さそりの毒は後で効くらしい グルメフォーチュンで占いの店に目もくれず、ぽつんとそびえる陸の孤島に建つ家へ一直線に訪ねる者は数少ない。
食材を持ち込み家主に調理させ、食うだけ食ったら帰る(帰される)。片手の指で数え切れるうちのひとり、トリコのいつもである。リーガル島から帰還して以降、それまで何年もぱったり途絶えていたのが嘘のように、交流が続いている。
いつものようにハント終わりのその足で立ち寄ったトリコを、ココはいつものようにややウンザリした顔で迎え入れた。何時来て何を持ってくるかも占いで分かっているために、食材を調理する準備がすでにできているキッチンもいつも通り。
持ち込んだ荷物は二つ。特別に大柄なはずのトリコが担いでも相対的に小さくなることのない大袋と、小脇に抱えられるほどの袋。トリコは「メシ作ってくれ」と大きい方をココに突きつけると、小さい袋を机に、自分の尻は椅子にどっかり置いた。
ギシリ、椅子があげた微かな悲鳴にココの眉がひそまる。
「そっちの袋はいいのか?」
ココは机に置かれた荷物を指差す。「そのくらいなら増えたって変わらないし、メシのことで遠慮するようなタマじゃないだろ」
「ああ、これは小松にやる用なんだ」
トリコは収獲物を小松に調理してもらうつもりでいたのだが、連絡したところ「今日は忙しいので無理です」と即答されてしまったため、予定変更してグルメフォーチュンに来たのだ。ボクも食べてみたかったですと残念がっていた小松に届ける用に取り分けたのが、机に置いた袋の正体である。
「……へぇ、そう」
ココの体から一瞬だけかおるストレス臭。小松の名を口にするとトリコの鼻を掠める、これもまたいつも通りのことだった。
大男四人は掛けられる机を埋め尽くしていた料理は30分と経たずに一人の胃袋へ収まる。トリコは静かに両手を合わせた。「ごちそうさまでした」
「やっぱココのメシはウマいな!」
「それはよかった。四天王では一番……いや、地球上でもっとも小松くんの料理を食べているお前にそう言ってもらえて」
皿がすべて下げられると、ソーサーとティーカップが置かれる。
紅い水面からのぼる湯気はほんのり甘く、爽やかな香りがする。ココが自分で作った料理にほとんど手を付けず食事が終わるのと同時に出せるよう紅茶を淹れていたおかげで、茶葉を味わうのに今がもっとも適した状態だ。
そのような紅茶を前に、トリコは首を傾げた。
食後に紅茶が出されるのは小松が一緒に来ているときだけだ。来訪者がトリコだけのときには、今まで一度もこんなものを用意された記憶がなかったのだ。
「珍しいな。小松が来てないのに紅茶が出るなんて」
「ちょっと、話したいことがあってね。なにか食うもの飲むもの用意しなきゃ、お前たちはすぐ帰るから」
まるで不本意だと言外にココは告げる。紅茶をひとくち啜り、小さく音をたててカップを置くと、机に両肘ついて指を組んだ。
「前々から思っていたが、トリコ。おまえ小松くんに関わりすぎじゃないか」
どーでもいいけどレストランの仕事休みすぎじゃないの?
