きみはぼくの、“大事な人と一緒に行きたいBEST SPOT”
ビリーくんが見ている雑誌の表紙には、賑やかな色でそんなキャッチコピーが踊っている。
その横顔はいつになく真剣で、ただ流し見という感じではなく、実際に誰かと行くことを考えているように思えた。
ゴーグルを上にずらし、綺麗な青い瞳を釘付けにして、時折ひとり頷く。
彼にこんなに熱心に考えてもらえる幸運な相手は、誰なんだろう。
少しだけ、いや、かなり羨ましい。
「ねーねー、グレイ。ちょっとコレ見て」
「!う、うん」
「コレとコレならどっちがいい?」
「…えっと」
どんな人なのか、とか、どこで知り合ったのか、とか。
意見を言うついでに相手について聞けるところなのだが、聞きたくないと思ってしまう。
ビリーくんが僕の知らない人と特別な時間を過ごすことを想像したくない、なんて。
単なる友達にしては踏み込み過ぎだろう。
「グレイって絶叫系いけるっけ?」
「うん、どちらかというと好きかな」
「俺っちも大好き!それなら、もしよければこっちにしない?」
「いいね、楽しそう」
ワーイ、決まり、と喜ぶビリーくんを見ながら、何かおかしいなと首を傾げる。
これじゃまるで自分も一緒に行くみたいだ。
「…あの、ビリーくん、大事な人と行くんだよね…?」
「ん?」
「それなら、僕は一緒に行けない…よね?あの、邪魔になると思うし…」
「んん???」
あれ?僕、何か変なこと言ったかな?
何故かビリーくんも首を傾げている。
暫しの沈黙の後、雑誌の表紙を見て、ああ、と納得したような声が上がった。
「俺の大事な人はグレイなんだケド」
「ふえ!?」
「あれ?ていうか、今度の休みに遊びに行くところ決めよって初めに声かけたよネ?」
「え、そうだっけ…?」
「あー!グレイ、聞いてなかったんだ、ゲームしながらだったもんネ~」
「…う……ご、ごめんなさい…」
頬を膨らませたビリーくんは怖いというより可愛いけど、そんなことを言うと本当に怒られそうなので黙っておく。
それよりも。そっか。大事な人って、僕のことだったんだ。
にやける口元が抑えられない。
ルームメイトで、チームメイトで、初めての友達で、大事な人。
今は少し不満げにこちらを見るビリーくんが、いつも以上にきらきらして見える。
「…本当にごめんね。僕にとってもビリーくんは大事な人だからどこでも嬉しいんだけど、一緒に絶叫系乗りに行きたいです」
「ホントに~?ゲームよりも俺っちが大事?」
「も、もちろんだよ!!」
勢い余ってゲーム機を放り出し、代わりにビリーくんの両手を握ると、漸く笑顔になってくれた。
「もう、しょうがないなー許してあげるヨ」
「あ、ありがとう…!」
「そしたら改めて、絶叫系制覇ツアーの計画立てよっか」
「…うん!」
二人で覗き込んだページには、沢山の乗り物が紹介されている。
ふと、選ばなかった方の紹介ページにも目が行って、良く見ればムード満点のデートスポットのようだった。
いつかそっちにも二人で行けたらいいな、とこっそり心の中にメモを取っておいた。