最初で最後の (クク主)◆最初で最後の◆
「エイト、遊びに行かない?」
ラプソーンを倒し、トロデーン城で祝賀会が催された、その翌日。
明後日にはこのメンバーも解散だ。
そんな時、ククールが僕にそう声を掛けた。
「あ、そび?」
「そう。明後日にはオレもここを立つし、最後にぱーっとさ。」
「でも…僕は城の片付けとかあるから…。」
「あ、そこはトロデのおっさんに許可を取ってあるから大丈夫。1日だけ、エイト貸して下さいって言って、OK貰ってる。」
「いつの間に…。じゃあせっかくだし、みんなでどっかいく?」
「あーっと!…ゼシカとヤンガスには先に声かけたんだけどさ、昨日の疲れがあるからって断られた。」
「え?そうなの??」
全てが先回りされた会話に、ほんの少し違和感を持ち、僕はふむ…と首を傾げた。
「そんな訳で2人だけど、ま、いいじゃん。年の近いトモダチ同士でさ。」
「そう、だね。…じゃあ、どっかいく?」
「やり!そうこなくちゃ!」
「あ、待って、軽く準備してくるから。」
ククールに手を引かれ、慌てて静止する。
…ククールは、なんだかとても嬉しそうだ。
ククールを疑う訳ではないけれど、僕は先にトロデ王に外出の旨の確認と報告をした。
彼の話は本当だったようで、それはもう快諾だった。
むしろ、存分に遊んでこいとお金を渡されそうになったので、それだけは丁重にお断りをした。
「おまたせ。」
「おう。じゃ、行くか。」
悩んだけれど、武器は置いていく事にした。
…武器のない身体は、すごく軽くて不安になる。
ククールも小脇に袋を持っているけど、いつものレイピアは置いてきたみたいだ。
「どこに行くの?」
「海と山と街、どこがいい?」
「えっ…じゃあ山。」
「本当、おまえ高い所好きな…了解。」
そう言い、ククールは僕の手を握るとルーラを唱えた。
そのまま、僕達は近場でトラペッタの高い山に登った。
この辺りは旅の始まりの頃に立ち寄ったエリアだ。
当時は景色を楽しむ余裕がなかったけれど、ここは僕的に穴場だと思う。
遠目に海も見えるし、広大な大地も見渡せる。
神鳥のたましいがあれば、もっと素敵な場所もあったけど、ここも十分素敵だ。
「うわぁ…やっぱり綺麗だ。」
「ここで世界の半分は見渡せそうだよな。」
「ね、見て、ちっちゃくマイエラも見えるよ。」
「本当だ…こうしてみると近いようだけど、オレあんまりこっちには来たこと無かったんだよな。」
「僕もだよ。まさかトロデーンから出るなんて思ってもみなかったし。」
「そうだよな。そう考えると、オレ達が出会ったのって不思議だよな。本来は交わる事がなかった運命だ。」
「そうだね。…悲しい事もあったけど、僕みんなと出逢えたのはすごく嬉しい。」
「…ん。そうだな。」
そう言い、僕は近くの草むらに腰掛ける。
ククールも僕の後に沿って、隣に座った。
お天気にも恵まれて、自然の空気がとても美味しい。
「あ、お弁当持ってくれば良かったな…。」
「ふふん。そんな事になるかと思いまして、ほら。」
「えっ!おにぎり!!」
「ま、簡単な物だけどな。聞いといてアレだけど、おまえの事だから、行きたい所なんて海か山だろうなと思ってさ。」
そう言いながら、ククールが黒い手袋を外して、僕との間におにぎりの袋を開く。
僕は思わず見入ってしまった。
「…ククール、どうしよう。僕今めちゃくちゃテンション上がった。」
「ふは!単純〜。」
「これ、君が握ったの?」
「まーな。ちょい城のキッチン借りてな。」
「うわぁ…。やばい。」
「そんな喜ぶと思わなかったんだけど?」
「テンション100だよ。」
「いきなり?おまえ、そんなにおにぎり好きだっけ?」
「違くって。ククールが用意してくれてたのとか、僕の事わかってるなっていうのとか、色々混ざって嬉しいの!」
「…あー、そう?」
ククールが少し恥ずかしそうに口元を隠す。
その珍しい顔をじっと見つめると、みんなよ、と頭を軽くどつかれた。