今は懐かしいジュエルミート実食後、去り際にココはそう言っていた。
小松は経営者ではない。雇われている身であり、長期の休暇は小松の肩身を狭くしかねず、ホテルグルメにしてみたら休まれると困る立場である。非常に。そして小松という人間はトリコにとってはありがたいことに、レストランにとっては困ったことに、ハントの誘いがあれば多忙極まるスケジュールに無理くりにでも予定をねじ込んでみせる。近場であれば半休をとって夜中に出発、ハントから帰宅して身支度だけ整え厨房に立つなんて力技をやってのけることもある。
小松が誘いを断る確率は限りなく低いのだ。
そうすることで損害の方がずっと大きくなるためクビにされることはまずないだろう。しかし、小松の身がもたない。ココが心配しているのは恐らくそこだろう。
「そんな心配しなくたって、いくらなんでも毎回毎回ハント誘ってるわけじゃねぇぞ」
どこどこ行くんだけどお前も来るか。染み付いた口癖のように発言する回数は確かに多いが、希少性の高い食材や、もっとも美味になるシーズンを迎えたものなど、小松が特に興味をもちそうなものに絞っているつもりである。
ココの指は組まれたままだ。
「それだけじゃないだろう。小松くんに連絡するの」
紅茶の香りにまぎれるストレス臭が微増した。
「ハント行く前だけじゃないだろ。食材持ってくから料理作れだとか、珍しいの見つけたから家来いだとか、店に行くだとか……お前が占拠した分だけ小松くんに連絡したいのにできなくなる人間がどれだけいるかなんて、想像したことないんだろうな」
「んなこと言われたって、仕方ねぇだろ」
コンビなのだから連絡頻度はどうしたって増えるのだ。
「コンビだから、仕方ないって?」
トリコの言わんとすることを予想していたように、言葉尻にココの声が被さる。
「美食屋と料理人のパートナー、言ってしまえば仕事上の付き合いなわけだけど……」
絡めていた指が解かれ、静かにティーカップが持ち上がると、ココの目に紅茶の色味が加わる。
「いくらなんでも関わりすぎなんだよ」
ココは紅茶を一口啜って、ソーサーに戻した。
「小松くんが結婚して子供が産まれても同じことを言って、連れ回すつもりなのか」
言葉を交わすにつれて、ココから発されるストレス臭は紅茶の香りで誤魔化せないものになっていく。
「小松が結婚って、占いに出たのかよ」
顰めそうになる顔を平静に保ちながらトリコが訊ねる。
対するココは微笑を浮かべる。
ストレス臭が少しだけ弱まった。
「いいや? 今のところ絶望的だね。運命的な出会いも無い。誰かが見繕って見合いでもさせない限り、包丁と結婚することになるよ」
「死ぬときは危険区で包丁握って、ってか? ハハ……小松らしい最期だ。オレがついている限りそんなことさせないけどな」
机の上に置いた両腕がようやく動く気になってくれたらしい。トリコは肘をついたまま、肩をすくめる要領で左手を天井にむけて開く。
空気が緩んだのもつかの間、ふたたび香ったストレス臭にティーカップの持ち手を掴んだ右手が硬直した。
「小松くんの最期をひとりで看取ろうなんて許さないぞ。ボクらの中では小松くんといちばん最初に出会えたトリコ、お前にだけは」
頬杖をついたココの顔がやや右へ傾く。脱力した姿勢からは長年の付き合いからくる親しみを滲ませているようだったが、開ききった瞼の中央で縮小した瞳はトリコに緊迫感を与えた。
10秒、トリコの体感ではもっと長い無言のにらみ合いを終わらせたのはココだった。すっ、と瞼も瞳も伏せ、ティーカップの持ち手に人さし指を通した。
「彼は野生の世界ではなく、人間界の暖かい民家で人に囲まれて死ぬべきだ。自分の子供に見守られて、ね」
凍りついたトリコとは対照的に、ココは滑らかな動作でティーカップを唇に運ぶ。
