800字小説練習(SB69) 喫茶アンゼリカのカウンター席にて、ほかほかとクロウの前で湯気立つホットミルク。その隣の席ではシアンが温度差としては正反対であるストロベリー味のクッキー&クリームのアイスを頬張っている。
シアンの目は機嫌良く細められ、気分だけでなくまつ毛まで上を向いているように見えた。
美味そうに食う奴だと、頬杖を突きながら微笑ましく見つめる。
「あれ、クロウちゃん。もしかして一口欲しいにゃ?」
彼女を見ていた事は別にこそこそ隠す必要もないので、別にバレても問題はない。
可愛らしいシアンを眺めていただけなのだが、シアンからすればアイスを物欲しそうに見つめているように映ったらしい。
「じゃ、はいあーん」
「んな小っ恥ずかしい事出来るかよ!」
ぶっきらぼうにそう返し、口に接近したスプーンから顔を背ける。
「んにゃ? うーん、それじゃあ……」
ぱくんと、クロウにあーんしていたアイスを口に入れるシアン。
突然両頬を彼女の手に挟まれて捕まる。なんだ? と思っていると、彼女の顔が急接近して来て――唇を塞がれた。
突然の事で息を呑もうと口を開けた隙に、シアンが舌でアイスを押し込んだ。
突然の口付け。突然の甘さ。
さっきまでホットミルクを口にしていたからか、アイスはすぐにとろけて舌の上で温くなる。とろとろのイチゴ味の甘さと柔らかい唇の感触でどうにかなってしまいそう。
甘酸っぱい味だけを残して、シアンの顔が離れて行った。
「て、てててててめえ! なにしやがる!! こんなの反則黙示録だぜ!」
冷静になったらどうしようもない羞恥が込み上げ、言葉が火を噴いた。
「あ、いや、ピンクのアイス食べるの恥ずかしいのかなって思ったにゃ」
「口移しの方が六十九万倍恥ずかしいわ!!」
「そうなの!? ……怒っちゃったにゃ?」
きゅるんと潤んだ不安を表した上目遣い。それに胸を射抜かれ『うっ』と体が固まるのと同時に『超可愛い』という正直な好意が押し寄せる。
「べ、別に怒っちゃいねえ……。驚きはしたけどよ」
「……美味しかったにゃ?」
「お、美味しかったです」
――君の唇は。