「いただきます。」
「はい、どーぞ。」
「……んむ、美味しい。」
「良かった。」
「具がサーモンだ!…美味しい。」
「ほら、水あるぜ。」
「準備万端だね。」
「ばか。この位で褒めすぎ。」
「あぁ、幸せ。」
「…ふは。本当、エイト単純〜。」
「そうかな?」
「でも…オレも幸せかも。」
そう言い、ククールが形のいい目を優しく細めた。
…思わず、おにぎりを食べる口が止まってしまった。
そのくらい、彼の顔が柔らかく…とても美しかった。
そのまま、ククールもおにぎりに手をのばし、ゆっくりと口に含んだ。
…急に彼の唇に目が惹かれてしまい、僕は頬が熱くなる。
「…ん、うま。形も綺麗だし、オレ天才すぎない?」
「……ん。」
「…?どしたの?」
「な、なんでもない!!」
そう言い、僕は水を煽る。
…旅の間、ずっと抱えてきた、ククールへの気持ち。
こうしている今でも、答えが出せないままだ。
トモダチ…だと思っていたのに、たまにククールの唇…手のひら…背中がどうしようもなく……愛おしくなる。
一緒にいれば、とても楽しい。
ずっと一緒にいたいと思う。
…でも、僕は男で、彼も男で。
彼をこんな性的な目で見ている。
自分はおかしいのだと、後半はずっと考えないようにしてきた。
…というのも、旅の後半、心が弱った時に、彼から寄り添われたその際。
手を握られ、抱きしめられたり、そっとキスをされたり…スキンシップをされるようになったのもあると思う。
彼からしたら、ただのスキンシップだろうけど、こっちはたまったもんじゃない。
全部が初めてで、ドキドキして、意識してしまう。
するどいゼシカは、僕のギクシャクした態度に気づき、声を掛けて来てくれた。
…そして気づいた。
僕は、ククールの事が、すき。
でも、このすきって、トロデ王や姫、仲間のみんなへとはどう違うのかが分からなかった。
…異性へ抱く、性的なすき?
でも、ククールはトモダチじゃないの?
そこからどうにも前に進まない。
「…エイト?」
「えっ!な、なに?」
「いや、急に黙るからさ。」
「…おにぎりが、美味しすぎて。」
「ウソだろ。」
「ほ、本当だよ。」
「…随分と煽てるねぇ?ま、悪い気はしないけど。」
「あのさ、次は僕がお弁当作るね。また…こんな風に、どっか行こうよ。」
「…ん。そーね。」
そう言い、ククールが僕の頭をくしゃと撫でる。
…その、ククールの言葉の温度で、なんとなく気がついた。
きっと…これが最後だ。
僕とククールが、こうして2人で遊べる時間は、今この時で終わりなんだ。
理由は分からないけど、きっと明後日にはククールはどこかへ行ってしまう。
行き先を僕に言う必要もないんだ。
だって、旅は終わったんだもん。
…もう、彼は自由なんだ。
「…おい、そんな顔すんなよ。」
「………。」
「ほら…おまえはさ、多分…これから色々忙しくなるじゃん。」
「………。」
「聞いたけど、近衛兵長になるんだろ?オレなんかが、気軽に会える身分じゃなくなる訳だ。だから…。」
「…そんな事、ないよ。…いつでも会える。」
「………。」
ククールとの、この距離が無くなる。
あぁ…終わりなんだな。
そんな事ないって今は思っても…現実が、環境がきっと僕らを変えていく。
そして彼は、それをいち早く察している。
だから、今日…僕を誘ってくれたんだ。
色んなことが理解できてきて、急に胸が苦しくなった。
「…わり。そんな顔させたかった訳じゃないんだけどさ。」
「…僕、どんな顔してる?」
「え?…楽しみにしてたお出かけが無くなった…子供みたいな顔?」
「…少し、当たってるかも。」
そう言い、僕は頭をガシガシとかいた。
ぐずっているようで、なんだか気まずい。
…そんな僕を、ククールが覗き込む。
「…エイト。」
「何?」
「キスしていい?」
「え?」
「だめ?」
「……だ、めじゃ…ないけど。」
そう言うと、すぐにククールの顔がふわりと近寄って来た。
そのまま、啄むようにククールの唇が触れる。
