまま寝室に移動してお互い抱きしめ合うようにして眠りについた
和さんの匂いがする、太郎の匂いがする、落ち着く匂いだ、そんな風に思いながら
それから何時間か経ち、気がつくと夜の6時を回っていた
「和さん、おはようございます」
「ん、寝過ぎてしまったか…?」
全然大丈夫です、俺今から最後の支度するので寝てたかったら寝ててください、そう言うと、俺も見たいと眠そうにした和さんが台所までついて来てくれた
さて、厚めにスライスしてアクを抜いたジャガイモを先ほどの油の中にローズマリーと一緒に放り込んで揚げ焼きにする
両面をよく焼いて狐色になったらバットに開けて油をきっておく
新しいフライパンに先程保温しておいた鶏肉を皮目を下にして焼いていく
カリッとなるくらい皮目を焼いたら完成だ
「和さん、ニンジンのラペを冷蔵庫の中に入ってる器の中に入れてくれませんか?」
「わかった」
ラペは袋に入っています、と言うとわかっているよと言われた
最後にソースを作る
プレーンヨーグルトにニンニクチューブ、マヨネーズと粒マスタードをよく混ぜた物を皿の上に付け合わせとして盛ったジャガイモの上と周りにバランスよく綺麗になるように盛り付けていく
最後にカリッと焼けた鶏肉を上に乗せて完成だ
何も言わなくても和さんがそれをテーブルの上に運んでくれた
温めておいたコーンポタージュも皿に注いでから、少し取っておいた生クリームをかけて完成だ
「できましたよー」
「おお、美味しそうだなぁ」
今年はコンフィっていう油漬け?で作ってみました、そう言ってチキンを和さんの前に置くとナイフとフォーク、そしてスプーンを並べていく
それと取り皿は和さんが用意してくれたみたいだ
「スパークリングの辛口買っておいたんです」
ポン、と良い音をさせてコルクを抜くと、シャンパングラスに注いでいく
「じゃあ」
「「いただきます」」
音をたてないように乾杯すると、一気に飲み干してしまった、辛口で甘めの料理が多いからちょうど良さそうだ
キャロットラペとベビーリーフを取り分ける
「うん、甘酸っぱくて美味いなぁ」
「シンプルに味付けしてみたんですよ」
こり、とした歯応えと甘酸っぱさの中にレーズンの甘味も加わって、歯応えも味もいい感じだ
「あ、ポタージュはまずは混ぜないで飲んでくださいね」
わかった、と言って口に運んだ和さんの頬が柔らかい物に変わった
「玉ねぎを入れたのか?甘味が凄い…!なめらかだし、手をかけてくれたんだなぁ」
「当たりです、嬉しいなぁ」
そう言って自分も口に運ぶととろりとしたコーンの後に玉ねぎの風味が少しして、我ながら上手くできたなと思う
「太郎の料理は、やっぱり美味い」
「和さんの料理も俺好きですよ」
ふふ、と笑い合うと空になったグラスにスパークリングワインを注いだ
さて、今日のメインのコンフィだ
上手くできているといいんだけど、と思いながらフォークを入れると、中から肉汁が溢れてくる
「凄い肉汁が」
「油でつけて焼くので、旨味が逃げない作り方なんですって」
ぱり、と皮と一緒に柔らかくなった肉にソースをつけて食べる
口の中に肉汁が溢れて止まらない、いい作り方を見つけたなぁと思った
ソースもヨーグルトをベースにしているので脂っこい肉をさっぱりさせてくれるのでいい感じだ
「うん、本当に美味い」
「ありがとうございます」
へへ、と笑うとワインで頬を赤くした和さんが頭を撫でてくれた
色々な事を話していると、気がついたら料理を全て食べ終えてしまった
台所に持っていくと、冷蔵庫からケーキを取り出して皿に盛り付ける
俺が買って来たのは、チョコレートのケーキだ。ドイツで製菓を習って来た店主の人が作るチョコレートムースの上にスポンジと濃厚なチョコレートフィリングがかかっている物だ。甘くてチョコレートが好きな和さんが好きそうだなと思って選んだ一品だ。
和さんが選んできてくれたのは、ムースだ
多分レアチーズの類かな?と思いながら皿に乗せて、テーブルに運んだ
「おお、チョコレートか」
「和さんのは、レアチーズですか?」
うん、甘酸っぱいのが好きだろう太郎は?赤いゼリーのような物に包まれた丸いそれはやはりそうらしい
「「いただきます」」
改めてそう言って、お互いが選んだケーキを口に運ぶ
フォークで真っ赤なそれを切ると、中からゼリーのようなものが見えた
口に運ぶとレアチーズとフランボワーズの香りが合わさってすぐに口の中で蕩けてしまった
何個でも食べられそうな旨味だ、自分のために選んでくれたと考えると嬉しくて仕方がない
「ん、これは酒にも合っていいな…濃厚だ」
舌の上でチョコレートが蕩ける、濃いチョコレートの味と甘味のあるチョコレートムースが合わさると、お互い混ざり合って舌が幸せになる
「和さん、チョコレート好きだからこれにしてみたんです」
「太郎は酸っぱいのが好きだろう?これがいいと思ったんだ」
そう言い合うと自然とお互い微笑みあってしまった
「よかったら」
「半分こするか」
へへ、と言って太郎がこぼさないように切ったケーキを口に運んでくれた
チョコレートで甘くなった舌がさっぱりとして、美味い
ほら、あーんしろと言って太郎の口に運んでやると、大人の味がしますねぇと言って太郎が微笑んだ
残っていたスパークリングワインを飲み終えた頃には、ケーキも無くなってしまった
「あー、美味しかった」
「太郎に作ってもらえて、幸せ者だな」
俺だって、俺のためにケーキ選んでくれたじゃないですか、幸せです
そう言ってふにゃりと太郎が笑った
珍しく酔っているようだ
「水、飲むか?」
「んー、それより和さんが食べたいです」
何だそりゃ、と言うと太郎が近づいて来たかと思うと、唇を奪われた
チョコレートと、フランボワーズの匂いが舌の上で混ざり合って新しい味がする
夢中になって舌を絡めていると、太郎がワイシャツのボタンを外し始めた
「太郎っ、ここじゃだめだ」
「どこならいいんですか」
いつものところで、な?と宥めるとわかりましたヨォと言ってちゅっちゅと頬や額に口付けを落としてくる太郎がいる
いつになく甘えているようで、ふは、と笑ってしまった
「なんで笑うんですか」
「いや、可愛いなぁと思ってな」
布団まで行くぞ、と腰に手を添えると、太郎も負けじと腰を掴んできた
クリスマス・イヴの夜はまだ早い