正直、無理ゲでは?
一言がすぐに思い浮かんで、頭の中がいっぱいになる。イデア・シュラウドは目の前のチェスの駒を指でつまみながらぼんやりと盤面を見つめた。
チェックまではあと数手といったところだろう。白と黒が交互に敷き詰められた盤面を見ながら、こっそりとため息を吐き出した。
「アズール氏、長考しないよね」
対戦相手の名前を呼ぶと、彼は手袋で包まれたままの指先を動かす。チェックです、と静かなコールの音に、思わずイデアは聴いてないっすな、と早口にぼやいた。
「それはイデアさんこそ同じでしょう。どうぞ。僕の予想が正しければ、あなたはあと2手先でチェックですけれど」
「うっわ趣味わる…別にいいけどさあ…」
アナログなボードゲーム上を挟んで、ようやく彼と一対一での会話ができる。後輩のアズール・アーシェングロットとは真逆で、イデアはコミュニケーションをとるのがどこまでも苦手だ。必要性すら感じていないと言ってもいい。
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