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    tottoripiyo

    @tottoripiyo
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    tottoripiyo

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    耳が良いあの子の話。

    #創作
    creation
    #オリキャラ
    original characters
    #設定メモ
    setupMemo

    「ウサギくん、やはり私は思うんだ。教える者は教える事柄以上に、教えられる者のことを知る必要があるのではないかと」

     すっかり慣れてしまった、研究所のある一室にて。そんな前置きの後渡された一冊のノート。しかも新品の黒いリングノート。悩み事の解決策として提案があるといわれたかと思えば、碌な説明もなくそれを渡されて。不思議そうに思う僕に対し、声がまたかけられる。

    「だから、そのノートに最低1ページ。君の担当する生徒のことを書き記して見てはいかがかな。
    ただし、資料を閲覧して手に入るものだけではいけない。君自身交流して、思ったことも書くんだ」

     いつだってこの人は難しいことを言ってくるけれど、今回は特にそう思った。交流がうまく出来ないから悩んでいるのに、交流をしろだなんて。でもそんな屁理屈をごねたところで結局、言わされるまでこのやり取りは続くということを、僕はもう嫌というほど経験をして、そういうものであるという認識もしてしまっていたのだ。
     でも、そんな押し通す姿勢なんかよりも恐ろしいのは、目の前の相手に、この心の声すべてが聞こえている可能性があるということだろう。

    「……わかりました」

     諦めたように返事を返してみると、満足そうにうなずく相手の姿が見えて。そしてノートを手に取る僕の気持ちは、先行きが不安すぎるということ。

    「いい報告を期待しているよ、ウサギくん」

     目を細めて微笑んでくる相手に対して、こちらも思わず目を細めながら、はいと頷いて、その日の相談会は無事幕を閉じた。
     人に悩みを話すというのは案外疲れる。そんなことをした日に書けるわけもなく。それでも取り敢えず、できることなら情報が多くそろっている、学校で書こうということだけは決めていたのだけど。

    「はぁ」

     そうしていま、目の前にはノートがある。まだ何も書かれていない、まっさらな記録帳が。でも彼女は言っていた、閲覧で手に入るものだけではいけないと。だけではということは、それを書いても特に問題はなさそうだ。屁理屈に聞こえるかもしれないけれど、今あの人はここにいない。
     もう半月以上は勤務していて分かったことだ。この学校では、ファイリングされたデータを持ち出すことに対して、特にセキュリティ的に特別な許可を求められることもない。教員たちや指導員たちに対して、絶対的な信頼がこの学校内には存在するのだろう。
     そういった面では、かつて僕たちがいた街と比べて、甘い、甘すぎる。

    「んー……」

     だからこそ学校で書こうと思った訳なのだけれど。こんなに手軽に充実した情報を手に入れられるのは、この能力指導員という立場に立たせてもらっているからこそだろう。感謝しかない。その分夜の仕事の面倒を見たり、能力のことを多少教えてあげたりと、一筋縄ではいかないけれど。
     そんな風に考えながら資料とノートを交互に見て、目ぼしい記述があればペンを動かして数十分。書いてあることもあらかた写し終えて、ぼんやりとしながらもペンを動かしていたら、偶然にも彼女はやってきてしまった。

    「ウサギ、何書いてんの?」

     がらがらとドアか開かれる音がしたかと思えば、今まさに書いていた彼女が、愉快そうに口を開きながら、尚且つ僕の目の前にいる。
     青みがかった黒髪は肩につくかどうかぐらいで、黒いジャケットに黄色いパーカー。短めのスカートにニーハイというのは、年頃の女の子にとっては何でもない格好なんだろうか。そして疑問の色を含ませながら、こちらに向けられた黄色い目。それは僕にこんな難題を出してきた、あの人にそっくりで。

