贈り物私は手の中のかわいらしい髪飾りを見つめていた。
この前、大包平が髪を結ってくれた時にくれて、似合うと言ってくれた髪飾りだ。
その時のことを思い出して嬉しくてにやにやしてしまう。が、髪飾りを見つめていた理由を思い出してため息をついた。
大包平に、お返しに贈り物をしたい。なにか、彼に似合うような素敵なものを。
ただ、大包平にどんなものをあげればいいのか全然わからなかった。
大包平は何もいらないと言っていたけど、もらった気持ちを返したかったのだ。
考えても思いつかないものは仕方ない。というより、無理やりひねり出したようなものはあげたくない。
「まあ、そのうちいい出会いがあるかもしれないし」
焦らなくてもいいか、と思い、手の中の髪飾りを大事にしまった。
それから数日後。
そもそも大包平に「茶を淹れてくれ」と言われていたわけで、お茶を用意せねばと茶葉をたくさん取り扱っているお店に来た。様々な種類のお茶や茶器が売っているお気に入りのお店だ。
店頭に並ぶ茶葉を見ると、初夏ということで、アイスティー向けの茶葉が多い。
大包平はどんなお茶が好きなんだろう。そういえば知らないことに気づく。
彼は、特に好き嫌いがないようで、食事の時なども出されたものはなんでも食べる。逆に、これが好きだからこれが食べたい、というような希望を言っているのを見たことがなかった。
まだ大包平のこと、あまり知らないんだなあ……と少し寂しい気持ちになる。同時に、まだ知らないことがあることは嬉しいかもしれないとも思う。まだ大包平のことが知りたかった。
お茶の好みはわからないけど、コーヒーが好きみたいでよく飲んでいるのは知っている。もしかすると、甘いものよりすっきりした飲み口のお茶の方が好きかもしれないと思いついた。
アイスでもホットでも飲める、ミントティーにしよう。ミントといっても、グリーンティーがベースになっているものなので、きっと飲みやすいはずだ。うん、これにしよう。
そう決めてレジに向かう途中、カップの棚が目に止まった。
一番手前にあった、透明なガラスのマグカップが夏らしくて素敵だ。まるい形で、持ち手は華奢だけど丈夫そう。そして小さな赤い花がワンポイントにあしらわれている。
思わず、このカップでお茶を飲む大包平を想像する。きっとすごく似合う。思わず手にとってまじまじと眺める。
大包平にあげるもの、これがいいかもしれない。でも、漠然と考えていた大包平に似合う素敵なものって、こんなに身近なものなのだろうか……。そんな考えも頭をよぎったが、これ以上にぴったりであげたいものは、他にないように思えた。
これも一緒にあげよう。カップを手にとったまま、私はレジに向かった。
大包平が非番の日を待って、お茶を振る舞うと大包平を誘った。
「ありがとう、わざわざすまないな」
「ううん、お礼だから」
少しどきどきしながら、この前買ったカップに氷を入れ、淹れてあったお茶を注ぐ。
ミントのすっきりした香りが良い。
「いい香り……」
「ミントか?」
「うん。暑いから、こういうのがおいしいかなと思って」
大包平にカップを渡す。大包平がカップに口をつける。思った通り、大包平が持ったカップはより素敵に見えた。
「あの……、大包平のお茶の好み聞いてなくて、知らなくて……。もしあまり好きじゃなかったらごめんね」
大包平はじっとカップを見つめて、私を見た。
「今、好きになった。おいしい」
柔らかく微笑まれどきっとする。
「よ、よかった……」
「それに……このカップ初めて見たな。新しく買ったのか?夏らしくていいな」
ガラスのマグカップは使ったことがなかったな、と続けてつぶやいた。
「あのね、それ、大包平にあげる」
「え?」
「お店で見つけて、大包平に似合いそうだなって思って……。何もいらないって言ってたけど、でも、私も大包平になにかあげたくて……」
何もいらないって言っていたのに、おしつけがましかったかな……と急に不安になって小さい声でそう言った。
大包平は光に透かすようにカップを持ち上げて眺めた。
「これも、今すごく気に入った。ありがとう」
嬉しそうにカップを見つめたまま大包平が顔をほころばせた。
その顔を見て、大包平のことを喜ばせたかったはずなのに、私の方が嬉しくなってしまったんじゃないかな……と思った。
「よかったあ。私が嬉しくなっちゃった、へへ……」
「俺と同じだな」
「なにが?」
「俺もお前に髪飾りをあげたとき、同じことを思った」
「そ、そうなんだ」
そうだったのか。急に照れて顔が熱くなった。
「……贈り物って、嬉しいんだね、どっちも」
「ああ、そうだな」
大包平は嬉しそうな顔のまま、またカップに口をつけた。