旅先からのメッセージ「ふむ…どれが良いだろうか」
土産物屋の入り口で、回転ラックにディスプレイされた絵葉書を眺めながら、ヒュンケルは唸った。
種類が多い。とにかく多い。ざっと見ても50種類はあるのではないか。
人気観光地や、この国固有の動植物の写真、先住民の子孫によるアート作品…そして、それらが様々に組み合わさった物…
──《あの人》は一体どれを好むだろうか?
「おい、まだ悩んでいるのか?」
振り向くと、この蜜月旅の共であるラーハルトの、呆れた顔が目に入った。
「すまない。決められなくて…」
「何だって喜ぶだろう。どれでも良いではないか」
そう言うとラーハルトはヒュンケルの目の前の絵葉書を一枚、無造作に取り出した。
「そうだとは思うが…」
ラックに視線を戻すと、目の前に先程まではなかった写真が現れた。
「これは…」
***
土産物屋と同じ区画にあるコーヒーショップで、ヒュンケルはFlat Whiteと書かれたものを、ラーハルトはDouble Espressoと書かれたものを購入し、テラス席に腰を下ろした。
ヒュンケルは飲み物に一口口をつけると、先ほど購入した絵葉書と黒赤二色のボールペンを取り出した。黒いペンで宛名を書き込み、続いて赤いペンで「AIR MAIL」の文字と、送り先の国名を書き入れる。
「ふむ…」
中空の虚空を見つめ、しばし思案した後、サラサラとメッセージを書き込んだ。
「お前も何か書け」
言ってヒュンケルは、ラーハルトへ黒いボールペンを差し出した。
「…この葉書が届くのは、オレたちが帰国した後だぞ。馬鹿馬鹿しい」
「旅先から届く手紙というのが良いのだと言っていた」
まったく面倒なことだ。と溢すと、ラーハルトは文章ではなく、この国固有の腹に袋のある生き物の絵を描いた。
「お前、上手いな…」
「これで良いだろう?オレは早く展望台へ行きたい」
同じ区画にある郵便局で絵葉書を出すと、展望台を目指して二人は歩き出した。
どこまでも続く赤い大地と青い空を眺めながら…
***
展望台からは世界遺産の大岩が遠くに見える。
ラーハルトはスマートフォンを取り出すと、己と伴侶と大岩が入るように自撮りをし、《その人》も含めたグループLINEに写真を送信した。
〈了〉