    「君には関係のないことですよ」
    「ふーん、相変わらず敬語なんだね、ウサギ」

     にこりと作り笑いをするこちらもお構いなしに、距離を詰めてくる彼女のショートヘアーが少しだけ揺れる。けれども何よりも、彼女を特徴付けるのに欠かせないのは、首元にかけられているヘッドホンだろう。僕は全く音楽やら音質やら分からないけれど、素人目に見てもそのヘッドホンは、耳当てで終わらせるのには少し勿体ないように思えた。
     でもそんなことを深く思案している暇はない。完全に近づかれる前に資料を見えないところにやって、開かれているノートに目線が到達する前に、静かに閉じた。

    「だって、君たちと僕は違う立場だから」
    「あとは警戒心?そうだよね、あたしに大事なお話、盗み聞きばっかりされてるし。ヒロム達はあんなの。おまけに大問題児の白雪までお抱えで」

     皮肉げに言いながら、目を細めて笑うその姿は、見方によっては少し少年のようにも思えるかもしれない。実際、女の子に声をかけられている姿もたまに見る。でもこの子は、そんなわんぱくいたずら少年よりもタチの悪い、冷静で皮肉屋、傍観者を気取る意地悪少女だ。だから正直、僕はこの子が苦手、かもしれない。
     もっと苦手な人間だっているけれど。でも一ついえることは、この子がもし自分の生徒でなければ、先ほどの文言からかもしれない、が消えている可能性があるということだ。

    「聞こえない部屋でしていないから、それほど重要ではないお話だけど」
    「それでも盗み聞きは感心しないって、この前あんた言ってきたよね」
    「覚えているのなら、尚のこと守ってほしいのだけれど」
    「えー?」

     どうしようかと言わんばかりに目を細める。そしてその先にはノート。本当に意地悪な女の子というのも最もではあるが、こんなところで弱みを見せてしまった僕も僕だ。
     うっすらと若干眩しいぐらいの橙が差し込むこの空き教室……というか、どちらかというと準備室のようなところで、バレたら何か言われそうなものを書いていたのは、やっぱり失敗だった。

    「あたしからしてみれば、声を出してるあんたが悪い。
    やましいことをするんだったら、もっと誰にもばれないところでやらないと」

     ヘッドホンを軽く手で触りながら、彼女はさも当然のごとく言ってみせて……ハッとした。声なんて本当に少ししか出していないはずだ。ため息と、考えていたら出てしまったうめき声ぐらい、たったのその程度だったはずなのに。それを聞いてわざわざこちらに来たのだろうか、だとしたら、この子は相当暇を持て余しているに違いない。
     彼女の特徴である赤色のそれは、前述のとおり、耳当て……つまりは彼女の能力を抑える役割も持っている。でも耳の良くなる能力というだけで、心の声は聞けない。それで本当に助かった。母親の方だけでも抉ってくるのに、娘であるこの子に僕の心の声なんか聴かれてしまった暁には、つつきにつついてくることだろう。

     ……ところで。
     夕暮れ教室。ヘッドホンを軽く押さえて、小首をかしげ、悪戯っぽく微笑む彼女は大変画にはなっていたのだけれど、一つ気になることがある。

    「やましいこと、というと」
    「んー……こっそり女子生徒を連れ込んで……」

     と、人差し指と人差し指を合わせるようなしぐさ。正直どういう意味なのかは分からない。でもにまにま、というほど歯を出してはいないものの、高校時代から悪友に笑われてきた身としては、それがあまりいい意味ではない笑みであることは容易にわかる。つまりはそのハンドサインも、あまりいい意味ではない。
     ……だとしても。今回は君からここにやってきたんでしょうに。もし本当に僕が狼だったら、この子はどうするつもりだったんだろう。たぶんこの子じゃ僕の腹は裂けないだろうし、食われることを望んでいるようにも思えない。

