煙水晶第二校舎のドアを開けた。
喜多は鼻の頭をクシャッとさせた。首を左右に振る。跳ねた髪の毛が新渡米のほほをぴしんと打った。鉄のドアに至るまでの階段で肩を抱いて歩いていたのだ。
「猫みたい」
喜多の先輩は片目を閉じた。おどる髪はよけない。
「だってータバコの臭いして、強くて」
「たしかに残ってるねん屋上なのに」
「さっきまでいたんだ」
「喜多、探偵みたいなこと」
新渡米は温かい初夏のコンクリートに座った。両足を投げ出して弁当箱を乗せる。
「うーん、亜久津先輩かな」
「違うね」
「えっ」
「タバコがちがう」
喜多が下を向くと新渡米もまた上向いていて顔が近かった。先輩の前髪が風に流されて半分おでこが見えていた。でも風が手をやすめればあっという間に元通りだ。
「い、…ろんなの吸うんじゃないですか」
喜多は言う。
「メンソールだけはないからさ」
新渡米は声が小さい。もう興味を失っている証拠だ。
「おまえもいい鼻してんだからわかれば」
「あんまりくわしくなりたくないですよ」
「そだろね。あぁーーーもう風でわかんないよ。気にするなよ」
喜多は靴箱のシューズの右足と左足みたいにくっついて座った。
「食べましょうか」