「小松くんの子供か……きっと可愛いだろうな。こんなボクでも許されるなら、一度だけでいいから抱っこさせてもらいたいね。そしたらボクはきっと一日中離さないだろう」
紅茶をすすった唇が緩やかに孤をえがく。カップを離すとココは姿勢を正して瞑目した。長く、密度のある上下のまつ毛を重ねあわせ、腕はゆるく指を組むようにして机上に。フゥとひとつ息を吐く。
どこか悦に入ったようなそれが、紅茶の芳醇の余韻に浸ってのものか、なにか別のことに感じ入ってのものか、トリコにはわからない。
考えあぐねるトリコをよそに琥珀の瞳が現れる。先程まで確かにあった喜の色は、最初から存在しなかったように抜け落ちた。
「……どこの馬の骨とも知れない女を小松くんが抱いてるところなんて、想像しただけで反吐が出そうになるがな」
低い声。これでもかと嫌悪感を露わにする。
このまま話を続けさせるのは不味い。具体的に何が起こるとは不明だが、どうしようもなくトリコの胸は波立った。
「そんときゃ我慢しろよココ。お前のゲロはむこう何百年と草も生えない土地にするような劇物になっちまうぜ」
トリコは引きつった笑顔で、おどけた口調になるよう意識しておおげさな抑揚をつけた。
ココは口元に手をやり、フフ、と控えめに笑った。
「ああそうだな。気をつけないと……うっかり、小松くんが抱いた女に飛ぶかもしれない」
ティーカップの持ち手に触ったきり石になっていた指先を、トリコはほんの少しの物音もたてないよう慎重に離した。
一滴も減っていないトリコのカップと向かい合わせに置かれた、ココのカップに新しく紅茶が注がれ香り高い湯気がたちのぼる。
「このままじゃあ小松くんは彼女すらできない。子供なんて夢のまた夢……そうだ」
いかにも名案を思いついたとばかりに両手を合わせる。「今度小松くんがうちに来るまでの間にペアを一口分だけ取りに行ってこよう。それがいい」
「……どうするつもりだ」
小松に飲ませるとでも言おうものなら──トリコは反射的に拳を握りしめた。
ココは一切の防御姿勢をとらず艶めかしく笑む。
「ボクが飲むさ」
全身が粟立った。
攻撃の予備動作から防御に転じる際に紅茶を服にぶちまける。
トリコが椅子を倒して飛び退くと、ココは座ったまま顔を上げた。「あらら、品がないね」
おもむろに立ったが、ココはトリコに背を向ける。
「拭くものを持ってくるからそこを動くなよ」
「……本気か、ココ」
「お前が濡れたままで平気でも、机や床は拭かなきゃいけないだろ?」
「とぼけるな」
上がり調子な語尾にトリコが被せて言うと、台拭きタオルを2枚もってきたココは「ん……ああ、ペアのことね」ふっ、と鼻で笑った。
「しないよ、そんなこと。するわけないだろう」
「それは、本当か」
「もちろんだとも。手を置いて誓うための聖書なんかウチには無いから証明できないけど……うん、じゃあ聞かせてもらうが、トリコ。お前、リンちゃんを泣かせたいか?」
ココはトリコの胸にタオルを1枚押し付ける。
「なんでリンが出てくるんだ」
「いいから答えなよ」
トリコが身を固くして睨みつけると、ココもまた体勢を変えずに覗き返す。タオルを受け取るなり質問に答えるなりしない限り続くだろう。
トリコは押し付けられたものを掴んで首を横に振る。「泣かせたいとは思わない」
満足のいくアクションだったらしい。ココは溢れた紅茶を洗い場に片すと、新しいカップとソーサーを持ってきた。
注がれた紅茶はまだほのかに湯気が立つ。
「紅茶が冷めるよ。さあどうぞ?」
向かい側の椅子に戻ってココは催促しながら、自らも紅茶を口にした。
「お……おう」
服の濡れた部分にタオルを押しあて、トリコも立て直した椅子に腰掛けたが、カップの持ち手を掴んだところで腕は氷像になったかのように動かなくなってしまう。
ココから発されるストレス臭が見えないサソリとなって腕を這い、浮き出た血管に尖った毒針を突きつけている──不吉なイメージがトリコの頭に焼きついて消えないのだ。
