初めて猫になった日「あなた、良い加減にしてくださいよ。」
自室の扉を開けた晶を出迎えたのは、不機嫌を極限にまで突き詰めたミスラだった。彼は晶のベッドを我が物顔で寝そべりながらも、部屋の主人が帰ってきたからと言って退くこともしない。
ミスラの機嫌に周囲の空気も引き摺られたのか、帰ってきた晶がまず感じたのは寒さだった。この部屋だけ格段に寒さが増している。真っ当な人間なら、いや、この世界を生きる人ならば、不機嫌なミスラに近づくなど正気の沙汰ではない。世の真理とも言うべきそれは――幸か不幸か、晶には該当しなかった。
「すみません、どうしても急ぎの案件が重なってしまって…。待たせてしまって、申し訳ないです…。」
「本当です。北の国なら死んでますよ。ほら、手を握ってください。」
1796