ニキマヨ キョンシーパロ『阿瑠果堂奇譚』 邑を囲う城壁の西といえば、まともなものならば近づかない。
日当たりも悪くいつも湿っていて、ここに居着く者はそこしか選ぶことができない者か後ろ暗いことをしている者だけだ。
まだ日は高いはずなのに、どこか陰気な雰囲気が漂い、近寄るものを拒んでいた。
(……思えば……最初から嫌な予感しかしませんでした……)
依頼文を握りしめたマヨイは、目の前の光景を前に立ち尽くしていた。
年の頃は10を半ば過ぎた頃。
紫色の長い髪を緩く三つ編みにまとめた色白の青年は流れるような艶を含んだ目元と口元の黒子が特徴的な美丈夫だった。
髪より濃い紫の飾り気のない長袍と白い褲を履いた姿はどこにでもいる普通の民と思えた。
それもそのはず、彼はれっきとしたこの町の一員で、通りに古びた店を開け、よろず屋の仕事を一人でこなしている。
11029