ほどよく暖かい室温で手足の指先がかじかむ。それなのに発汗と心拍が激しい。
芳香ただよわす紅茶から目が離せないでいると、トリコの向かい側で呆れたため息が吐かれた。「それには毒など入れないよ」
「ボクの毒は、すなわちボクの体液だぞ。それを料理に混入だなんて……小松くんを友人にもちながら、そんな穢らわしいことするわけないだろ」
疑ったわけじゃない。トリコが勢いよく顔を上げると同時に、ココはカップを呷った。嚥下していることを見せつけるように喉仏が動く。
「……フゥ……ああ、ボクが飲んだってなんの証明にもならないんだったな。もったいないことした……これ結構高いんだぞトリコ」
しかめっ面になじるような含みをもたせるココ。ついさっきまで知らないものと対面している気になっていたトリコは、肩から力が落ちるのをはっきりと感じた。
「お前が毒盛るなんて考えたことねーよ」
最も香り立つ温度を過ぎた、ぬるい芳醇が乾ききった喉にはちょうど良い。豪快に呷ると、「少しは味わえよ、高いんだから」と非難の声を聞いた。
「わりわり、喉乾いてたからよ」
「ジョッキいっぱいに水でも出すべきだったと後悔してるよ。ま、うちにはジョッキなんてもの置いてないけど」
「次に来るまでに買っといたらいいんじゃね? ゼブラとかも使うだろうし」
「ここはボクんちだぞ。溜まり場に使うな」
ココの口元にはうっすら笑みが浮かぶ。人嫌いなくせ、人との繋がりを完全に断ち切る気はなく、四天王で集まればなんだかんだと言いつつ楽しそうなのが、トリコから見たココだ。
「んじゃ、小松のレストランにでも厄介に」
だからと気が緩んで、口癖めいて小松の名を出したのは悪手だった。一度は消えたストレス臭が再びトリコの鼻を刺した。
「小松くんにあまり迷惑かけるなよ」
笑みは消えた。
腕に這うサソリをこれ以上つつくべきでない。それでも、トリコは聞かずにいられなかった。
「なあ、ココよ。お前は小松とどうなりたいんだ」
小松を悲しませることはしたくない。そのことを理解してもらうために、なぜリンを引き合いに出したのか。それもトリコを相手にして。
返ってくる答えの予想が、トリコの中では半分以上固まっていた。
「……どうって。どうも?」
しかし、返事は予想と違うものだ。
「どうも、ってどういうことだ」
「そのままの意味さ」
ココは頬杖をつく。左人差し指でカツカツと叩く天板を見下ろす目はとても穏やかだ。
「毒人間……今や地球上でいちばん危険な生物たるボクが、“やさしい友人”として小松くんの人生に関わることを許されているんだ。わかるかいトリコ。ボクはじゅうぶん過ぎるほど幸福なんだよ」
ゆったりとまろやかな語り口は、一言一句余すことなくトリコの耳に入った。
ひと呼吸おいて、ココは続ける。
「小松くんが許してくれる範囲を超えた場所は望んじゃいけない。ダメなんだ、これ以上は。ボクの求める幸せは、小松くんの幸せを壊す毒になりかねない」
毒を理由にして無意識下に一線、壁を設けてしまう。未だに変わらないそれは、過去の悲しみはそれほど深くココに根付いていることの証左。
だが、言われたままを飲み込むことを、トリコの喉に引っかかる強烈な違和感がそうさせなかった。
「小松が許してくれさえすれば、お前は」
「人聞きの悪いことを言うなよ。許してくれる範囲をどうこうしようなんて、品のないこと……考えちゃいないさ」
細まった瞼の隙間に、琥珀の瞳がトリコを覗く。
「さっきも言ったように、うちに手を置いて誓うための聖書なんか無いけどね」
言うや、ココはティーポットの蓋を開ける。まだ少し残っているが、いっぱいに傾けてもカップ一杯分の量も無いだろう。
「どっかの誰かさんがこぼしたせいで。さて、ボクはそろそろ夕飯の準備も考えなくちゃならない。言っとくが、お前に食わす分は無いぞ」