僕はゆっくりと離れていくククールの顔を目で追った。
「…あのさ。…なんで、ククールは…僕にこーゆーことするの?」
「ん?嫌だった?」
「…嫌…じゃないけど。」
「そっか…良かった。」
そのまま、ククールが僕の頬に左手を添え、愛おしそうに頬を撫でる。
…僕の心臓がドクドクと動いた。
「ねぇ…なんで?」
「うん…なんでかな。」
「………。」
「エイトが、寂しそうだと…したくなるんだよな。」
「それは…慰めてるって事?」
「ん…そんな感じ、かな。」
「……そっか。」
その言葉に、僕はがっかりしていた。
…ククールの中に、僕の事を好きだという気持ちがなさそうだったからだ。
ククールは、僕の事をトモダチとして接している。
ただの慰め。
僕のすき、とは…きっと違う。
(…これで、はっきりした。)
ククールへのこの気持ち、もう考えるのは辞めよう。
今ここで、蓋をしてしまおう。
もう、止めてしまおう。
丁度良かったじゃないか。
明後日には、彼と離れる。
きっと、これからは会う努力をしない限り、会う事もない。
だから、最初で最後に…。
「…ねぇ。」
「ん?」
「…もう一回、して。」
「……っ。」
ククールはそれは驚いた顔をした。
そりゃそうか、僕から求めたのは初めてだったもんね。
ククールは、そのまま少し寂しそうに微笑むと、再びふわりと僕に顔を近づけた。
気持ち、ゆっくりとしたキスだった。
「…エイト。」
「ククール…今までありがとう。」
「………。」
「僕、これからも頑張るね。」
「……うん。」
そう言い、僕は笑った。
その後、山のてっぺんで2人でゴロンと横になり、たわいない雑談をした。
あっと言う間に日がくれて、僕達は城に帰ってきた。
ククールとの気まずい空気は、あの2回のキスで終わり。
その後は終日、普段通りのトモダチの空気だった。
「は〜楽しかった。ククール、誘ってくれてありがとう。」
「こちらこそ。急で悪かったな。」
「そんな事ないよ。今日明日は城でゆっくり休んで。明後日は気をつけて出発してね。」
「ああ。ここを出る前、おまえの所に顔出すよ。」
「うん。」
それじゃあ、と僕はそのまま兵の宿舎に向かう。
…明日から、忙しくなるぞ。
城の立て直しに、新しい立場の仕事も覚えなくては。
そんな僕の背中を、ククールはとても悲しそうな顔で見送っていた。
…振り向く事をしなかった僕は、一生気づく事が出来ないけれど。
ただ、そこには新しい風が吹いていた。
【完】
…はい。
これが黒羽クク主の分岐です。
この後、竜神王√に進むか、このまま交わらない運命になるか。
エイト君の中で、すでにククは9割を締めていたのに、ククの事を人として愛しているという気持ちに気付けず。
(親友+αくらいに思ってる)
ククに対しても、ククはプレイボーイだし、慰めで人抱ける位のイメージがあるので、自分の感情と同じものを持ってると気付けず。
だめだこりゃ、と、エイト君が気持ちに蓋をした瞬間。
ククは、オークニスイベント(ポイピク小説)から、すでにエイト君の事好きだと自覚してるけど、エイト君は姫との未来があると思って、はっきり口には出さない。
(めちゃくちゃ態度には出ている。)
おにぎりの時も、
こんだけ寄り添っておいて、ちゅーしておいて、慰め…??
なわけねーだろ!!!
エイトのばか!!鈍感!!
好きすぎて、おまえの事余裕で抱けるわこっちは!!!
なんなら脳内で何回も抱いたわ!!
今すぐにでも攫って行きたいの、我慢してるわ!!!
好きって言いてーーーーー!!!
ってなってる。
完全なる両片思い。
で、もし竜神王√に進んだ場合、
2人でこの時の事思い出して話してほしい。
エイト君に、
あの時のおにぎり、後半はしょっぱい味がしたんだよ…笑、
とか言ってほしい。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
2022.10.08 黒羽