    「まぁ……ウサギは女運なさそうだしなぁ、捕まえる側というより、変な女に捕まっちゃいそう」

     冗談だよとまでは口には出さず、手を頭の後ろにやりながら、特に表情も変えることなく言ってくる。何が悲しいかというと、それを強く否定できない。今この状況はまさにそうだ。
     別に彼女のことを変な人と言っているわけではなく、僕が捕まってしまったということを言いたい。きっと僕が狼じゃないということを、彼女は確信しているんだ。
     とはいえ、このままではやりたいことが出来ないまま、夜を迎えてしまいそうな気がした。今すぐに書き上げろとも、やらないと痛い目を見るわけでもないのだけれど、生きる上でそれほど重要ではない面倒ごとは先に片づけておきたい、特に、仕事なんかある日には。

    「……無駄話したいだけなら出て行ってもらいたいのだけれど」
    「すぐ怒るし」
    「卯木さん……」
    「すぐ困った顔するし」

     気付けば机に座られていた。少しだけ軋むような音を立てながら、振り向きがちに言われる。一石を投じてみたものの、それは全く効果がなかったみたいだ。行儀が悪いのも勿論のことだけれど、ああいえばこう言う、それが卯木沙耶(ウツギ サヤ)という少女だ。勿論、気分が乗ってくれている時限定ではあるけれど。それで僕を揶揄って楽しむんだから、母娘揃って、本当にとんでもない。

    「じゃあ、話をかえようか……神屋敷さんとは最近どうかな」

     ただ一つ、もしあのページを書くに至って必要な行為を取材と称すのなら、それとは別の方面で気になっていることはあった。この子は僕の生徒のうちの1人と仲があまり宜しくない……らしい。よくわかっていないのは、僕がこの部隊を引き継いで、まだ間もない時期だからだ。資料には目を通したけれど、それが全てというわけでもないと僕は思う。
     そしてもし本当に仲が悪いというのであれば、チームワークという観点において大変な欠点で問題だから、早々に解決したいところではある。夜の仕事は基本的に団体行動だ。秩序を乱すような人間はそこに必要ないけど、だからといって切り捨てるのも酷な話だ。

    「白雪とは普通だよ、いつも通りに仲悪い」

     肩を竦めながら出てきた一言で状況を表すのなら、まぁ無理だよね。といった回答。仲良くする気も相手から見えてこないし、ならそれを踏まえた上での立ち回りを要求される。それは生徒だけではなく、僕自身に対しても。
     なんて、口で言えばとても簡単ではあるけれど、件の問題児である神屋敷白雪(カミヤシキ シラユキ)さんに関してはかなり特殊で、場合によっては義務を放棄すると言った多少のわがままも通ってしまう。それが全ての観点を置いて並みをずば抜け、貴重な能力者として認められた人のみが到達できる、能力者最高地位であるSランク様最大の特徴であり、最大に厄介なところでもある。

    「それに、どのみちあいつ、夜来ないでしょ」

     何処からか聞こえたカラスの声の方を見やりながら、あきらめ気味に零す彼女の表情は、前下がり気味に切られた黒髪に阻まれて見えないまま。そして事実僕はまだ、夜の活動中にあの子を見たことがない。実は案外恥ずかしがり屋で、なんて展開も期待しているが、その値は1ミリ程度といったところか。
     大人だけでなら兎も角、まだ未熟な面も見受けられる学生たちだけでの巡回は危険を伴う。能力的にもランク的にも、彼女がいれば心強いとは思うのだが、協力してくれなければ何の意味もない。それを解決するためにも、僕たち能力指導員は存在している。そのために必要なものはやはり情報だろう。
     ペンの後ろで机を軽くつついて、そういえばとおもったことを聞いてみる。

    「卯木さんは彼女のことを、どの程度知っているの?」
    「どの程度って、別に何にも」

     期待していた返答とは全く違うものが返ってきた。そう答えた彼女は別に何ともなさそうだが、もしこれが興味すら持っていないということなら、かなり不味い状況ではあるだろう。もう少し何か聞き出せないか、斬りこんでみる。

    「あれ、そうなんだ。喧嘩してるから、何か気に入らないところでもあるのかと」
    「……つまり、ウサギにとって喧嘩をする理由の一つは、気に入らないことがあるから、ってこと?」

