放課後ティータイム 仮免補講は実技だけでなく座学の課題も出る。
日曜は母親の病室に面会に行きたいので普段の学業との兼ね合いを考えると実技で疲れた身体に鞭 打って土曜の夜に仕上げる事となってしまう。
土曜の夜は只でさえ疲弊しいる所に頭もフル回転で使うので轟は寝る前に小腹が空いて仕方なかった。
部屋に菓子などを買い置く習慣などなかったのでせめて何か甘い飲み物でも飲もうと一階の談話室にある自販機に向かおうと部屋を出た。
すると、夜半にも関わらず隣の砂藤の部屋から何やら甘いいい匂いがして来たので思わず足を止めた。
甘くて何か濃ゆい?あったかいうまそうな匂いがする
足元の非常灯だけがついた暗い廊下に縫いつけられたかの様に轟が立っていると砂藤とは反対隣のドアが開いた。
「おわっ!轟なにこんな暗い中突っ立ってんのよ!」
「お、瀬呂か悪い。脅かす気はねぇんだ。自販機に行くつもりが何かすげえいい匂いがしてきて動けなくなっちまって……」
驚いた瀬呂に轟が軽く謝って理由を説明した。
「あらら〜轟も?俺も寝ようと思ってたらいい匂いして来て何か小腹空いて来ちゃってさぁー」
「おぉ、瀬呂もか」
「そうよそうよ、俺の部屋でも匂うから轟なんてもっとでしょ?コレは異臭問題で砂藤に抗議だね!」
「え?いい匂いではあるけど異臭騒ぎってほどじゃねぇぞ?」
「いいやぁ、健全な男子高校生が土曜の夜に嗅がされていい匂いじゃないのよコレ!断固抗議すべきよ?さぁ一緒に行くぞ轟!」
「え?え??」
悪ノリした瀬呂に言いくるめられるまま轟は砂藤の部屋に突撃する事になった。
「コラァー!砂藤!!こんな時間にこんな凶悪にいい匂いを5階に充満させてんじゃないよ!現行犯逮捕だぁ!」
「だ、だあ……」
成り行きで砂藤の部屋に押し入った轟は取り敢えず瀬呂の真似をした。
「おわっ!突然入ってくるなよお前ら。てかそんなに匂い漏れてたか?悪いな。シフォンケーキで余らせてた卵黄傷む前に使いたかったけどA組の皆に振る舞うほどの量じゃないから取り敢えずちょっとだけカスタードプリン作ってたんだわ」
驚きながらも2人を招き入れてくれた砂藤は黒い鉄板に乗った四つの小さな器に入った黄金色のプリンを見せてくれた。
「おぉー!何コレうまそうじゃない!!」
「本当だな……
ぐきゅるるるるぅ〜〜〜
瀬呂の言葉に賛同しようとした轟の言葉は途中空腹を訴える大きな腹の音に掻き消された。
「ブフッ!俺この時間に四つも食えないし良かったらお前らも一緒にどうだ?」
「プププッ……そうね、そう言ってもらえるなら御相伴に預からして貰おうかな?あっ、飲み物用意するよ?八百万程じゃないけど最近お茶に凝ってんのよ」
「うぅ、食わせて貰えるならありがてぇけど俺何にも用意できねえけどいいのか?」
「なら轟の部屋で食わせてもらってもいいか?俺の部屋レンジとか製菓用具で手狭でさ。お前の部屋座卓あったよな?」
「あぁ、あるぞ!座卓真ん中に置いたら皆で寛いでお茶できると思う」
自分は何も用意できないのにいいのだろうかと落ち込みかけた轟だったが自分にも提供できるものがあったと嬉しくなり悔い気味に応えた。
そんな普段とは違う轟の様子に砂藤と瀬呂は一瞬驚いたけれどすぐに微笑ましくなった。
「よーし!ならDKで土曜の夜にお茶会しちゃいますか!」
「ハハッJKなら可愛かったんだけど俺らじゃ絵面がキツくねえか?」
「DK?JK?ってなんだ??てかお茶会はよく分かんねえけど3人だけで夜にお菓子食べんの何か悪いことしてるみたいでちょっとドキドキしちまうな」
表情が劇的に変わるわけではないがはにかむ様な控え目ではあるが普段表情の乏しい轟が喜んでいるのが確かに分かる表情に砂藤と瀬呂は何かあたたかい、父性だか母性だか分からないが如何ともし難い庇護欲が溢れるのを感じた。
「四つあるから轟が二つ食っていいぞ」
「え?いやそこは作った砂藤が2個食えよ」
「本人が言ってるからいいよ。それにホラ、轟仮免補講受けてんじゃん?俺らは気にせず沢山お食べ」
場所を提供しているとは言え何だか妙に優しい顔をした2人に毎週土曜の夜にお菓子やお茶をごちそうされるのが轟の習慣になったのだった。