上書いて 小さな紙袋にスコーンを二つ、それだけ。
祈りは捧げない。作法は要らない。意味がない。
そう、意味はないのだ。ノースディンはある墓をぼんやりと眺める。刻まれる名はあれど、その文字列に意味はない。この下に埋まるものは何もない。この墓標は、ただの置物と同義なのだ。
墓標は、友であるドラウスのものであった。より正確に言えば、ドラウスが人間のふりをして生き、死んだ時のものであった。吸血鬼には珍しいものではない。人界に紛れて生き、時の止まったままの容貌を怪しまれる前に死を偽装して去る。ある程度長命になった吸血鬼には少なからず存在する。ノースディンにも。
己の墓をどう扱うかは各々の考えの違いであった。思い出のひとつとして気にかける者もいれば、一欠片の心もなく忘れてしまう者も。ドラウスはといえば、後者であった。
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