     そう簡単には話してくれないとは思ったけど、そこで若干引かれるのは正直予想外だった。でもそんなものだと思う。たとえば僕が弟と喧嘩する理由は、彼に気に入らない部分があるからに違いない。そうでなかったら、喧嘩するはずがない。たった一人の家族なんだから、もう他には何もないんだから。
     そもそもの話、動かないからと電子レンジを殴って直そうとするような弟に、気に入らない部分が無いわけがない。昼下がり、説明書も読まずに拳を振りかざす姿がフラッシュバックする。もう少し早く来ていれば、あの子は傷つかずにすんだのかななんて……ところでお前は何歳児?と言わずにはいられない。

    「まぁ、喧嘩なんて物騒な事するんだから、ね」
    「ふーん……」
    「どちらかというと、気に入らないと思いそうなのは、神屋敷さんの方だと思う」

     そこでようやく、僕たちの波長は一致したみたいだった。でもたしかに、なんて笑いあうのは、少しだけ悪い事をしている気持ちになる。こんな風に、いない誰かの話をして笑うなんて、やっぱり間違いなく悪いことだ。でも神屋敷さんも中々いい性格をしていると思うし、僕たちだけが悪ということでもないだろう。

     ここまでの様子で再度確認ができたこととして、卯木さんはあまりいい子じゃない、むしろ性格は悪い方だ。でも彼女はとても聡明で、勘がいい。そういうところは、できない人からは気に入らないと思われがちだ。神屋敷さんができない人に属するというのは、あまり人聞きの良い話ではないから、僕は彼女のことを、できてない人と思っている。

     でもそのできていないというのは、やろうと思えば出来るということにもなる。そうだ、出来るはずなんだ。普段あんなに猫を被って頑張ってくれているのだから。その程度のことができないはずがない。だからこそあの子を上手い具合に丸め込んで、夜の活動に参加させたいというのが、密かな野望だ。

    「あー、で、そうだ。それとは別に本題があって……今日ってあたし達どこだっけ?」
    「まさか、それを聞きにきただけだったの?」
    「建前でそう言っとけば、聞こえがいいでしょ。ま、嘘じゃないんだけど」

     反対に僕は、この子に丸め込まれないように気をつけなければいけない。別に丸め込んできて悪いことをやらせてくるような子では無いと思うけれど、揶揄いの道具のままというのは、僕自身の立場上絶対に嫌だから。物理的な悪戯は、まだ大本を絞めてしまえば恐ろしくはないけれど、精神的な悪戯というものは、完全に対処できるか怪しい所ではある。
     でも、そんな子にも頼られるというのは素直に嬉しい。だから僕は、今日も張り切って先生らしいことをする。

    「今日の僕たちの担当は……」

     ふと、説明するために必要なものを取り出そうとした際、机の上のそれの存在を思い出す。もうこれはしまってしまおう。みられて困ることしか書いていないから。鞄の中にさえ入れてしまえば、僕の勝ちだ。同時に、鞄の中の書類にも用があるし。

    「……そっか、ありがとね」

     クリアファイルから目的の紙を取り出し、見せながら説明すれば、軽くうなずいて、軽くお礼を言われる。頭を下げるとまではいかないものの、表情は幾分か柔らかくなっている。
     こういう時の彼女は飲み込みが早い。仕事と休み時間、オンオフがしっかりできるというのは、大きな長所だ。僕の部隊内のある人物と違って、そういう話を聞いている時に落ち着かない様子になる気配もないし。それ以外の長所は、お礼をちゃんと言えるところ、とか?あと、正直ものなところ。

    「どういたしまして」

     とはいえ、これでこの子との話はひと段落ついたはずだ。でももしまだ何かあったとして、後から聞かれるのは効率が悪い。答えてもらえるのかは別として、一応確認をしてみることにする。