「へいへい、わーってるよ。こま──どっかに食いに行くとするよ」
「そう。賢明な判断だ」
相棒への土産を持って、トリコは椅子を立つ。
小松いわく一緒に外へ出て対岸に着いてからも姿が見えなくなるまで見送りしてくれるというココは座ったまま。
「……リンちゃんを泣かせたくない、か……フフ、変わったね、トリコ」
お前が言えることじゃないだろう。瞬時に言い返したくなったが、トリコは振り向かずにドーム型の家を出た。
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「トリコさぁん! 来るんなら事前に連絡しといてくださいよう!」
「ちゃーんとしただろ? 電話一本、今レストランの入口にいるってさ」
「ボクの言ってる連絡は数日前からの予約のことです!! だんだん近付いてきて最後は後ろにいる系のオバケでももっと遠くからスタートしてくれますよ!」
従業員用通用口から出てきた小松と落ち合い、家までの道のりを並んで歩く。食材が尽きることを理由に店側からキャンセルされることになったお客さんに申し訳ないと肩を落とす小松をトリコが慰め、「誰のせいだと思ってるんですかー!!」と消灯した家の比率が多い住宅街に大声が響き、近所迷惑だぞとトリコに諭された小松がぶすくれた顔で口をつぐむ。そんなやりとりをしているうちに、アパートにたどり着く。
「これ、土産の岩石ヒツジの肉な」
ほれっと腕に落として渡すと、小松はずっしりとした重みに玄関口でよろける。
「わっ、とと……ありがとうございます。しばらくはお肉買う必要がなくなりそうです」
いつもなら、使いやすい量に分けて冷凍庫に入れる作業を始めると言って引っ込むのだが、小松は肉を両腕で持ち上げたまま靴を脱ごうともしない。
「どうした小松?」
「ああ、いえ、ちょっと気になってて。いつ聞こうか迷ってたんですが……レストラン来る前、ココさんのとこに行ってましたよね?」
「あ、ああ……行ってたけど」
「やっぱり! ココさんちの紅茶の匂いがしてたから、そうかなーって」
トリコの鼻はヒトの何倍も効く。ひとからすればほんのわずかな匂いであっても鼻に染み付いてしまうのが悩みものだが。
「そんな気になるか?」
「いえ、とっても良い匂いです。トリコさんっぽくはないですけど。ココさんにも岩石ヒツジのお肉あげたんですか?」
「おう。これでメシ作れってな。そういやアイツ料理食ってたっけか……」
「ええっ! トリコさんひとりで全部食べちゃったんすか!? それはひどいですよ……」
「ハントの帰りで腹減ってたからな。ま、慣れっこだと思うぜ」
「決めました。ボク、今度の休みにこれ持ってココさんち行きます。よく考えたら冷凍庫いっぱいだったし、ボクもココさんの料理食べたいので」
「ハハッそうしてやれよ。小松が来るってんならココも喜ぶさ」
そこまで言ってようやく気が付いた。
鼻がいいからこそ、わからなかった。小松でさえも気付くほどの匂いをまとわされていたことに。
血管めがけて毒針を突きつけるサソリは、あの家から小松のところまで、ずっと腕にくっついていたのだ──
「トリコさん、どうしたんですか? 腕をじっと見つめて……」
「ん……ああ、なんでもねぇ」
ココの家で出される飲む物には気をつけろ。流れで忠告しようと考えがよぎったが、トリコは口を閉ざした。
「んじゃ、帰るわ」
「ハイ。おやすみなさいトリコさん」
扉が閉まってからドアノブが上がった。
今のココの目がどこまで視えるのか本人しか知り得ない。こうなることは占いで知っていたか、それとも仕向けたかも、トリコが知るすべはない。
「……サソリの毒は後で効くってか」
確定した小松の来訪を心待ちにして艶めいた笑みを浮かべているだろう、地球上で最も厄介なサソリが居を構える方角を睥睨した。