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    wtiaiiaio

    @wtiaiiaio
    ワールドトリガーの作品置場です。完成したものはpixivにも掲載します。
    ワの幽白パロは7月中に完成させたいです。

    閲覧、絵文字等々ありがとうございます。とても励みになります。
    忙しかったり忙しくなかったりするので浮上したりしなかったりしますが元気です。花粉にめげず頑張りましょう~よろしくお願いします~。

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    購買の話その4。
    (本文サンプル)単話で読めてボケも多めで読みやすいので、全体の雰囲気をつかみたいという方はこちらの話をまずご覧ください。気に入ったら1話~よろしくお願いします!

    おつかいを頼みたい水上vs絶対に断りたい隠岐、先輩思いの海、容赦なくツッコむ影浦。次回は王子に収穫された水上が当真とパン屋に行きます。※6月という設定上、隠岐の年齢が16歳です。

    よろしくお願いします~。

    ##小説
    #水上、隠岐、カゲ

    六月のパン食い競争 その4先輩の電話にはもう出んと決めた3‐Cの中心で、愛をさけぶ先輩の電話にはもう出んと決めた 水上は電話帳からターゲットの名前を早々に探し出すと、スマートフォンの通話ボタンを押した。

    『……隠岐です。ごめんなさい、いま電話に出られません。御用のある方は、ピーっと発信音が鳴った後に』
    「そういう茶番はええから」
    『あれれ、バレてもうた』
    「まず着信7回で留守電につながるのがおかしい。普通6回とか8回とか、キリのいい数字に設定するやろ」
    『たしかに』

     のっけからボケてきた後輩に、手慣れた様子でしゃきしゃきとツッコんでいく。
     留守電につながるタイミングは人によってまちまちで、気づいたら電話代が発生していることもざらだ。通話する際、自然とコール音を数えるのがくせになった。無料通話アプリの使用がメインになったいまも、このくせは水上の中に残っているのだった。

    「うっすら里見と佐伯の声も聞こえとるしな」
    『あらら』

     たしかに視線の先には草壁隊のガンナーとオールラウンダーがいて、「二宮さんってホントにすごいんだよ!」だの「かっけえ……!」だの、大いに盛り上がっている。ここから優に50mは離れているのだが、よく通る声がせまい廊下に反響して話が丸聞こえだ。隠岐はつきあたりの戸をあけ外に出ると、小体育館へと続く屋根付き通路をペタペタと歩いた。

    「そんで最後やけど……このアプリに留守電機能はついとらん」
    『ほ、ほんまや……!』
    「"これらの証拠が全てを物語ってるぜ……隠岐さん、アンタがうそをついているってな!"」
    『み、水田一少年~!』

     これは某探偵ドラマを模した即興劇であって、水上の口調は主人公のそれをマネたものだ。先日、隊のみんなで全シリーズをイッキ見した影響が色濃くのこっていた。

    『クッ、うわさ通りの名推理やな。おれの負けです、降参や……』
    「ふん、詰めがあまいヤツ……青臭くてかなわんわ」
    『事件解決、一見落着。真実は~……』
    「『いつも一つ!!』」

     しれっと小学生探偵もまざったが、ツッコむ者は誰もいない。

    『いや~、綺麗にせりふ決まりましたねえ』
    「ホンマに」
    『大団円ということで、ほなさいなら……』
    「待たんかい」

     流れるように会話を切り上げようとした隠岐だが、そうは問屋が卸さない。

    「隠岐くんに、頼みがあるんやけど」
    『すみません、その日予定入ってますわ。残念やなあ』
    「まだ何も言うとらんやろ」
    『え~、だって……』

     先輩の電話とどうでもいい頼み事って、ワンセットですやん。そんな文句がノドまで出かかる。そもそも2人は同じチームの隊員同士、毎日のように顔を合わせる仲だ。今日に関しては防衛任務で放課後会うことも確定している。用事があるならその時に言えばいい。いまこの時間に連絡をよこす理由なんて、あるはずがないのだ。

     ナゾの「隠岐くん」呼びも気味のわるさに拍車をかけていた。これはもう、間違いなく厄介事にまきこまれる予感がする。絶対逃げなあかんでと、本能が告げている。
     だから最初は呼びだしを無視した。隠岐孝二16歳、渾身こんしんの抵抗である。しぶとく4回目がかかってきたので悩んだすえ電話をとった。とったはいいが絶対に本題に入ってほしくなかったので、初っ端からガラにもなくボケ倒し、適当な態度に終始した。