    「じゃあ……もう用はすんだ、よね?」
    「うん、済んじゃった」
    「……」

     素直にあっさり答えたのだから、建前上の目的はこれでお終いらしい。訪れた沈黙を破ることなく。笑顔を浮かべながら、僕は黙り込んでみる。目と目が遭いながら、やがて相手は少しだけ眉をひそめて。そうして口を開いたのは、彼女の方が先だった。

    「……なに、出てけって?」

     居心地の悪さを感じてそうな口ぶりで、腰に手を当てながら。少しだけ納得のいかなさそうな視線を向けてくる。

    「別に何も言ってないよ。でも、そう見えたのならそうかもしれないね?」

     そう返せば、小さくため息。もちろん軽い冗談のつもりだ。向こうだって散々言ってきたんだから、少しぐらいお返しをしてもいいだろう。それに、1人になりたい気持ちも無いわけじゃなかった。書かなきゃいけないものもあるし、情報の整理もしたいし……何より少し疲れたんだもん。

    「まぁ、目的は済んだし」

     ジャケットのポケットに片手を入れて、首の後ろに手をやりながら、仕方なくと言うように口に出すその姿は、やっぱりどことなく男の子っぽさがある。それは男である僕がそう感じるのだから、間違いのない感想なんだろう。

    「じゃあ卯木さん、今夜は宜しくね」
    「はーい」
    「うん、いい返事」

     素直なときは本当に素直だ。ずっとそのままでいてほしいものだけれど。そんな相手は少しだけ何かいいたげな表情をしたあと、僕から離れて、教室のドアに手をかける。
     と、そのままがらがらドアを開けるかと思えば。

    「……あんたって、友達いなさそう」
    「え?」

     呆れ気味のその一言に、思わず声が出てしまった。そうして言われたことの意味について考える。まぁ確かに、友達らしい友達というのは、僕の人間関係上では思い当たる節がなかった。

    「じゃあねウサギ。また今夜」

     そんな僕を他所に、次には微笑んで、小さく手を振って彼女は去っていた。それはそれは大きな疑問を僕に抱かせたまま。
     友達いなさそう。という言葉、何だか懐かしいような、それでいて腹立たしいような気持ちになるその一文。過去を振り返ってみる、果たしてそんなこと、言われたことなんて……。

    『ウサ公は友達いなさそうだよなぁー。顔に出なくても言葉に出るんだよなぁ、お前の負のオーラ!』

    ……。

    「……あった」

     あぁ思い出してしまった、それは憎い憎い悪友の声。何度散々な目にあわされたか。そんな彼に散々な思いをさせたのは、おそらく僕の方なのだけれど。あれを青春時代と語るには汚れすぎている。
     仕方ないとは言え誰かの大切なものを壊してしまったり、皆が一致団結する中邪魔をしたりとか。そんなことばかりしていれば、友達がいなくなるのも必然なのかもしれない。必然なのかもしれないけれど……。

    「……はぁ」

     いや、別に、ただ生きるのに人間関係は重要じゃないはず。社会的なことを考えれば、とても大事な世渡りの手段ではある。事実向こうの方ではまだマシな人間関係を築けている。こっちは最低限でいいはずだ。知られると面倒くさいというか、こじれそうなことだって抱えているわけだから。
     でもそんなことより。幸か不幸か、どちらともつかないが、一応課題であった部隊の子たちとのコミュニケーションは取ることができた。そのコミュニケーションの際、もう一つの課題でもあった彼女のことを、改めて確認することもできた。今この時に書かずしていつ書くのか。この感情がなくならないうちに書いてしまおう。
     折角しまったものをまた取り出して、ペンを握って走らせる。思った通り、見た通りのことを書いていくうちに、僕は少しだけぼんやりと、胸に抱いたものがあった。

     それはまぁ、別に些細なことだ。些細なことではあるけれど、案外僕には刺さったままの様で……出来ることなら改善したい。確かに弟とばかりくっついているのは、世間的にはどうなんだという気持ちはあるし。

    ……友達、つくらないとなぁ。

     夕暮れ小さな1人きりの教室で。ぱたんと閉じたノートには、まだ真新しさが残っている。
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