『さようなら、俺だけの君』「初めてじゃない気がする」と君は言って、俺の顔をまじまじと見た。
そうだよ初めてじゃない。でも、今の君にとって俺とのキスは初めてで、ほんとはもっと深くだって繋がっていたのに、それはまだ経験したことのないものだ。
「それは、ボクたちが前世でも恋人同士だったからです」
と、少し冗談交じりに唇の端を片側だけ吊りあげれば、「アホなこと言ってんじゃねぇよ」と笑ってくれたので安心した。
「黒尾!」
「……ハハ、思い出しちゃったんだ」
でもまだ完璧じゃないね。俺のことをその名で呼んでいたのは、今よりもっと過去の話。
「帰って……来るよな?」
「ごめんね」
俺のことを思い出すまでだって約束だから。
俺の方へ飛び込んでこようとする彼を、時間が引き止める。俺を思い出した君は、この俺に触れることは出来ない。
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