     用件を聞くとやっぱり面倒だった。購買に行くこと自体は大したことではない。引き受けてもどうでもいいのだけれど、それは絶対にしなくてはならないことなのか、というのが正直な感想だ。極論、昼飯なんてなんでもいい。大切なのは友人とおしゃべりをしたり、ぼんやりと空をながめたり、堂々と居眠りをしたりすることであって──平穏にすごすのが正しい昼休みのあり方だと、隠岐は思う。

     第一、水上は食にこだわる男ではない。後輩づかいが荒いタイプでもない。戦闘中は仕切りに徹するが、日頃はむやみに先輩ぶったりしない方である。何より、彼自身が"年長を盾にして偉ぶるヤカラ"を毛嫌いしているはずだった。それがどうして、後輩にパンのおつかいを頼むことになるのだろう。

    『海に頼めばええですやん。先輩命令とか、そういうの気にせんタイプでしょ海は』
    「頼んだ上で言ってんねん」

     そう、水上はとっくに南沢にパンの購入を頼んでいた。なんなら『お先っす事件』の翌日には頼んでいた。元より購買の常連だった彼は、「任せてくださいっ」と元気に快諾してくれた。
     ところがである。「頼まれたやつなかったんで!」とお出しされたのは、クリームたっぷりデザート系菓子パンの数々だった。いわく、「なんや最近疲れがたまってて」と電話口でこぼした先輩を思いやってのチョイスだという。
     なんという心づかい、なんという優しさか。願わくば、その気遣いがもう少しだけ"昼飯にふさわしい物を選ぶ"方向に寄ってくれたなら──。頼んだ手前礼だけ伝えたが、その日の午後は胃がもたれて仕方なかった。

     翌日。代案をしめさなかった俺がわるいと反省し、「春巻きパンなかったら、からい系のパンうてきてや」とクギを刺す。
     例によって春巻きパンは売りきれで、代わりにお出しされた『海厳選☆すぺっしゃるセレクト』の内訳は、ななんと驚きのカツサンド×3。「おすすめって書いてあったんで!」と得意げな後輩に、水上はやっぱり何も言うことができない。
     とはいえ食事を粗末にするのは親の教えに反するし、何よりお好み焼き屋の看板息子がだまってはいないだろう。激辛パンを買ってこなかっただけマシと思うことにし、必死で完食する。結局、2日連続でちがう種類の胃もたれを味わうことになったのであった。

     ある意味"おいしい"エピソードの数々を披露され、

    「おれ、会う人会う人に『水上先輩にパシられてます~』って言うてまうかも」

     と、最後の悪あがきをしてみせた。基本物わかりのいい隠岐がねばるのは断りと同義であったが、『ええからええから。頼むで隠岐』と容赦ようしゃなく通話は切られてしまう。

    「……これ絶対に面倒なやつやん」

     ハアとついたため息は、しとしとと降りしきる雨にとけて消えた。


    3‐Cの中心で、愛をさけぶ 楽しい楽しい昼休み。最近の影浦とは縁遠いフレーズである。3年C組の教室で、影浦と水上はたがいの机を挟み、向かい合わせに座っていた。

     影浦は不機嫌だった。まず、目の前の男が死んだ顔でメシを食うのが気に入らない。そのくせ「そのパンうまくねえのか」と問えば、「いや、うまいで。まずこの卵のゆで加減がちょうどええ……」を皮切りに、それはそれは丁寧な食レポが返ってくる。旬の食材・店主のこだわり等々、初耳情報とともにお届けされるそれは、時に情熱的であり時に理論的でもある。能面からくり出される感想の数々に、影浦は日々食欲をかきたてられるばかり。今朝などは久々に親の弁当をことわったぐらいだ。

     問題はこの後だ。たまごパンを食べ終えた水上は一言、

    「はあ……春巻きパンが食いたい」
    「食やいーだろ」

     違うパンを食しては春巻きパンへの愛をさけぶ。毎日がこの有様なのだ。

    「チッ、毎日毎日おんなじことばっか言いやがって……いいかげん聞き飽きたっつーの。仕方ねえだろーが。購買は早いもんがちなんだ、諦めろ」
    「ちゃうねんカゲ、今日は"あえて"買わんかったんや……」
    「ア"?」
     
