スラックスをはぎ取られて押し倒され、驚いて間抜けな声が出てしまった。身じろいでも狭いソファの上では逃げ場などほとんどない。腰を掴まれてしまえば、それ以上動くことは出来なかった。ブラッドリー、と困惑しきった声が零れる。
彼が吸血鬼化の呪いを受けたのは記憶に新しい。何がどうしてそうなったのかカインにはよくわからないが、一つだけ確かなことは、今のブラッドリーは血を欲しているということだった。他の者に手を出すところを見逃せるわけもなく、仲間として力になりたい気持ちもあった。だから血を差し出した。ブラッドリーのリクエスト通りに魔女になって。
未だ呪いは解けていない。
今日も声を掛けられ部屋にやってきたのはいいものの、こうして魔女になる前にのしかかられてしまって戸惑ってしまう。
「そんなにお腹が空いてたのか?」
「何でそうなんだよ。俺の腹を満たすために飲んでるわけじゃねえっつったろ」
「でも……」
だったらどうして、魔法使いの姿のままで押し倒されているのか。もしかして呪いが強くなったのかと尋ねれば、問題ねえよと返される。それじゃあ、と質問を重ねようとするカインを制するように、腰をつかまえていた手が腿に下りた。むき出しの肌を指先が滑る。大きく広げられた内腿に湿った吐息が触れて、急に何も言えなくなってしまった。
女よりもずっと固い、筋張った場所に牙をたてられる。
少しの痛みと、苦しさ。だけどすぐに、ぐるぐると掻きまわされたようによくわからなくなる。じわじわ体温が上がっていく。気持ちいいのか嫌なのか、それさえも何も言えなかった。これが呪いの効力なのか、それともブラッドリーに噛まれているからかは何となく聞けないままだ。
息が零れる。
「ぅ、あ……っは」
何かに掴まっていないとばらばらになってしまいそうで少しこわくて、あつくて、手を伸ばした。触れた固い布地をぎゅっと掴む。それでも逃げ場がなくて、爪先が痙攣したように小さく跳ねた。ごくり、と飲み込まれた音が聞こえた気がする。
「ひ、ぅあっ、ぁ……ま、って……」
何かが違う。
されていることは今までと少しも変わりないのに、いままでのように受け止めきれなかった。どろどろに蕩けていくような、熱くて燃えてしまいそうな感触が腹の中を這いまわる。苦しいのに心地よくて、どうにかしたくて首を振った。それでもブラッドリーの唇は離れてくれない。
「やだ、ぶらっ、どり……んっ、ふ……」
もういやだと訴える声は泣いているみたいに情けない。だけどそれを恥ずかしいと思う余裕はなかった。太腿を押さえつけていた指先が、宥めるように肌を撫でた。一瞬ふっと楽になって、すぐにまた熱くなる。服を掴む指先に力が入った。
カインにとって、恐ろしいほど長い時間が過ぎた。もう抵抗する言葉さえも告げられず、熱い吐き出すだけになったころ。ようやくブラッドリーが顔を上げた。やっと終わったと大きく息を吐く。
ぐったりしたカインの姿に、ワインレッドの瞳が楽しそうに細くなった。血で濡れた唇を舌が這う。伸びてきた指先がカインの滲んだ涙を拭った。優しい仕草にほっとして、掌に頬をすり寄せる。小さく笑い声が落ちた。
「まだいけるな」
「……え?」
鈍った頭では咄嗟に拒否できなかった。吊り上がった唇から牙が覗く。無理だと悲鳴を上げる前に、問答無用で突き立てられた。