     さかのぼること10分前。水上は購買でまたしても漆間に出くわした。彼は水上の顔を見るなり「あっ春巻きパンすか? ドーゾドーゾ」とすすめてきたのだ。

    「そのまま買っちまえばよかったじゃねーか」
    「いや、今日ばかりは買うわけにいかんかった。あいつに譲られるとかなんかこう……負けた気がするやん?」
    「はっ倒すぞ」
     
     影浦のにらみもおかまいなしに、水上は手元にある茶色い紙袋を開いてみせた。中には先ほどまで彼が食べていたのと同じパンが、3つ転がっている。春巻きパンが食べられない仕返しに、漆間の好物を目の前で買いしめてやったのだという。影浦は絶句した。

    (自分でチャンスをぶっ壊したあげく、堂々と嫌がらせしただあ? マジかよ、正気じゃねえ……)

     別に漆間に同情したわけではない。級友のあまりのセコさに言葉を失ったのだ。コイツは本当にあの生駒隊の司令塔なのか。春巻きパンに固執するあまり、どこかおかしくなっているのではないか。影浦の心は、うっとおしさと心配との狭間でゆれにゆれていた。
     ほどなくしてうっとおしさに軍配が上がる。目の前の相手を八つ裂きにしたい衝動にかられたが、あいにく今は生身だ。トリオン体とおなじ感覚で手を出すわけにはいかない。普段だったらとっくにブン殴っていてもおかしくない状況だが、影浦には強く出れない事情があった。まさに今日、水上に内緒で春巻きパンを食べていたのだ。

     たしかにあれはうまかった。座布団に似た形のパンで、全体が破裂寸前のモチのようにふくらんでいるのが特徴的だ。封を開けると揚げもの特有の香ばしさが鼻をくすぐる。一口噛めばパリっと粋な音がして、サクサクの皮の中からしっとりとしたパンが顔をのぞかせる。さらに食べ進めると具に行き当たる。たけのこ、人参等の具材に、さっぱりとしたタレが絡んでうまい。ひき肉が入っていてコクもある。ボリュームがあり食べごたえも抜群だ。水上が執着するのも分からんではない、というのが素直な感想だ。

     なぜ水上を出し抜いたのか。理由は簡単だ。すぐそばで毎日のように呪文をとなえられ、興味がわいた。
     今日は水上が委員会仕事なのをいいことに、村上を購買に向かわせた。「本当に大丈夫か、水上に悪くないか」としきりに気にする彼に、半分パンをわけ共犯に仕立てあげた。教室に戻ってもなお村上が落ち着かない様子だったため、北添のいるB組に避難させた。
     そんなわけで、若干の負い目と2人分の罪を背負って、影浦はいまここにいる。思うところは多少──否、かなりあるものの、殴りたい衝動をおさえつつ、なんとか愚痴ぐち聞きをしているのであった。

     水上は本日3つ目のたまごパンをほおばりボヤいた。

    「そもそも、なんでアイツが俺より早くパン買いに行けんねん」

     本校のクラス配置は、1年生が3階、2年生が2階、3年生が1階という具合だ。基本的には3階にいるはずの漆間が、1階の自分より先に購買につくのはおかしい。もっと言うなら、昼休みの用事をはさんでなお、明らかに行き合う回数が多いのが謎。それが水上の主張だった。

    「知るか。行動パターンが一緒なんだろ」
    「うへぇ……やめてくれや、アイツとおんなじとか」

     水上はげんなりとした顔でブンブン手を振った。
     もう一つくらい嫌味を言っても良かったが、後始末の面倒くささを考え影浦は口をつぐむ。パンの件を抜きにしても、この男には日ごろから世話になっているという自覚がある。穂刈や村上ともども、勉強面や性格面でフォローしてくれているのだ。
     だから多少イラついたとしても、力まかせに押さえつけることはしない。いまのところ対話する姿勢をとってはいるものの、己がキレちらかす未来もそう遠くない気がしている。天を仰ぎつつ、穂刈と村上の帰還をいまかいまかと待ちわびるのであった。
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